表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
253/260

第253話 若さの力

「ガアァーー!!」


“ドンッ!!”


「危ねえな!」


 魔力のこもった拳がティノへ向かって振り下ろされる。

 それを躱し、ティノは魔獣の1人に文句を言う。

 まともに食らったらティノでも危険な攻撃力だ。

 躱された拳はそのまま地面を打ち、爆発を起こしたかのように土煙を巻き起こした。


「グルァーー!!」


「このっ!!」


 1人の攻撃を躱せばもう1人が攻めて来る。

 その魔獣の攻撃を躱しつつ、ティノはカウンターで顔面を打ちつけた。


「グウッ!」


 ティノの攻撃を受けた魔獣は、たたらを踏んで後退する。

 そして、痛みを吹き飛ばすかのように首を振る。

 その僅かな停滞の後、またもティノへ向かって攻めかかった。


「チッ! 耐久力も上がってやがる……」


 魔獣の片方がそうしている間に、もう片方がティノへ攻撃をしている。

 攻撃を与えたというのに、それほど聞いていない様子の魔獣の耐久力に思わず舌打が出てしまう。


「グラァッ!!」


「オラッ!」


 タイミングを合わせただけの攻撃では、魔獣へは大きなダメージを与えられない。

 ならばと、振り下ろしてきた拳を躱して脇腹へミドルキックを食らわせた。

 キックを食らった魔獣は、少しの距離吹き飛ばされて片膝をついた。


「グルㇽ……」


「ゲッ!! マジかよ……」


 しかし、その攻撃を受けてもすぐに立ち上がってきた。

 あまりに予想外の耐久力に、ティノは驚きの声をあげる。


「身体強化だけでも面倒な相手だな……」


 ティノとの戦闘が再び始まって、掠りはしても終始魔獣たちの攻撃はティノに当たっていない。

 しかし、こっちの攻撃もたいして効いていないとなると、倒すのに時間がかかってしまう。

 折角体が元に戻ったと言っても、回復や転移で魔力を消耗している今の状態では、この後の帝国兵を相手をすることを考えると無理はできない。


「時間をかけるしかないか……」


 出来れば思いっきり魔法をぶっ放してさっさと勝利をしたいところだが、仕留めきれなかった時の事を考えたら目も当てられない。

 しょうがないので、ティノは無茶をすることはやめ、コツコツ魔獣へダメージを与えることを選択した。







「オラッ!!」


「ガウッ!!」


 もう何度目になるかのティノの攻撃が魔獣へ放たれる。

 流石にティノの攻撃によるダメージは蓄積され、魔獣たちの顏や体は所々ボコボコに腫れあがっている。 

 そんな状態になっても、魔獣たちは奴隷紋の影響からかティノを倒すために立ち上がる。


「ハァ、ハァ……、しつけえな……」


 流石のティノも、魔獣たちの攻撃を躱すために動きっぱなしで汗を掻き、息も切れてきた。

 何度殴り飛ばしても立ち上がて向かって来る魔獣の姿に、さすがに辟易してくる。


「ガウッ!!」


「このやろ!!」


 懲りずに向かってきた片方の魔獣の攻撃を躱し、顔面を抱えて顎へ飛び膝を食らわせる。

 ガチンと言う音が聞こえる程の攻撃を食らい、魔獣は空を飛んで行った。


「なっ!!」


 しかし、ティノは跳び膝を食らわせたのは失敗だったことに気付く。

 空中に浮かんでいるティノが目にしたのは、跳び膝を食らった方とは違う魔獣の姿だった。

 その魔獣は、これまでずっと身体強化のみにしか使用していなかった魔力を、魔法に使うために片手に集めていた。

 空中でも転移、もしくは風魔法を利用して移動をすることは可能だが、転移すると魔力を結構消費する。

 そのため、ティノは転移ではなく風魔法で空中を移動した。


「ガアァッ!!」


「くっ!!」


 しかし、そんなことお構いなしと言うように、魔獣が溜めた魔力による攻撃の範囲は広かった。

 まるで火炎放射のような攻撃に、ティノは咄嗟に水魔法で炎をガードした。


「ガアッ!!」


「っ!! こっちが狙いか!?」


 片方の魔獣の魔法攻撃に対処するためにティノが意識を向けさている間、跳び膝を食らった魔獣はいつの間にかティノの背後へと迫っていた。

 魔法へ対応していたことで、その魔獣の攻撃に反応することが遅れる。


“ドカッ!!”


