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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
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第257話 反撃開始

「くそっ!! 折角ティノが死んだというのに、これでは勝ちを得られるか分からないではないか!!」


 自陣で戦況を眺めていた皇帝ヴィーゴは、今日の結果に怒りを露わにしていた。

 帝国にとっての最大の脅威となるティノがいなくなったことは喜ばしいことだが、それと同時に帝国兵たちが大量に減ってしまい、折角のアドバンテージが無くなってしまった。

 この日のために大量に集めた兵が、今では半分以下にまで減ってしまい、王国側がどれほどの兵力が残っているかは分からないが、このままでは負けないまでも苦戦を強いられることは間違いない。

 今まで余裕をかましていたのに、怒りを鎮めることができない。


「チッ! 使えない将軍どもめ!!」


 ティノの手足を移植して魔獣化させた生物兵器を与えたというのに、王国側の兵はたいして減らせることができなかった。

 しかも、自分の逃走用に残しておいた転移魔導士まで使わせたというのに、たいした結果も出ていない。

 将軍たちが思っていた以上に口だけだというのが明らかになって、更に怒りが湧いてくる。

 所詮次期皇帝争いで、誰にも付かないという消極的な策しかとらなかった連中だということだ。

 ここぞという時に勝負に出るということが鈍い連中だということでしかない。


「ダルマツィオ! 次の奴隷兵の補充はいつだ!?」


「明日の夕方には到着する予定です!」


「明日……」


 今日の戦いで、確かに大量に兵を失ってしまった。

 しかし、ヴィーゴからすれば、減ったなら増やせばいいというだけのことでしかない。

 魔獣を使えばティノも倒せ、すぐに王国も潰せると思っていた。

 それがこんなことになるとは思ってもいなかったが、もしものためにと奴隷の補充を手配していたことが功を奏した格好になった。


「奴隷がこんなに待ち遠しく思うとは予想もしなかったぞ!」


「左様ですね……」


 とりあえず、お互い魔導士は使用不可能だろう。

 魔力が枯渇するまで使用した場合、2、3日は安静にしていないと場合によっては疲労で気を失ってしまう。

 無理にでも使わせるという選択もできるが、そんなことをして威力や制度の低い魔法を使われても、戦果が想定しにくい。

 そんな不確定な力により、まだ奴隷たちを戦わせた方が戦果を想定しやすい。

 それに、所詮戦いは数が多い方が有利。

 奴隷の補充ができれば、ティノがいない今は帝国の有利が保証できるはずだ。

 何としても、奴隷が来る明日まで数の有利を維持したい。


「それにしてもマルコがティノごと兵を削ってくるとは……」


 ヴィーゴからすると、王国側の兵やマルコは精神的に甘い部分がある。

 敵の奴隷でも攻撃をためらうようなこともあった。

 そんなマルコが、ティノを犠牲にして敵兵を吹き飛ばすなんてことをやってくるとは予想外だった。


「ともかく、隊列の編成が済んだら、将軍たちに無闇に突っ込まないように伝えておけ!!」


「かしこまりました!!」


 数を維持するなら、攻め込むふりをして遠距離武器による攻撃でお茶を濁すしかない。

 今日のように大量に兵を減らすことになれば、敗北も覚悟しなくてはならなくなる。

 大量の兵を率いて敗北なんてことになったら、歴史に残る敗北になってしまう。

 今日のことで将軍たちには特に期待しないが、さすがにこんな簡単な指示を失敗することはないだろう。

 ダルマツィオは、ヴィーゴの指示を将軍たちへ伝えるように兵を送った。






「打て!!」


 先に動いたのは、いつも通り帝国軍。

 しかし、これまでとは違い、弓や投石機による遠距離からの攻撃で地味に王国側へ攻撃をしてくるだけにとどめている。

 防壁を乗り越えてこようとする者は全く現れない。


「応戦しろ!!」


 帝国の攻撃に対し、王国側も弓による攻撃で応戦する。

 どちらも地味に兵が減るだけで、これまでの戦いに比べて薄味と言いたくなるような戦いだ。


「流石につまらん戦いだ……」


「そう言うな。陛下の指示だ」


 矢を打ち合うだけのあまりにもつまらない戦いに、将軍の1人は思わず呟く。

 他の将軍も同じことを思っているが、ヴィーゴの指示なので従うしかない。

 昨日の兵が大量死したことが、自分たちのせいだと思っているようなので、将軍たちからすると言いがかりに思える。

 ティノを倒すための策は、完全に予定通りにおこなった。

 それであのようになったのは、ティノと王国の方が対処が勝っただけだ。

 つまりは、あの策を考えたヴィーゴより、マルコ王の方が上だったということだ。

 将軍たちはみんな同じように思っているが、当然口に出す訳にはいかない。

 そんなこと言えば、当然首を斬り飛ばされる未来しかありえないからだ。


「予定通りだ。行くぞ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 帝国がチマチマと時間を稼ぐように攻撃をしてくるということは、王国側は分かっていた。

