第59話 潜入
思い付きで動き出したティノは、その日のうちにトウダイの近くの森に闇魔法で移動した。
「……さて、どんな感じになっているかな?」
トウダイの土地を眺める為に、背の高い木に飛び乗って、望遠の魔道具で以前は瓦礫の山だった方向を眺めた。
「……早いな、簡単な柵が出来てる」
ティノが眺めると、昔城壁があった場所に木による簡易的な柵が周囲に立てられていた。
新聞に書かれた記事には、約1週間前にあの土地を占領したらしいので、随分急ピッチで立てたのだろう。
「確か王国軍がナイホソの町に集結しているみたいだけど、大丈夫かな?」
リンカン王国からしたら現在は瓦礫の山なので、大して重要な土地ではなくなっていたのだが、占領されたとあっては、放っておく訳にはいかない。
ハンソー王国との小競り合いを後回しにして、早急に土地を奪い返す事にした王国は、トウダイの隣町のナイホソに軍を集め出したと新聞に書かれていた。
「ナイホソの様子を見てくるか?」
ティノは、王国軍がどれ程集結しているかを確認しに、ナイホソに闇魔法で移動した。
「……うわっ! 結構集まってるな……」
トウダイの時同様、ティノが離れた場所からナイホソを眺めたら、町近くの草原に、軍の隊員達が寝泊まりしているであろうテントが、所狭しと張られていた。
「町の中も調べておくか……」
軍を指揮する隊長の貴族がどんな人物かを見ておこうと思い、貴族ならテントではなく町中の領主屋敷にでも泊まっているだろうと、ティノは魔法で気配を消しナイホソの町に潜入した。
『うわー……』
気配を消したティノが、町中を路地から路地へ動き回り、眺めた町人達はティノの予想通りだった。
草原いっぱいに集まった軍の隊員達の空腹を満たす為に、町の食べ物は殆ど徴収されたのだろう。
町の人々は,食料不足から空腹により生気が無くなっていた。
『……ここか?』
この町の領主屋敷らしき建物を見つけたティノは、貴族の護衛の目を盗んで屋敷に侵入した。
「ガハハハハ……!」
天井裏に入り込み探っていたティノの耳に、とても上品とは言えない笑い声が聞こえてきた。
「……ところでベリザリオ様、あの賊共はいつ始末しに行きますか?」
ティノが笑い声のした部屋の天井裏に着いたとき、どうやら丁度良くエローエ討伐の話を始めていた。
天井の通気口から覗き込むと、部屋の中には肥え太った3人の貴族らしき男が、豪勢な料理と酒をテーブルいっぱいに乗せて話していた。
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「……はい! それまで!」
試験官の言葉により、全科目の筆記試験が終了した。
「……フー!」
筆記試験が終わり、マルコは一息ついた。
「続いては実技試験になります。受験番号順に数名ずつ会場に案内しますので、この場でお待ち下さい」
教員らしき女性により、数名ずつ受験生が実技試験会場に案内されていった。
そして、マルコ達の番になり、女性の案内で実技試験会場の訓練所らしき場所に着いた。
そこには試験官らしき人達が数人いて、何やらメモ帳らしき物を持っていた。
どうやら実技の審査をメモしているのだろう。
「それでは1人ずつ、あそこに立てられた的に得意な魔法を放ってください」
そして、1人ずつ魔法を放って行き、マルコの番になった。
「お願いします!」
“スッ!”
試験官達に頭を下げた後、マルコは右手を的に向けて構えた。
「ハッ!」
“ドカンッ!”
マルコの放った魔法は、得意な水魔法の水弾、その水弾の威力により的は弾け飛んだ。
「……素晴らしい!」
試験官の中の、髭を蓄えた老人が感嘆の声をあげた。
他の試験官達は、入学試験でこれほどの威力の魔法を中々目にしない為、無言で驚きつつメモを取っていた。
「ありがとうございました」
マルコは頭を下げて、女性の案内により会場を後にし、全ての試験が終了したので、ティノが待つ宿屋に向かって帰って行った。
ティノとマルコで話を分けていますが、一応メインはティノのはずです。




