第70話 ナンダイトーにて
ティノは、トウダイ近くの森から闇魔法で帝国領の元ミョーワ王国のある町に移動した。
リンカン王国との国境沿いの町ナンダイトー、川を隔てたすぐ北側がリンカン王国のクリホの町、両方の町共、侵略と防御の為に砦を築き互いに監視し合っている。
ティノはナンダイトーの町に入り、砦に侵入予定の夜まで、情報収集を兼ねて酒場に入って行った。
「いらっしゃい!」
酒場に入ると、まだ夕方のせいか客は誰もいなかった。
「ビルラ1つと、ちょっとしたつまみ貰えるかい?」
ティノは酒とつまみを頼み、店主の前のカウンターに座った。
「……お客さん見ない顔だな?」
他にも席が空いているにも関わらず、目の前に座ったティノに、何かを察した店主が話しかけた。
「まぁね。ちょっと用事があってね……」
ティノは、店主に対してしれっと答えた。
「……そうかい? まぁ、特に何もない所だけどのんびりしていきな」
店主はティノの様子を探りながら、当たり障りのない言葉を話しかけた。
「……店主、元冒険者だね?」
ティノは体つきや雰囲気から、店主について思ったことを尋ねてみた。
「そうだが……、あんた何が知りたいんだい?」
店主は、ティノが何かしらの情報を探りに来たことに気付き、率直に尋ねた。
「……オルランド将軍の様子はどうだい?」
「…………あんたどこの者だい?」
この町のすぐ側にある砦を任されている責任者の名前が出たとたん、店主の放つ空気が変わった。
「あぁ、慌てないでくれ、ちょっと渡したい物があるだけだから……」
店主の放つ圧力を涼しい顔で受け流しつつ、ティノは話を続けた。
「……何だか知らんが、さっさと帰ってくれ!」
店主はティノが面倒事を持ってきたと思い、話を打ち切り、帰らせようとした。
「オルランド将軍が喜びそうな物なんだけど……」
帰るように言われたティノは、渋々帰るように席を立ちつつ愚痴をこぼした。
「……因みに何かだけ聞いて良いか?」
ティノの愚痴に好奇心をうずかせた店主は、思わず問いかけてしまった。
“ニッ!”
「…………リンカン王国の2大公爵家、オルチーニ家の嫡男の首が手に入ったって言ったら?」
店主がエサにかかった事に、密かに口の端を上げて微笑んだ後、爆弾発言を投下した。
「…………冗談よせよ」
あまりに唐突な発言だったので、店主は苦笑しながら呟いた。
「本当だよ……」
ティノは笑顔を止めて、真面目な顔とトーンで店主の目をじっと見た。
「…………今日は店じまいだ! ちょっと詳しく話そうぜ!」
そう言って、店主は店の扉に店休日の札をかけ、鍵をかけてティノに座るように言った。
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ロメオとリナルドの闘いは、静と動といった感じで進んでいった。
「ダリャー!」
ロメオが武器のリーチを生かした攻撃を仕掛け、それをリナルドが木刀で力を受け流すように交わしていた。
「……躱してばっかじゃ終わらねぇぞ?」
リナルドが距離を取ったので、ロメオは攻撃の手を止めて、まだ攻めてこないリナルドを軽く挑発した。
「……そう言う君もまだ本気じゃないだろ?」
挑発されたリナルドも、ロメオに向かって問いかけた。
「……じゃあ、お互い本気で行こうぜ!」
“ボッ!”
「……あぁ、そうだね!」
“ボッ!”
2人は言葉をかわすと同時に全身に魔力を纏い、身体強化をした。
「スゲェー!」
「もう身体強化出来るのか?」
観客席で見ていた他の生徒は、2人が身体強化をした事にざわめきだした。
と言うのも、この2人までの生徒はまだ完全に魔力を扱えないのか、身体強化して闘う人間がいなかった。
初等部に入りたての生徒ならばそれが当然で、むしろ身体強化を使いこなせている2人が特別なのである。
““バッ!””
「「ハー!」」
身体強化をした2人は、同時に地を蹴り相手にぶつかって行った。




