第71話 酒場にて
「1つ聞いて良いか?」
「何だい?」
店仕舞いをして、ティノの隣の椅子に座った店主は、ティノのコップに酒を注ぎつつ話しかけた。
「何でそんな事を俺に話したんだ?」
店主は当然の疑問を口にした。
「ん~……、まずあんたに元冒険者か聞いたけど……、違うだろ?」
店主の質問に、ティノは店主のこれまでの振る舞いや言動から、ある考えが浮かんでいた。
「……どこで気づいた?」
バレないようにしていたつもりだったが、ティノに気付かれて店主は思わず問いかけた。
「そりゃ、分かるよ! 引退したにしては、放った殺気がまともじゃ無かった」
そう、店主は隠しているつもりだったのだろうが、ティノの長年の経験からしたら、あの殺気で丸分かりだった。
「それだけじゃない。オルランドの名前が出た時、表情に怒りが混じってたな? ……もしかして、あんた反乱軍か?」
“ピクッ!”
「…………あんた、本当に何者なんだ?」
ティノが言った反乱軍とは、帝国に潰されたミョーワ王国の軍人などが、かつてのミョーワを帝国から取り戻そうと、密かに集まり期を伺っている集団である。
反乱軍の仲間でもないティノが、その事を知っている事に店主は一瞬声を失った。
そして、話せば話すほどティノの事が理解できず、店主の背中には冷たい汗が流れた。
「……取りあえず、反乱軍のメンバーで合ってるかな?」
「……あぁ、副リーダーをしている。っで……、あんたは?」
ティノは店主が反乱軍で結構な位置の人間だと知り、内心少し驚いていた。
「一応敵ではない。リンカン王国内で最近ちょっとした事があってな……」
しかし、その驚きを顔に出さず、ティノはここに来た理由を話し出した。
「……トウダイの事か?」
「情報が早いな……、その通り、そのトウダイの関係者だ」
これには表情に出して驚いた。まだ帝国側には知られていないと思っていた為である。
「……その関係者が何しにここに来たんだ?」
「オルチーニ家の嫡男の首をオルランド将軍にあげに来た」
店主の質問に、ティノは簡潔に答えた。
「会って貰えるわけないだろ? 門前払いにあうのが落ちだ」
ティノの答えに、店主は正論を返した。
店主の言う通り、砦の中には帝国軍人でない限り入る事は不可能である。
更に、例え中に入れたとしても、理由なく将軍に会うことなど出来る訳がない。
「それは大丈夫……。それより、反乱軍には良い話だと思わないか?」
ティノは、運良く反乱軍の人間に会えたので、これ(反乱軍)を使わない手は無いとある提案をする事にした。
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ロメオとリナルドの決着は、すぐに着いた。
「ぐっ! 参った」
「勝負あり! 勝者ロメオ!」
片膝を突いて座り込んだリナルドが、降参の言葉を発し、ロメオが勝利した。
2人とも身体強化が使えるのは同じだが、連度が違ったようだ。
武術の攻防は互角だが、身体強化による魔力操作で差が出て、先に魔力が尽きたリナルドが降参するしかなくなってしまったのである。
「……お前スゲエな! もうちょっと長引いたら俺もヤバかったぜ!」
勝ったロメオは、純粋な称賛の言葉と共に、膝を突いているリナルドに右手を差し出した。
「……君もね」
差し出された手を握り、立ち上がったリナルドは笑顔でロメオに言葉を返した。
「次! 7番集合!」
「僕の番だ」
ロメオ達が客席に戻り、ようやくマルコの番になった。
「おっ! マルコ、頑張れよ!」
「うん!」
マルコの側に戻ったロメオの励ましを受けつつ、マルコは階段を下りて闘技場に入って行った。
「まさかこんな早くお前と争う事になるとはな……、本気でいくから覚悟しろよ!」
マルコの対戦相手は、食堂で会った入試試験の次席のヴァスコだった。
「……よろしく!」
鼻息荒いヴァスコに対して、マルコは苦笑しつつ挨拶した。
「始め!」
“ボッ!”
「オリャー!!」
開始と共に身体強化したヴァスコは、手に持つ木刀で開始位置に立ったままのマルコに襲いかかった。
“ドカッ!”
ヴァスコの攻撃がぶつかり、勝負が着いた。
“ドサッ!”
と思ったら、倒れたのはマルコではなく、ヴァスコだった。
「…………勝者、マルコ!」
審判役の担任のアルマンドも、この出来事に驚きつつ、マルコの勝利を告げたのであった。




