第64話 骨壺
「……提案?」
ティノの言葉に、エローエのリーダーは聞き返した。
「新聞を読んだんだけど、ここに以前ルディチ家と友好関係にあった貴族が向かっているそうだね?」
友好関係にあった貴族はルディチ家の滅亡により、リンカン王国から脱出して、今まで他の国に逃れていたが、エローエの今回のトウダイ奪取に、自分達もリンカン王国との抗争に助力しようと向かっていると新聞には書いてあった。
「あぁ、確かに、ある2家から1ヶ月後位に着くとの書状が届いている」
新聞に書かれていたので隠す必要がないのか、リーダーは素直にティノの質問に答えた。
「1ヶ月か……、全然間に合わないな。ナイホソの豚貴族は2、3日後に攻めてくるらしいからね。……まぁ、間に合っても数的にはそれほど期待できないだろうけど……」
逃亡し続けて来たのだから、大人数では行動していないはずである。
「ルディチ家と友好関係にあったというと……、カセターニ家とグリマンディ家ってとこか……、2家合わせても1000~1500ってとこかな?」
ティノが言った2家は逃亡時の爵位は男爵、マルコの父のフランコとは仲が良く、当時は親交が深かった。
「……と言う事で、皆は自分の手でと思っているだろうけど、オルチーニの豚は俺が消してくるよ」
「……何!?」
室内のメンバーは静かにティノの言葉を聞いていたが、突如軽い感じで暗殺を提案したティノに驚きを隠せなかった。
「お前1人で出来るわけないだろ!」
怒りの沸点の低いデボラが、すぐにティノに反論をした。
「大丈夫、大丈夫……、ちょっくら行って、サクッと殺って来るから……」
デボラの言葉にも、ティノは軽い言葉で返した。
「別に君達は困らないだろ? 俺が勝手に行って殺ってくれば、公爵家の人間が死んだんだから抗争所じゃなくなるでしょ? もしも俺が失敗しても、馬鹿が1人いなくなっただけだと思えば良い」
「……本当にそんなことが出来るのか?」
リーダーはティノの言葉に納得したのか、確認の質問をした。
「あぁ、大丈夫!」
ティノも質問に、Vサインをして答えた。
「良いんですかい? リーダー!」
ティノの提案に乗り気のリーダーに、ヤコボは忠告の意味で問いかけた。
「こいつの言った通り、こいつが成功すれば時間が稼げるし、失敗してもこいつ1人が消えるだけだ。俺達に得はあっても損はない!」
「……確かに」
リーダーの言葉に、メンバー達も納得していった。
そのメンバーの様子を見回していたとき、ティノは室内に小さめだが祭壇を見つけた。
「…………あの祭壇にあるのは、もしかして……?」
その祭壇に2つの壺が飾られていた。
それを見たティノは、これまでの態度を一変させて真剣な顔で尋ねた。
「……フランコ様と、アイーダ様の骨壺だ……」
ティノの質問に、リーダーから衝撃的な言葉が発せられた。
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「お前がマルコって奴か?」
夕食を終えたマルコに、同じ新入生らしき少年が話しかけてきた。
「そうだけど……、君は?」
話しかけられたマルコは、少年に見覚えがなかったので質問し返した。
「俺はヴァスコ! お前のせいで、入試の試験が次席だった男だ!」
「……そうなんだ?」
自己紹介をビシッと決めたヴァスコに対し、マルコは返す言葉が無かったので、苦笑しながら返した。
「入試では負けたが、次の学期末の試験では抜き返してやるからな! 覚えとけ!」
ヴァスコは、そうマルコに告げて食堂から去っていった。
「…………片付けるか?」
「……そうだね」
その様子を唖然として見ていたマルコとロメオは、無かったことにして食器を片付ける事にした。




