第38話 揉め事
「チクショウ! あの野郎! ぶち殺してやる!」
ギルド内でティノに打ちのめされた男が、クラン専用の宿舎でティノにやられた怒りを口にしていた。
「何言ってんだよ。お前が悪いんだろうが。あんな子供に突っかかって……」
倒された男を担いできた男が、正論を述べる。
「うるせーよヤコボ! お前はムカつかねーのかよ!? 俺達のクランを舐めやがったんだぞ!」
「別に……、て言うかあの父親の奴タダ者じゃねぇぞ」
やられた男と違い冷静にティノの動きを見ていたヤコボは、ティノが自分より上だと強さをしっかりと見極めていた。
「おいっ! アイツぶちのめすぞ!」
「……いや、勝手にやれよ。大体ミスったらリーダーに殺されるぞ!」
「ミスらなけりゃ大丈夫だろ! ビビってんじゃねぇよ!」
「……うざっ! 聞かなかったことにしてやるから止めとけよ!」
そう言って、ヤコボは宿舎から出ていった。
「クソッ!」
“ドガッ!”
1人残された男は怒りが収まらず、そばにあった机を叩き壊した。
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ギルドで揉めてから1週間、ティノ達は町近くの場所でマルコの訓練に魔物退治をしていた。
「ゲコッ!」
“ボウッ!”
「水壁!」
“ジュッ!”
火吹き蛙が吹いた火を、マルコが水魔法の壁で防いだ。
「ターッ!」
“ザクッ!”
火を防いだ後、マルコはそのまま火を吹いた蛙に近付き剣で切り裂いた。
「良いぞ! そろそろ次の訓練に移るか?」
ティノの当初の予定通り、マルコは魔法と剣術を合わせた戦闘が出来るようになってきた。
「ほんとうでしゅか?」
ティノに誉められ嬉しそうなマルコをよそに、次の訓練地を探さないといけなくなったティノは、頭を悩ませ始めた。
「取り敢えず今日は宿に帰るか……?」
「はいっ!」
ティノは次の訓練地をゆっくり探す為、マルコと一緒に宿屋に帰ることにした。
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“コンッ!”“コンッ!”
宿屋に帰り、次の目的地を探して地図を見ていたティノに来訪者が来た。
「はいっ?」
部屋の扉をノックされたティノは、すぐに扉を開けた。
「すいません! 私クラン、エローエの者ですが……、先日うちのメンバーがご迷惑をお掛けした方が、ここにいらっしゃると聞いて来たのですが……?」
「えっ……? あぁ、あの時の……」
最初クラン名を聞いても分からなかったが、迷惑と聞いて思い出した。
「すいません……、その事でクランリーダーが謝罪がしたいと仰って……」
「いや、気にしてないので……」
そう言ってティノは、話を打ち切ろうと扉を閉めようとした。
「ちょ、ちょっと待って下さい! すいませんがリーダーに会って頂けますか?」
「ん~……、仕方ない。じゃあ行きますか?」
面倒くさいが、さっさと終わらせようと、ティノは客の男に付いていくことにした。
「マルコ! ちょっと出てくる。大人しく待ってろよ!」
「はいっ!」
ティノは宿屋の部屋に、マルコを置いて迎えに来た男に付いて出て行った。
「へへっ……」
ティノと男が宿屋から出て行くのを、隠れた場所から見ていた男がほくそ笑んだ。
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“コンッ!”“コンッ!”
「はいっ……」
宿屋の部屋で、一人でいたマルコは扉をノックされた事で、思わず扉を開けてしまった。
「ようっ!」
マルコが開けた扉の先には、以前ギルドで絡んできた冒険者が立っていた。
「!?」
その男の顔を見たマルコは、思わず直ぐ様扉を閉めようとした。
“ガッ!”
「そう慌てんなよ……!」
そう言って男は足を扉の間に挟み、マルコが閉める扉を無理やり止めのだった。




