第60話 クワガタ
タイトルが思い付かず結構適当です。あまり気にしないで下さい。
『全く良い身分だ……』
潜入した天井裏で、3人の貴族らしき豚共が豪勢な食事をしているのを見て、ティノは心の中で呟いた。
この豚共のせいで、この町の人々が食料が無く弱っているのに、張本人の豚共は気にする素振りなど全く無いようだ。
「これだけの数がいれば勝利は確実、蟻を潰すのに焦る必要などあるまい」
豚の1人のベリザリオと呼ばれた男が、酒の入ったグラスを手に話し出した。
「最近親父はハンソーを攻める事ばかり指示して来やがって、たまにはのんびり過ごさせろっての!」
「オルチーニ公爵家の御嫡男であられるベリザリオ様に、御父君は期待しておられるのではないでしょうか?」
「セヴェリーノ殿の言う通りです。コレンナ家は内政にばかり力を入れて、戦の事は無知と言っても良いですからな」
ベリザリオの愚痴に、残りの2人は気を紛らわせるような言葉をかけた。
話の内容から、どうやらベリザリオは現リンカン王国の2大公爵家の嫡男らしい。
コレンナ家はもう1つの公爵家の事で、この2つの公爵家は競い合うように、功をあらそっている。
「フフッ……、まぁともかく、後2、3日はのんびりさせてもらおう」
おだてられた豚のベリザリオは気分を良くし、酒を口に含んだ。
『…………』
豚共の話を聞いてて、段々腹が立ってきたティノは襲撃の日にちが分かったので、さっさと屋敷から脱出した。
「……あの豚共、……殺るか」
ナイホソの町から気付かれずに出たティノは、ベリザリオ達の事を思い出し、腹いせに殺すことに決めた。
「……それじゃあ、トウダイに戻るか……」
ティノはトウダイに戻り、エローエの戦力分析をしに気配を消して柵の中に入っていった。
柵の中は、まだまだ瓦礫が散乱しているが、以前に比べればかなり撤去されていた。
「……あそこかな?」
ティノが色々探し回っていたら、たくさんのテントが張られている場所を見つけた。
そこから少し離れた場所、以前ルディチ家の館があった場所に、小さいながら木を組み立てた家があった。
「……クランのリーダーはいるかな?」
ナイホソの時とは違い、隠れる場所が無さそうな家なので、ティノは闇魔法で陰から1匹のクワガタを取り出した。
そのクワガタは闇魔法で契約した虫で、侵入しにくい所へ送り込む時に使っている。
「行ってこい」
ティノが一言呟くと,クワガタはティノの手から飛び立ち、家の中に入っていった。
「………………いた」
クワガタは親指位の大きさの為、少し時間がかかったが、数人が集まっている部屋を見つけることに成功した。
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「ティノ様! 受かりました!」
試験から数日後、ティノとマルコが泊まっている宿屋に学校から合格通知が届いた。
書かれた通知には、合格の文字が書かれていた。
「そうか……、まぁ、良かったな」
ティノは落ちる事はないと思っていたので、軽い言葉で返した。
「はい! ……ところで僕が学校の寮に入った後、ティノ様はどうするのですか?」
マルコはティノの今後が気になり、率直に質問した。
「……どうするか? まぁ、とりあえずブラブラするかな?」
どうやらティノは、まだ何も決めていないような感じだった。
「……夏にあるお前の長期休暇に、またこの町に来るからそれまで学校生活を楽しんでろ」
そう言ってティノは、マルコの頭を撫でて微笑んだ。
「はい!」
マルコは、小さい頃からティノのこのしぐさが好きだった。
ティノの暖かい手に撫でられると、まるで、記憶にはないが父に撫でられているようで嬉しくなるためである。
「では、行ってきます!」
「おう! 元気でな」
そして2日後、マルコは少ない荷物を持ち、短い言葉を交わして、ティノと別れて学校の寮に向かった。




