第54話 ケトウ情勢
パルトネルと名付けた子白狼を連れて町に帰り2日後、この日ティノはエヴァンドロにマルコ達の面倒を任せ、ケトウ大陸に向かう事にした。
因みに子白狼は従魔契約の証に、ティノの魔法の指輪から出した首輪を付けていたのですんなりと町に入ることが出来た。
「マルコ、エヴァンドロさんに迷惑かけるなよ」
「はい、わかりましゅた」
朝食を食べ終えたティノは、マルコに注意をして町から離れていった。
「……ここいらで良いかな?」
町から離れ、人の気配が無くなったところで、ティノはある魔法を発動した。
“ズズズッ!”
ティノは足下の影に、吸い込まれるように入っていった。
“ズズズッ!”
そしてある森の木の影から、ティノが浮き出してきた。
『よし。まずはハンソーの状況からだな……』
ティノは心の中で呟きながら、ハンソー王国の首都のチョーヒヤに入っていった。
ティノが使ったのは闇魔法による移動魔法で、行ったことのある場所に移動する事が出来る魔法である。
数日前マルコを救うためタンマーロの魔法をよけて、馬車の前に表れた時使ったのもこの魔法である。
マルコと一緒の時は、マルコに色々な世界を見せる為にこの魔法は使わないようにしているのだが、1日で色々な国に向かわなければならない為、時間短縮で使用した。
ティノはハンソー王国の首都チョーヒヤ、ティノの出身地のトウダイ市、リンカン王国の首都ボウシカ、デンオー帝国の首都ダイーを回って情報を入手して、またソーツへと帰って来た。
まずハンソー王国は現在、リンカン王国、デンオー帝国と国境沿いで戦闘を繰返し、魔法国家の名に恥じぬ戦いを繰り広げ、どうにか侵略を押さえ込んでいる。
リンカン王国は、デンオー帝国の行動に注意しつつ、デンオーより先にハンソー王国を手に入れようと戦力拡大を計っている。
デンオー帝国は、ハンソー王国とリンカン王国の隙を探りつつ、大陸統一を目指し各地で謀略を練っているようである。
ティノの出身地、マルコの領地のトウダイ市は現在焼け野原と化していた。
他のルディチ家の領地も同じように破壊されていて、とても人が住む場所では無いそうである。
「やっぱりここは無事だったか……」
元トウダイ市のある一角にある墓地に来たティノは、一言呟いた。
そこにあったのは、歴代のルディチ家の英雄達が眠る墓である。
辺りが破壊され、瓦礫の山になっている中、その墓だけは魔力の障壁によって守られていた。
この墓は、ティノがお参りに来る度に魔力を補充して障壁を張っていたので、傷1つ無かった。
「フランコとアイーダも入れてやりたかったが……」
マルコの両親の遺体は見つからず、領主の館と共に燃え尽きたようである。
その事が心残りで有りつつも、墓に花を添えて元トウダイ市から離れていった。
「ティノしゃま~!」
「ワン!」
日が暮れ、移動魔法によりソーツの町近くの森に移動した後、町の中に入って来たティノを宿屋近くで待っていたマルコがパルトネルを連れて駆け寄ってきた。
「おかえりなさいでしゅ!」
「ハッ、ハッ、ハッ!」
ティノのすぐそばで立ち止まったマルコは、笑顔でティノに挨拶した。
マルコの手の上に乗ったパルトネルも、ボスの帰りに嬉しそうな表情をしていた。
「…………ただいま」
悩み事の無いような笑顔に力が抜けたティノは、マルコとパルトネルの頭を笑顔で撫でて、エヴァンドロの待つ宿屋に一緒に帰っていった。




