第37話 お約束
ソーツの町に来てしばらくたち、この日ティノはマルコを連れて冒険者ギルドに向かった。
「ティノしゃま、きょうはなにを……」
今までギルドに来たことが無かったマルコは、内心嬉しそうにティノに手を引かれてやって来た。
「倒してたまった魔石を買い取ってもらおうと思ってな……」
マルコの訓練で倒した魔物の魔石が結構たまった為、ギルドに売りに来たのである。
「お前にもギルドがどういう所か見せておこうと思ってな……」
「そうでしゅか!」
マルコにはよく絵本などを読んであげるのだが、そういった本の主役は大抵冒険者である為、憧れのような気持ちがあるのだろう。
その冒険者が集まるギルドに来れてワクワクしているのか、先ほどからギルド内をキョロキョロと見回している。
「こんにちは」
ギルドの買い取りコーナーに行き、職員に声をかけた。
「こんにちは、どのような商品を買い取りますか?」
「こちらを買い取って頂けますか?」
“ジャラ”“ジャラ”
ティノは魔法の指輪から、結構な数の魔石を受付に出した。
「結構な数ですね……」
あまり大きな魔石ではないが、その数に職員は思わず呟いた。
「鑑定と値段の計算をしますので、少々お待ちください」
「分かりました」
職員に待つように言われたので、ティノとマルコは近くの椅子に座って待つことにした。
「いいかマルコ、ギルドには……」
「何でここにガキがいるんだ?」
ティノがマルコに、ギルドでの注意点を教えようとしていたところ、子供のマルコを連れているティノに男が絡んできた。
「ふぇ?」
なぜ絡まれているのか分からないマルコは、身を縮こませてティノにしがみついた。
「マルコ、ちょっと待ってろ……」
「おい! 聞いてんのかてめえ!」
男を無視してマルコの相手をしていたティノに、男はティノの胸ぐらを掴みに来た。
“ドンッ!”
「うげっ……」
掴みに来た男の手を交わしたティノは、そのまま男の懐に入りボディーブローをかました。
不意の一撃に、絡んできた男は腹を抑えてうずくまった。
「こういった輩がいるから気を付けろよ!」
この男を教訓にしながら、ティノはマルコにギルドでの注意点を告げた。
「ぐっ……、てめえ、俺をAランククランのエローエのメンバーだと知っててやってんのか!?」
冒険者同士が作るチームの事をクランと呼ばれ、クランランクが存在する。
クランの最高位がSランクなので、Aランククランといえばかなり有力なクランである。
「…………そんなの知らん」
“ボカッ!”
男の言葉を無視してティノは、男に拳骨を落として気を失わせた。
すると、
「すいません! うちのクランの者が申し訳ありません!」
突如気を失った男のクランの仲間らしき男性が現れ、男を連れていった。
「……まあ、絡まれないように気を付けろよって事だ」
「はい……」
冒険者に憧れを持っていたマルコだったが、イメージが崩れたのか少し落ち込んでいた。
しばらくして、ティノ達は魔石の精算をしてギルドを後にした。




