第69話 火種
「……あんたには何か考えがあるのか?」
リーダーの問いかけに、ティノは自分の考えを話すことにした。
「まず公爵家の嫡男の死で、リンカン王国はここに攻めてくるのを中止して、犯人探しを始めるはずだ。その時ここに首があるなんて知られたら、あっという間にここの人達は殲滅されるだろう」
ティノの話を聞くに連れ、メンバーは静かに続きを待つ顔つきになった。
「ならば知られないうちに消しちゃうって考えも出るだろうけど、それじゃあ持ってきた価値があまりない。この首は使い方次第で多少の価値が出せる」
「…………どうするんだ?」
黙って聞いていたリーダーも、ティノの考えに興味が出てきたのか、答えを求めてきた。
「……この首を帝国側に送りつける!」
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
続いて出たティノの言葉に、室内のメンバーは再び驚きの表情を浮かべた。
「リンカン王国も帝国も牽制し合いつつ、雌雄を決する前に領土や戦力補充の為、ハンソー王国を手に入れようとしている。けどリンカンと帝国の国境は、何かの火種で一気に衝突する寸前の状態だ」
「この首をその火種にしようって事か?」
リーダーは、ティノの話の行先に気付き問いかけた。
「その通り! リンカンにも首が帝国にある事を密かに知らせる。そうすれば2公爵の操り人形のリンカン国王は、帝国と戦争を始めるはずだ」
ティノは現在のリンカン王国の矛先を、ここやハンソー王国ではなく、帝国に向けるように操作することを提案した。
「それに帝国側が引っ掛かるのか?」
ティノの提案に、ベルナルドが冷静に疑問を口にした。
「大丈夫! 丁度良い人物が元ミョーワにいるから……」
ティノには、以前ミョーワ王国で、現在帝国の支配下に置かれている地に心当たりの人物がいた。
これまで何度か帝国に潜入をしていたので、ティノは多少、帝国の状況は理解していた。
「……あんたに任せて大丈夫か?」
「あぁ、俺が信用出来ないなら他に誰かやってくれる人はいるかい?」
リーダーの問いかけに、ティノはまだ信用されていないと悟ったので、他に実行できる人間がいるか問いかけ返した。
「……いや、あんたに任せる」
「分かった。……それからリンカンと帝国が争い合う間、君達はここを攻められても耐えられるように整備する事を勧めるよ」
リーダーに任されたティノが部屋から出ていこうとして、あることに思い至り、扉の前で立ち止まり、振り返りつつ忠告した。
「なぜだ?」
「無いとは思うが、余裕の出来たハンソーが、ここに攻めてくる可能性が有るからかな……」
ティノ自身、ここのメンバーがハンソー王国の協力を得て、トウダイを手に入れた事は知っている。
そのハンソーが攻めてくるのは、低い可能性だがありえるので、整備の進展を勧めておいた。
「じゃあね」
そう言って、今度こそティノは部屋から出ていった。
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マルコとロメオが話している間に、半分の闘いが終わっていた。
ハッキリ言って、マルコの相手になるような人間はいなかった。
それもそのはず、魔物との戦闘もした事ないような子供達では、最初から話にならない。
「次! 6番同士集合!」
「おっ! 俺の番だ」
担任のアルマンドの言葉に、ロメオが反応し闘技場に向かって走っていった。
「それでは、……始め!」
ロメオは槍が得意なのか、長い棒を武器に構えた。
そして相手は確かリナルドと言う名前の少年で、かなり長い木刀を構えていた。
「ダーッ!」
始まりの合図と共に、ロメオはリナルドとの距離を詰めて、リーチを生かした突きを放った。
“バッ!”
これまでの生徒と違い、ロメオの動きはかなりの速さだったのだが、相手のリナルドは難なく交わし、ロメオから距離を取った。
「……へぇ~、2人共中々やるな」
その2人を見つつ、思わず呟いたのだった。




