表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
258/260

第258話 勝機

「進め!!」


「クッ!! 何で急に……」


 後方の自陣で問題が起きたという報告を受けたことで、動揺が広がっていた帝国兵たち。

 そこへ突然の王国兵による襲撃が開始され、帝国軍はその勢いに呑まれて行った。

 戸惑いの中の強襲が成功し、これまで耐えるのみだった王国兵が押し始め、帝国の兵たちはズルズルと後退を余儀なくされた。


「退くな!! 迎え撃て!!」


 後方に控えている帝国の将軍たちは、退いてくる兵に向かって檄を飛ばす。

 しかし、急に兵たちの意識を変えることなどできず、勢いのある王国兵によって兵の数は減る一方になる。

 訓練を受けているとは言っても、これまで色々な国との戦いで数的有利な状態で戦うことになれていたせいか、王国側が1対1の戦闘で勝利を収め続けている。

 仲間が側で殺られるていく恐怖が押し寄せ、将軍たちも退くしかない状況へと追い込まれて行った。


「くそっ!! 奴ら何を考えているんだ!?」


 こちらは奴隷兵が数日ごとに補充される。

 王国側もそのことは分かっているはずなのに、兵が同数になったからと言って攻め込むという判断をするなんて普通できるものではない。


「今日を乗り切ればまた奴らは閉じこもることしかできない! 何としても乗り切れ!!」


 報告では、今日中に奴隷の補充がされるというように言われている。

 数ならいくらでも補充できる。

 ティノの肉体を移植したものに比べれば数段落ちるが、何なら子供の奴隷を使って魔獣化させてしまえば兵の数人分の力を発揮するはず。

 こちらの魔導士たちを全滅させたようだが、それは王国側も同じ。

 何としても今日さえ乗り越えれば、また有利に事を運べると、帝国側も何とか抵抗を開始し始めた。






「押しているぞ! 何としても数を減らすんだ!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 マルコの言葉に、王国兵たちは更に勢いづく。

