最終話 不老のスキル
最終話になります。
「パメラ!」
「マルコ!」
夜襲と共に始まったヴィーゴの追撃。
早朝に戦いも終わり、マルコは兵と共に凱旋した。
国民からの祝福の歓声に包まれつつ城に戻ると、すぐさま王妃であるパメラの下へと向かって行った。
出産したばかりで子供を人質に取られるなど、辛い思いをしたであろう彼女を労わるためだ。
それももう心配する必要もない。
大軍勢を率いてきた帝国を完全に蹴散らしたからだ。
「ただいま!」
「おかえりなさい!」
ようやく肩の力を抜くことができたマルコは、パメラを抱きしめたことでようやく勝利したことを実感した。
他大陸への逃走という選択も考えていたが、そうならないで済んだことに安心した。
王国としても多くの兵を失い、大きなダメージを受けはしたが、それはこれから修復していくしかない。
とりあえず今は、勝利したことの余韻に浸っていたい。
「あう……」
「おぉ、お前も喜んでくれるか?」
パメラと少しの間まったりしていると、近くのベビーベッドで寝息を立てていた赤ん坊が目を覚ましていた。
その小さな声によって気が付くと、マルコは乳母から赤ん坊を抱かせてもらった。
まだ目が見えているのかは分からないが、マルコの顔を見て嬉しそうに微笑んでいるところ見ると、今回の勝利を喜んでくれているのかと思いたくなってしまう。
「そう言えば……、この子の名前を考えないとな」
無事に生まれてくれたことは喜ばしいが、戦争中であり、しかも人質になってしまうなど色々あったため、名前を付けるということまで頭がまわっていなかった。
勝利によって安堵したことで、ようやく名付けのことを思いだした。
「大事な王子ですから、あなたが付けて」
「良いのか?」
「えぇ」
生まれたばかりの赤ん坊とはいえ、この子は王国の第一王子。
余程のことでもない限り、次の王としてこの国を背負って行かなければならない。
そのための名前はマルコが付けるべきだと、パメラは子供に名付けることを頼んで来た。
戦いが始まる前は、二人で考えて名前を付けようと思っていたのだが、マルコはパルマの頼みを受け入れた。
その理由は、付けたい名前がすぐに思いついたからだ。
「……ティノだ! お前の名前はティノだ!! 俺を育て、この国を勝利へ導いた英雄の名前だ!!」
付けたかった名前とはこの名前だ。
見ず知らずの自分を拾い、育ててくれた。
彼がいなければ、今回の戦いどころかこの国すら建国できなかったことだろう。
自分にとっても、この国にとっても英雄と言える存在だ。
名前を付けるということになり、マルコにとってこれ以上の名前が思いつかなかった。
「あの方のように偉大な男になるんだぞ!」
「あう……」
この名前の恩恵は、きっとこの国において未来永劫受け継がれることだろう。
そう思いティノの名前を与えられた赤ん坊は、その言葉に反応したかのように声をあげた。
◆◆◆◆◆
「帝国から市民を解放するんだ!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
ヴィーゴの死によって、帝国内では皇帝を名乗る物が乱立した。
自称皇帝たちの間で争い合い、市民は更なる困窮を余儀なくされた。
そんな市民を救うために、マルコたちルディチ王国の兵は帝国領へと侵攻を開始した。
所詮相手は、立ち上げたばかりでまとまりも無いような兵たちばかり。
マルコたち王国兵は連戦連勝し、難なく帝国領を自分たちの領土としていった。
帝国から解放されることを望んでいた市民たちは、マルコたち王国の快進撃に歓喜した。
「この領土は王国が支配する!!」
「「「「「王国万歳!! マルコ王万歳!!」」」」」
ほぼ毎年のように王国は拡大を続け、10年もしないうちに西大陸の大半を支配するようになった。
これまでは帝国によって支配されていた市民は、王国の傘下に入ると人種に関係なく発展を遂げていくことへ貢献していった。
それにより、残った帝国領へ進軍するための兵糧の確保もすぐに可能になり、更なる快進撃の助力となった。
「西大陸の平定おめでとうございます。マルコ様……」
「あぁ、ありがとう。アドリアーノ」
