第65話 考え事
「……何でここに?」
領主屋敷の焼失と共に、フランコとアイーダの遺体も焼失したものだと、ティノは思っていた。
トウダイの町から誰もいなくなってから、ティノは遺体を探しに何度か来たのだが、見つけられないでいた。
「……この町が攻め込まれて屋敷が炎に包まれた時、俺が2人の遺体を運び出した」
リーダーの近くに立っていた、顔の上半分を布で隠した男がティノに話し出した。
「出来れば産まれたばかりのお子様の遺体もあの時……」
「やめろ! ベルナルド……」
その男の話を、リーダーは思い出したくないのか悲しげな声で制止した。
「……出来れば教えて欲しいんだけど?」
リーダーだけでなく、ここにいるメンバー全員沈んだ顔をした。
「……じゃあ、公爵家の豚の首を獲ってきたら教えてもらえるかな?」
沈んだメンバーを見て、空気を読んだティノは条件を付けて問いかけた。
「……あぁ、その時は俺が全部話してやるよ」
ティノの条件を呑んだリーダーが、返事を返した。
「…………」
全員が沈んだ空気を出したままなので、ティノは少しおまけをしてあげることにした。
「……沈んだ空気を出す君達に、何時になるか分からないけど素敵なプレゼントをしてあげよう!」
「……プレゼント?」
「そう、プレゼント! そうだな……、例えるならば……」
言葉を溜めるティノに、室内のメンバーが視線を向ける。
その視線を待っていたかのように、ティノは次の言葉を発した。
「神様に出会う位の感動を与えてあげるよ!」
「…………?」
意味の分からないけどメンバー達は、ただ無言で頭に疑問符を浮かべた。
「……まぁ、その内分かるよ」
全員が無反応だったので、そう呟いてティノは背を向けて部屋から出ていった。
『……それにしても、まさか2人の遺骨が残っていたとは……』
ティノはクランのメンバーが集まる家から出て、闇魔法の移動を人に見られないように森に向かいながら、考え事をしていた。
『マルコは俺同様、才能に恵まれないと思っていたけど……、最近の巡り合わせは、本当に神に愛されているような気になるな……』
クランエローエの発起、討伐に来たルディチ家の宿敵の公爵家嫡男、無くなったと思われた両親の遺骨、これらが数日のうちに起こった事に、ティノは少しそのように思っていた。
『どうやらマルコは、その内この大陸の戦争に関わってしまうのだろうな……』
クランメンバーへのプレゼントとはマルコの事である。
『彼等の会話の中で、リーダーが途中で止めたが、ベルナルドと呼ばれた男の感じだと、メンバーはマルコが死んでいると思っているのだろう』
そして、ティノはある事に思い至った。
『マルコが生きていたと分かったとき、彼等がどうなるのかな……?』
ティノは頭の中である事が予想できた。
きっと彼等はマルコを神輿にして、リンカン王国との戦争に向かうだろうと……
『そうなっても仕方がないか……』
マルコを彼等に会わせないという選択肢もあるが、ティノは最初から消していた。
マルコは、両親の事を知っている。
骨壺の事を知れば、納骨したいとクランメンバーに会いにいくと思う。
会ってからの成り行きは、マルコが決めることだと思った為である。
ティノは、その日ジョセンの町に戻り、宿屋で寝ることにした。
『あっ! 明日入学式だった』
借りた宿屋の部屋に入り、明日マルコの入学式だという事を思い出したティノだった。
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夕食を済ませたマルコとロメオは、少しして入浴の時間になったので、寮の大浴場に向かい入浴し、それぞれの部屋に戻り、入寮初日を終えた。
“コンッ!”“コンッ!”
「ロメオ、起きてるかい?」
“カチャ!”
「おうっ!」
マルコのノックの後、ワンテンポ挟んでロメオが扉をあけた。
「おはよう。確か、ロメオこの町出身だろ? 町を案内してくれよ!」
「……そうだな。今日はする事無いし町をブラブラするか?」
明日の入学式に話す言葉は昨日の内に考えておいたので、今日1日暇なマルコは、ロメオの案内でジョセンの町を探索することにした。




