第39話 誘拐
「まだ着かないんですか?」
ティノは迎えに来た男に連れられて、町の端の方へ来ていた。
辺りには家も少なくなってきていて、宿から10分ほど歩いているにも関わらず着かないことに、ティノも違和感を覚え出した。
「すいません。すぐそこの建物ですから……」
案内役の男は、木で出来た古い家屋を指差した。
「……ここですか?」
確か揉めた相手は、Aランククランだと言っていたはずなのに、こんな家屋がクランの拠点だとティノはとても思えなかった。
「はい。リーダーが中でお待ちですので、どうぞお入りください」
案内役はそう言って、家屋の扉を開けてティノに入るよう促した。
「分かりました……」
ティノはどう考えてもおかしいとは思いつつ、男の指示に従い中に入っていった。
“パタンッ!”
ティノが中に入ると、男はすぐに扉を閉めた。
「……まぁ、そうだよな……」
ティノはそのまま部屋の中に入っていったが、思った通りこの家屋の中に人の気配は無かった。
「何が目的なんだ?」
ティノは案内役の男に、ここに連れてきた理由を尋ねようと扉の取っ手に手をかけた。
“バチッ!”
「おいおい結界かよ……、ずいぶん手が込んでるな……」
どうやらティノが中に入ると同時に、この家屋から出れないように結界が施されたらしく、ティノの手が扉の取っ手に弾かれた。
「面倒くせーな……」
ティノは仕方なく結界解除の為に、魔力を高め始めた。
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「ん~……! ん~……!」
「おいっ! あんま暴れんなよ! ぶち殺されてぇか!?」
ティノが結界に閉じ込められた頃、マルコはギルドの支部でティノと揉めた男に、口を布で覆われ、手足を縛られ、宿から連れ出されていた。
「モレーノさん! いらっしゃいませ!」
「おうっ! チリアーコ、このガキが約束の品だ!」
誘拐犯ことモレーノは、そう言ってマルコを床に転がした。
「ん~……!」
マルコは、チリアーコと呼ばれた男に救いの目を向けて声を漏らした。
「ホ~……、中々の見た目ですね」
しかし、チリアーコはマルコを品定めするように眺めるだけで、マルコの声を無視した。
「約束の金をくれ!」
そう言ってモレーノは、右手を出して金を要求した。
「分かりました。どうぞこちらを……、良品なので色を付けておきましたよ」
“ジャラッ!”
「へへっ、こりゃありがてぇ……」
モレーノはチリアーコから金貨の入った袋を受け取り、中を確認してから袋を懐に入れた。
「しかし、こんなガキが売れんのかよ?」
「金持ちの中には、幼い男子を囲いたがる人間もいるのですよ」
チリアーコは闇の奴隷商であり、時折密かにモレーノに商品の発注を依頼していた。
「そんなもんかね……、まぁ金になるならどうでもいいか?」
「そうですね。私にも理解出来ませんが、これが私の商売ですので……」
「そんじゃあ、また依頼があったら連絡してくれ!」
「はい、私はこのまま依頼者に届けに行きますので、2週間後にまたお会いしましょう」
「あいよ」
会話を交わし終わったモレーノは、そのまま離れて行った。
「ん~……!」
“ドサッ!”
「それでは、行きますか?」
チリアーコはマルコを馬車の荷台に乗せた後、一言呟いて馬車を走らせ出した。




