第41話 追走
ソーツから街道が通っている隣町は、スジチューノと呼ばれる町しかない。
現在その街道をティノは走っている。
『まだ見えないか?』
奴隷商の馬車を追いかけて、魔力で身体強化した状態で高速で走っていた。
しかし、かなりの距離を走っているのだが、まだ追い付かないことにティノは少し焦っていた。
『訓練しているからと言って、まだ3才児だぞ!』
これだけ長いこと生きていると、揉め事など何度も味わった。
だが、それはいつも1人でいたときの事であり、人質を取られたことも多少だがある。
しかし、子供を人質に取られたのは今回が初めてだった。
『早く助けてやらないとな!』
自分が奴隷にされるかも知れない状態で、怯えているであろうマルコの事を思い、ティノは更にスピードを上げて街道をひた走った。
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『ううっ……、ティノしゃま……、ごめんなしゃい……』
馬車に乗せられ、奴隷に落とされるかも知れない状態のマルコは、自分の事よりも現在迷惑をかけているであろうティノに、泣きながら心の中で謝り続けていた。
「ボウズ、大丈夫か?」
「!?」
泣いているマルコに、同じ馬車に乗せられている奴隷の首輪をした男が声をかけてきた。
マルコは他に人がいるとは思わなかった為、驚きながら男の方に振り向いた。
「!?」
その男を見たマルコは、その姿に涙が止まった。
「どうせ逃げられないんだ、その口布とかとってやるよ!」
この馬車は檻になっていて、その上奴隷商の護衛が目を光らせているので、とても逃げ出せる状態ではない。
それに男は奴隷の首輪をしているので、抵抗することも出来ない。
マルコは子供なので抵抗してもすぐやられると思い、男はせめて拘束を解いてやろうと、マルコの口布などをほどいた。
「プハッ! じゅ、じゅうじんしゃんでしゅ!?」
布で覆われていた口が解放されると、マルコはキラキラした目でその男を見つめた。
「ん!? あぁ、俺は獣人だが……?」
さっきまで泣いていた子供が、自分の事を見たとたん泣き止み、くいついて来たので若干引きつつ男は答えた。
「はじめてみたでしゅ! うれしいでしゅ!」
マルコは現在の状態を忘れ、喜んでいた。
「おぉ、そうか? ソーツはケトウ大陸が近いから人族がほとんどだからな……」
この大陸は種族に関係なく集まった町が多いが、人族のケトウ大陸、獣人族のカケナ大陸、魔人族のセイケ大陸に近い町はまだそれぞれの種族がほとんどで形成されていて、ケトウに一番近いソーツはほとんどが人族である。
「これから、辛い目に遭うだろうが懸命に生きるんだぞ……!」
獣人の男はそう言って、マルコの頭をポンポンと撫でた。
「……うっ!」
男に励まされた言葉で、また自分の状態を思いだしマルコは落ち込んだ。
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「!!? いたッ!」
猛スピードで追いかけていたティノの遥か前に、1台の馬車が走っているのを見つけた。
「待ってろよ! マルコ!」
一言呟き、ティノは更にスピードを上げた。
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「チリアーコさん! 変なのが追いかけてきます!」
周囲を警戒していた護衛が、後方から追いかけて来るティノを見つけチリアーコに報告した。
「魔物ですか!?」
報告を聞いたチリアーコは魔物の襲撃だと思い、護衛に聞き返した。
「いいえ! 人です!」
「えっ!? 人ですか!?」
人が馬車に追い付いて来ていることに驚き、チリアーコはまた聞き返してしまった。
「すいませんが、適当に相手して上げて下さい」
「分かりました!」
チリアーコに言われた護衛は、追いかけて来るティノ目掛けて手をかざした。
「ハッ!」
そして、護衛はティノに火の玉を発射した。
“ボンッ!”
ティノの前に火の玉が落ち、爆発で土煙が上がった。
そして煙が晴れると、ティノの姿はどこにも見えなくなった。