大軍勢を率いて攻め込んで来たヴィーゴを倒してから20年ほどの年月をかけ、立ち上げたばかりの小国の王から、マルコはとうとう西大陸の全土を傘下に収めることに成功した。
ヴィーゴのように他大陸への進出などという考えなど無く、西大陸を世界で一番豊かで平和な国にしようと尽力することをモットーとした。
「頼んだぞ! ティノ!」
「了解しました」
しかし、度重なる戦いによって疲弊していたマルコは、大国を率いていくことは難しいと考え、数年で道筋となる物を作り上げると、息子のティノに地位を譲って隠居することにした。
本当の所は、なるべく若いうちに息子に地位を譲り、のんびり孫と遊びたいという思惑もあったのかもしれない。
英雄の名前を受け継いだティノ。
マルコの作り上げた道筋もあってか、ティノにより西大陸平定がなされていった。
ティノが王位に就いてから10年経ち、西大陸は平和な地へと変わり、更なる平和を築くために他大陸とも交流を持つことになった。
しかし、その交流へ向かったティノは海難事故によって消息をたった。
天候悪化による船の転覆という事故に遭ったが、ほとんどの者が生き残ることができたが、肝心のティノの遺体だけは終ぞ見つからなかった。
「何でティノが……」
息子のティノが消息が絶ち、マルコ同様国中が悲しみに包まれた。
新たな王位は、まだ成人して間もない孫のシルヴィオが就くことになる。
最初の内は祖父であるマルコの力も借りたが、彼は祖父と父が築いた西大陸の平定と、父が目指した他大陸との交流を行い、更なる平和を目指す立派な王になっていった。
そして、それ以降もルディチ王国は何代にも渡って、西大陸を豊かで平和な国へと導いていったのだった。
◆◆◆◆◆
「すまないなシルヴィオ……」
海難事故に遭ったマルコの息子ティノだが、実は生存していた。
平和を築いたシルヴィオの国葬で、一般市民の中に紛れて運ばれていく棺を眺める。
埋葬するために王家の人間のみが入れる墓地へ運ばれ、涙を流す市民と共に息子のシルヴィオを見送ることになった。
父であり、生きていたのなら王位に戻ればよかったのだが、ティノには海難事故に遭ったことを利用して姿を消さなければならなかったのだ。
マルコの補佐もあったとはいえ、成人したばかりの息子に王位を継がせることになってしまい、ティノとしても心苦しい思いがしていた。
火葬され、骨壺が王家の墓へと収められていくのを遠くから眺めながら、ティノは息子へ小さく謝罪の言葉をかけたのだった。
「代わりと言っては何だが、俺がずっとこの国の行く末を見守り続けるからな」
墓の下へと埋葬された息子の骨壺へ向かい、ティノは手を合わせて誓いをたてた。
いつまでもルディチ王国の平和が続くかは分からない。
もしかしたら崩壊する日が来ることもあり得る。
そうならないように、ティノは生きていくつもりだ。
このスキルと共に……。
「まぁ、そう簡単に潰れないだろ? 曾孫のセヴィリア―ノもまともそうだし……」
現在王位はシルヴィオの孫へと受け継がれている。
ティノからしたら曾孫に当たる人物だ。
しかし、その曾孫よりもティノの容姿は若い。
元々童顔だったのもあってどう見ても20代だ。
「とりあえず少しの間世界でも見て回るか……」
王位に就き、25歳の誕生日を迎えた時、ティノのステータスカードには見慣れないスキルの名前が表示された。
それが不老という名のスキルだった。
何かに止められるように、このスキルを他の者に教えることが躊躇われたティノは、35を迎えた時、これ以上は隠しきれないと、偶然遇った海難事故で自ら姿を消したのだ。
大陸1つを治める大国ルディチ王国。
何代にも渡り平和を維持し続けたが、いくつもの危機が訪れ乗り越えていった。
しかし、危機を乗り越えるその陰にティノと言う名の人間が動いていたということを知る者はどこにもいない……。
長い間続いてきた「浮浪の不老者」ですが、とうとう最終話になりました。この作品は終わりですが、もしよかったら他の作品も読んで頂けるとありがたいです。最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。