第61話 察知
ティノの契約虫のクワガタとリンクしつつ見た室内には、数人の人間が集まって議論を重ねていた。
「………………彼かな?」
リンクしているクワガタの目に映った室内の人間で、ある1人の男を見て彼がリーダーだとティノは判断した。
他の人間とは、纏っている雰囲気が違って見えたのでそう思ったのだが、その男性は室内のメンバーの話を椅子に腰かけて腕を組み、静かに聞いていた。
「奴等は明日にでも攻めてきます! こちらから先制して少しでも敵を減らすべきです!」
室内において、若い女性が鼻息荒く意見を述べた。
「落ち着け! 確かに奴等はナイホソに集結しているが、この2、3日攻めて来る気配がないだろ?」
女性の意見に対して、若い男性が慎重な意見を述べる。
「……ヘタレが!」
男性の反論に、女性はボソッと呟いた。
「……何!?」
その呟きが聞こえた男性は、声を1つ落としつつ女性を睨み付けた。
「やめろ!! 2人とも落ち着け……! リーダーの前だぞ!」
それまで静かに聞いていた男性が、若い2人のいざこざを落ち着いた声で鎮めた。
「………………」
リーダーによる不自然な間が空いた。
『……おやっ? 感付かれたかな?』
リンクしたクワガタを通して見ていたリーダーの反応に、ティノは違和感を覚えた。
「……どうかしましたか? リーダー……」
椅子に座るリーダーの隣に立つ男性が、リーダーの違和感に気付き尋ねた。
『……仕方ない、離れるか?』
ティノは、クワガタがばれる前に闇魔法により、クワガタをクワガタの影に吸い込んだ。
「……!?」
クワガタが消えた瞬間にリーダーは、感じていた感覚がなくなったので部屋の中を見渡し出した。
「……リーダー?」
「……すまん、何でもない」
リーダーの行動に、部屋の中のメンバーは訝しげな顔になった。
そして、リーダーは違和感がなくなったのを疑問に思いながら、メンバーに話の続きを促した。
「……さてと、行ってみるか……?」
こそこそするのに飽きたので、これからの事をどう考えているのか直接聞くため、ティノはメンバーが集まる家に近付いて行った。
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マルコが寮に近付くと学校の寮の門の前には、入寮する人の荷物が乗っている馬車が止まっていた。
『馬車で来るなんて貴族なのかな?』
そんな事を思いつつ、マルコは馬車の横を通り過ぎ、門の近くで入寮生の受付をしていた女性に近付いて行った。
「入寮生かな?」
「はい。マルコと申します」
「……えーと、あらっ! あなたが首席合格の子ね?」
「ええっ、まぁ……」
女性が言ったように、マルコは入試試験の首席合格を果たしたのだった。
はっきりいってマルコがティノに受けた勉強は、初等部どころか高等部の範囲まで修了しているので、勉強の部分においては学校に通う意味はない。
しかしティノは、マルコが今より若い時期から、学校に入ってたくさん友人を作るように言っていた。
マルコ自身、同じ位の年齢の友人がいた事がないので、勉強よりも友人作りの為に学校に通う感覚である。
「合格通知にも書かれていたと思うけど、入学式の首席挨拶頑張ってね!」
「……は、はい。頑張ります……」
マルコは、入学式に大勢の前でするその挨拶が少し憂鬱なので、顔を若干ひきつらせつつ返事をした。
女性から部屋の鍵を受け取り、マルコは寮の中に入って自分の割り振られた部屋を目指した。