 そのため、マルコは策を打つことにした。

 マルコの指示を受けたヤコボの隊は、物陰から一気に目標の場所へと飛び出した。


「なっ!!」「貴様ら……!!」


 物陰から飛び出したヤコボたちは、すぐさま側にいた人間を斬り殺す。

 大きな声を出す前に殺したかったが、そんなことは問題ではない。


「一人残らず確実に仕留めろ!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 元々、ここにいる人間は一人残らず始末するのがヤコボたちに与えられた使命だ。

 攻め込んでいる者たちが戻ってくるまでに、急いでことを終わらせなくてはならない。

 そのため、ヤコボとその隊員は、迅速かつ正確にそこに居た者たちを始末していったのだった。


「何っ!? 自陣の一画に敵兵が現れただと!?」


「はいっ!!」


 ヤコボたちの襲撃は、すぐさま帝国の将軍たちに伝わった。

 王国の兵が防壁の中から出てきたところなんて誰も見ていない。

 いつの間に背後の自陣に回られたのか理解できない。

 しかし、今はそれを考えている時間はない。

 早々に襲撃されている場所へ戻る必要がある。


「どこだ!?」


「魔導士たちを休ませていた陣です!」


「なっ!? くそ!!」


 ティノを倒すために、帝国は大規模魔法を使って魔導士たちを全て使い潰した。

 失敗に終わり、逆に大打撃を受けてしまったが、王国も魔導士たちを使えなくなったであろうことは明白だ。

 今日の夕方に来る奴隷兵と共に、休息不十分の魔導士でも場合によっては使ってしまうという選択も将軍たちは考えていた。

 しかし、王国側は魔力を失い何もできない魔導士たちの襲撃をおこなってきたようだ。


「そこの隊! 我と共に自陣へ戻るぞ!!」


「「「「「りょ、了解しました!!」」」」」


 将軍の1人が慌てたように声をあげ、近くにいた隊の隊長たちが返答した。

 返事をしたいくつかの隊を引き連れて、襲撃を受けている魔導士たちのいる陣へと戻ることにした。






「くそっ!! 遅かったか!!」


 隊を引き連れた将軍の一人が魔導士たちの陣へたどり着いた時には、寝込んでいる魔導士たちの警備をしていた者たちも含めて全員が出血して息絶えていた。

 急所に刃を突き刺し、確実かつ迅速にこなす手際から、暗殺系の技術が得意な者たちのように思える。

 どこから抜け出し、どこへ去っていったのかは分からないが、帝国が魔導士たちの全滅という結果に、将軍は怒りで打ち震えた。


「敵を探せ!!」


「「「「「は、はいっ!!」」」」」


 怒りを向けるのはこの惨状を起こした者たち。

 将軍は怒気を込めて自分と共に戻った兵たちに敵の捜索を命令した。

 その命令に従い、兵たちも周囲をの捜索を始める。

 しかし、結局ヤコボたちの隊のことを見つけることはできなかったのだった。






「成功しました!」


「ご苦労さん! よくやったぞ!!」


 防壁の上からの矢の打ち合いが続く中、ヤコボたちの隊が戻ってきた。

 そして、マルコの下へ戻ったことを告げると、マルコは彼ら1人、1人に直接礼を言って回った。

 ヤコボたちも無傷で魔導士たちを暗殺をおこなってきたわけではない。

 警備する者たちの抵抗に遭い、何人かは命を落とした。

 しかし、マルコの狙い通りに帝国魔導士を全滅させることに成功した。


「奴らの脅威となるものは全て排除した!! 後は攻めるのみだ!!」


「全軍帝国兵へ攻めかかれ!!」


「「「「「おぉ!!」」」」」


 ティノを始末するために放った大規模魔法は撃てなくても、疲労困憊の魔導士たちによる集団魔法はかなりの脅威になりうる。

 しかし、作戦を成功したヤコボの帰還で、王国側に恐れるものはなくなった。

 ここからは攻めるのみ、マルコの言葉の後に軍団長であるベルナルドの声が響き渡る。

 これまで守り一辺倒だった王国兵は、門から飛び出し、一気に帝国兵へと向かって行ったのだった。



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