「ぐっ! 重てえ攻撃しやがって」


 反応は遅れたが、ティノは魔獣の攻撃をガードした。

 しかし、かなりの量の魔力を纏って強化した拳の重さに、吹き飛ばされてガードしたティノの腕は若干痺れる。

 すぐに回復する痺れだが、改めて食らった時の事を考えると嫌な汗が流れる。


「グルァッ!!」


「おわっ!! このっ!!」


 攻撃によって飛ばされたティノが着地をした瞬間を狙い、魔法を放った方の魔獣が横から殴りかかってきていた。

 その攻撃をダッキングして躱し、しゃがんだ時の反動を利用してそのままアッパーカットをかます。


“ドンッ!!”


「ぐあっ!!」


 アッパーを食らわせたすぐ後、ティノへ魔力球が飛んできた。

 もう片方の魔獣も、魔力を使っての遠距離攻撃をするようになったらしい。

 威力よりも速度を優先した攻撃なのか、ティノは躱すことができず、背中にその魔力球が直撃した。


「ティノ殿!!」


 門の中へ入り回復薬で傷を治したベルナルドは、防壁の上からティノの戦いを眺めていた。

 多くの兵の命を奪った魔獣たち。

 戦争ならそうなることも覚悟していたとは言っても、目の当たりにすると怒りが湧かないはずがない。

 何としてもあの魔獣を殺してやりたいところだが、自分では返り討ちに遭うのが目に見える。

 ティノに何とか倒してほしいのだが、魔獣の頑丈さに驚いている。

 しかも、こう言っては何だが、化け物と言ってもいいほどの実力を持つティノを相手に互角戦いをしているように見える。

 それどころか、少しずつだが成長しているようにすら思える。

 これまでほとんど使っていなかった魔法まで使うようになり、とうとうティノを捕えるほどになっている。


「魔法部……」


「……大丈夫!」


 このままではティノが負ける。

 肉体が元に戻っていつもの化け物に戻ったというのに、魔獣たちに苦戦している所を見ると、それまでに魔力をかなり消費してしまった可能性がある。

 ならば、援護しようと魔法部隊に大規模魔法を準備させようとベルナルドは思ったのだが、マルコがその指示を制止した。


「マルコ様……?」


「ティノ様が負けるはずない!」


 ティノへの援護を止められたことに訝しんでいると、マルコは自信ありげに帝国兵の方へ目を向ける。

 魔獣が戦っている巻き添えを食らって数を減らしては、勝てるものも勝てなくなる。

 そのため、帝国の兵たちは王国側と同様に離れて眺めているしかできないでいる。


「我々は魔獣を倒した後のことを考えるんだ!」


「……了解しました!! 見張りの兵以外は一旦集まれ!!」


 ティノの誘導で魔獣が暴れたおかげで数を減らしたが、王国側とは比べ物にならないほど帝国はまだまだ兵が潤沢にいる。

 その帝国兵を相手に、ティノの助けなく勝つ策を考えるのが今マルコたちができることだ。

 魔獣の強さを分かった上でもティノのことを信じるその思いの強さは、やはり育ての親だからだろうか。

 理由はどうあれ、今はマルコの言うように帝国兵へのことを考えるべきだ。

 そう判断したベルナルドは、防壁の上から降りて兵を集めての作戦会議を始めることにした。


「痛えな! この野郎!!」


「ウガッ!!」


 魔力球を背中に当てられて一瞬息が止まったが、そこまで大したダメージは受けていない。

 精々服が破れただけだ。

 しかし、ちょっとは痛かったので、魔力球を放った魔獣へ接近し、ティノは怒りと共に殴りつけた。


「くそっ! こいつら……」


 攻撃をした直後、今度は違う方の魔獣が魔力球で攻撃してくる。

 今度は、その攻撃を躱したが、かなりギリギリだった。

 ジワジワと成長している魔獣たちに、ティノはその原因が浮かんできた。


『元は子供だから成長が速いのか?』


 帝国が生み出した人間を魔獣に変える方法は、子供でなくては変化に耐えられえないという欠点がある。

 この2体の魔獣も元は人間の子供だ。

 魔獣へ変化しても、まだ人間としての何かが残っているのだろう。

 肉体を魔獣へと化しても、子供らしく見た物を吸収していっている。

 若さによる力とでも言うのだろうか。

 どうやらそれが今ティノへ牙を剥いているかのようだ。


『年寄りの俺への当てつけか?』


 年齢なんて当の昔に数えなくなった。

 あらゆる面で成長を感じられなくなったティノへ、まるで当てつけのように感じてしまう。


「んっ?」


 成長する魔獣たちに、ティノも戦いに意識を集中しなければならなくなっていた。

 そのせいで、気付かなかった。

 帝国側が密かに動いていたということを。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