 王国側としても、今日が一気に攻め立てる絶好の機会だからだ。

 帝国側は恐らくまだ奴隷兵が届くと思っているはず。

 しかし、ティノによって武器の調達を受けた元ミョーワ共和国の生き残りによる反乱が起きているとは思ってもいないだろう。

 そのことを知った時のダメージを大きくするためにも、一人でも多く敵兵を倒すことが重要だ。

 当然王国側にも死傷者が出ることは分かっているが、最初から無傷での勝利なんて不可能だと分かっている。

 しかし、人をゴミのように扱う帝国の下での生活は地獄しかない。

 だが、王国兵たちが戦うのはそれだけではない。

 様々な種族が共に平和に生きるという理想を目指すマルコに、共感しているという面もある。

 王国の兵は人族だけでなく、獣人族や魔人族も混じっている。

 それがマルコが口だけでないことを示している。

 結局、この日は勢いに乗った王国兵が多くの帝国兵を倒し、この戦いが始まってようやく逆転することに成功したのだった。






「バカな!! 何故補充が来ないのだ!!」


「申し訳ありません! すでに数人を調査に送りましたのでお待ちください!」


 完全に立場が逆転したことで、皇帝ヴィーゴは怒りが抑えきれずにいた。

 しかも、夕方には到着すると思っていた奴隷兵たちが、日も暮れた今になっても到着する気配がない。

 魔導士たちが暗殺されてしまって攻撃力の面で期待ができなくなり、奴隷兵の補充が来ないのでは、帝国得意の数によるゴリ押しができない。

 これまでとは違う戦い方を変更しなければならなくなった。


「せめて数日待てば魔導士たちも戦えるほどに回復したというのに……」


 どちらの陣営も魔導士たちが魔力を使い切り、強力な魔法を使うことはできないでいたが、1、2日休めば多少無理すれば参戦することはできる。

 そもそも帝国と王国では用意していた魔導士の数が違うため、回復してしまえば数が少し不利になろうがどうにか挽回できたはずだ。


「まさか……奴らはこれが分かっていて魔導士たちを……」


「なっ!! それは奴隷たちが来ないと分かっていたということでしょうか!?」


 ヴィーゴの最悪ともいえる予想に、ダルマツィオも驚きの声をあげる。

 彼もヴィーゴ同様に補充が来たらまた反撃に出ることができると考えていた。

 そのため、魔導士たちをやられたことは痛いが、その分徹底的に王国を潰してやるつもりでいた。

 奴隷の補充ができないとなると、とてもではないが戦える状況ではない。

 信じられない考えだが、言われてみると王国が無謀な特攻に出たのも納得ができた。

 奴らが奴隷の補充部隊に何か仕掛けているとすれば、この機に攻めかかるのは当然と言って良い。


「ダルマツィオ!! 退却を開始するぞ!!」


「かしこまりました!!」


 可能性の問題ではあるが、かなり確率的には高い。

 もしも、奴隷が来ないとなると、ここに停滞している訳にはいかない。

 逃走用の転移魔導士も殺られてしまっているため、ヴィーゴは早々に軍を退却させることにした。


「何!? 退却だと!?」


「何故だ!? 兵は補充されるはずだろ!?」


 突然の退却の指示に帝国兵たちは慌てふためく。

 多くの兵をやられはしたが、奴隷兵が補充されるということは知らされている。

 なのに逃げ出そうとする命令に、納得ができないでいた。


「あれだけ仲間がやられたというのに、なぜ逃げなければならないんだ!?」


 数日の戦いだが、両国とも苛烈を極めている。

 お互い大量の死者が出ているというのに、逃げ出そうとする理由が分からなかったからだ。


「じゃあ、ここで死ねばいい!!」


「っ!? 敵……!!」


 数人の兵たちが集まっている部屋に、どこからともなく声が聞こえた。

 そして、それが帝国の拠点にしている場所へ侵入した王国の暗殺部隊だと知った時には時すでに遅く、大声を出す間もなく首を斬られて朽ち果てる。


「何だ!? 何が起きた!?」


「火事!? まさか、夜襲!?」


 退却を指示して、用意を済ませたヴィーゴ。

 すると、兵たちの寝泊まりをしている場所から火災が起きていた。

 共に退却を始めようとしていたダルマツィオは、それがすぐさま敵の夜襲だということに気付く。

 元々王国から奪い取った村を、突貫工事で戦うための拠点へと作り変えたに過ぎない。

 多少変化していても、王国側なら攻め込む場所の当たりを付けていても不思議ではない。

 数の多さから夜襲への警戒は万全だったが、多くの兵を失った今その綻びをついてきたようだ。


「チッ! もう用意などしている場合ではない! すぐに全軍退却を開始させろ!!」


「了解しました!!」


 どうやら退却理由を説明している間もない。

 朝になって王国の全軍に攻め込まれる前に、退却を開始するしかないと悟り、ヴィーゴは撤退の命令を全軍に通達するように近くにいた兵を走らせた。


「我々は行くぞ! ダルマツィオ!!」


「ハッ!!」


 状況を理解できない者をいつまで待っても、自分たちの身が危ないだけだ。

 皇帝である自分と、右腕たるダルマツィオだけでも生き残ればまた再起を図ることは可能になる。

 そう判断したヴィーゴは、ダルマツィオと数人の兵と共に、誰よりも先に拠点からの退却を開始したのだった。


「ヤコボ様!! ヴィーゴが逃げ出しました!!」


「何っ!? 何て逃げ足の速さだ!!」


 マルコの命により、暗殺部隊として乗り込んだヤコボたちだが、予想以上にヴィーゴの行動が速かった。

 いくつかの建物に火をつけ、焼け出される帝国兵たちを密かに屠っていっていたが、その行動の速さには気になる点がある。


「奴ら、補充が来ないことに気付いたのか!?」


「恐らくそのようです!!」


 出来ればこの夜襲で始末を付けたかったが、さすがに帝国を西大陸一の巨大国家にした皇帝だけのことはある。

 この判断力の速さには敵ながら見事としか言いようがない。


「ある程度の戦果は得られた! 戻ってマルコ様にヴィーゴの追跡を開始するように伝えるぞ!」


「了解しました!」


 夜襲を仕掛けた部隊だけでの追跡は、人数的に反撃を食らう可能性が考えられる。

 しかし、こんな時の事も考えて、マルコは追跡を開始する準備は整えてある。

 多くの敵兵に火傷を負わせ、逃走用の馬も逃がしておいた。

 これでさらにヴィーゴの守りを割くことに成功したヤコボは、仲間と共にマルコの下へと報告へ急ぐことにした。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