第44話 解除
マルコに言われたので、ティノはとりあえず馬車の中に入り、檻の中を覗き込んだ。
そして、その檻の中には1人の獣人男性が入っていた。
「ティノしゃま! このかたでしゅ!」
この獣人が、どうやらマルコが言っていた男性のようだ。
「はじめまして、家のがお世話になったそうで……」
そう言って、ティノは獣人に頭を下げた。
獣人の男は、戦闘音の後に突如現れたティノに驚いたが、マルコがどうやら救出されたのだと理解し、安心した。
「いや……、俺は特に何もしてないので……」
ティノがマルコの親だと思った獣人は、素直な気持ちでそう言った。
「ティノしゃま! しばられていたぼくのなわをといてくれたでしゅ!」
マルコは、獣人にしてもらった事をティノに説明した。
「本当にありがとうございました!」
ティノは、もう一度獣人に向かって深く頭を下げた。
「いや、本当に気にしないでくれ……、ボウズ! 助かって良かったな?」
獣人の男性は、優しい笑顔でマルコに話しかけた。
「おじちゃん! おじちゃんも一緒に行こう!」
「……確かに出て行きたいが、俺はこの通り奴隷の首輪をしてるから無理なんだ」
マルコの言葉に獣人は首輪を指差し、出て行けない理由を告げた。
奴隷の首輪があるので檻から出て行ったとしても、契約者のチリアーコと首輪に魔力の糸が繋がっているので、居場所はすぐにばれてしまう。
そしたら、また連れ戻されるので今逃げても意味がない。
「……首輪を取りましょうか?」
「……えっ!?」
獣人は、自分はいいから早くここから離れるように言おうとしたが、ティノがしれっと言った言葉に反応した。
「あんた奴隷契約を解除出来るんかい?」
「はい」
奴隷契約は闇魔法の一種なので、現在のティノならば解除するのは大した事ではない。
契約解除をするには、闇の反対である光魔法によって解除出来る。
奴隷商人は、ほとんどが奴隷契約の闇魔法が使えるが、解除用の光魔法は使えない事が多い。
ちゃんとした奴隷商人でも同様で、通常解除するには教会に奴隷とその契約者が一緒に行き、解除してもらうのが普通である。
「ティノしゃまはすごいんでしゅ!」
獣人を安心させるため、マルコが胸を張って答えた。
「……頼む。首輪をとってくれ……」
自信満々のマルコの顔を見て、獣人はティノに契約解除をお願いした。
「分かりました。……まさか犯罪奴隷じゃないですよね?」
解除をする事になったが、重要なことを思い出しティノは質問した。
「あぁ、俺は借金奴隷だ」
獣人は、嘘のない真剣な目でティノに答えた。
その目を見たティノは、右手を獣人の首輪に向けた。
「分かりました。では……」
“ポウッ!”
ティノの手が一瞬光ると、獣人の首輪が輝き出した。
“パキンッ!”
少しの間輝いた首輪が、音を立てて壊れた。
「むんっ!」
“グニャ!”
ティノが力をいれて、獣人が出れるように檻の棒を曲げた。
「!!?」
あまり強そうに見えないティノが、あっさり棒を曲げた事に獣人は驚いた。
「では行きましょうか?」
そう言ってティノは、馬車の中から出ていった。




