第246話 移植者
「俺の手足か……」
種明かしをされ、ティノは納得いった。
3人はそれぞれ魔力の流れがおかしくなっている箇所がある。
右手、左足、右足とそれぞれ箇所が違うが、その部分が異常に魔力を蓄えているように感じられる。
「なるほど、道理でイカれた能力をしてるわけだ」
手足が蓄えた魔力が移植された人間の中に巡っているが、その魔力に肉体が耐えきれないのか、暴走しないように抑え込んでいるのに必死に見える。
その状態でもそれぞれとんでもない力を有しており、自分の手足ながら性能の高さに目を見張る。
「流石ヴィーゴ様だ! ティノ対策には本人を使うのが一番! しかし、それをやろうにも簡単には上手くいかない所を可能にしてしまうのだから……」
「ヴィーゴの策か……」
こんなことを思いついても実行しようなんて考えを持つこと自体頭がおかしいと思えるが、帝国では倫理観なんて無視して実行するという部分がある。
それがこの場面においては功を奏したと言ってもいい。
片手を失いステータスが落ちているティノに、手足を移植された3人は猛攻を仕掛けている状況だ。
「どうやら、ティノとあの3体が戦い始めたようです。……どうなるでしょうか?」
離れた地にいるヴィーゴの所にも、ティノが3人と戦い次始めたことが伝わる。
ティノの手足を移植するという考えを聞いた時、ダルマツィオは珍しくヴィーゴの考えに否定的だった。
たしかに3人は移植して普通の人間のレベルから逸脱した戦闘力を有したように見えるが、所詮は他人の力を利用しているに過ぎない。
そんな力でティノのことを倒せるか考えると、どうしても否定的に思えてしまうのだ。
「確かに、そこら辺の人間の手足を挿げ替えただけでは何の意味もないが、あいつは特別な人間だ。魔力を蓄える能力も高いし、耐久性も高い。ただ拒絶反応と使いこなせるかだけが問題だな」
ダルマツィオが否定的な意見なのも、ヴィーゴ自身納得できる。
ティノの力を利用して、本人に対抗しようという考えはたしかに面白いが、そんなことも超越したレベルにいるティノに、通用するかは眉唾ものだ。
しかし、その能力を使いこなせるようになれば、多少の対抗力になりえるはず。
その思いから、ヴィーゴは移植手術を敢行したのだ。
「面白い考えだ!」
3人の攻撃を左手に持った剣で防ぎながら、ティノはまるで人ごとのように呟く。
何の才能もなかったただの農民が、いつの間にやら世界最強と呼ばれるほどにまで成長し、その地道な努力によって鍛え上げた力が、目の前で証明されているような気がした。
「俺の手足を移植しただけでこんなに能力が上がるなんてな……」
体の一部でもこのように力を持てるというのは、とても興味深い。
他の人間に、どれだけ移植すればどれだけの強さを得られるのかなど検証してみたいという気持ちも沸いてくる。
「しかし、移植したのが子供というのは失敗だったな……」
ティノの言うように、攻めかかる3人は全員が子供。
年齢的に、成人(15歳)一歩手前といったくらいの年齢に見える。
首の後ろには刺青がされているように見えるので、奴隷紋によって行動を制御されているのだろう。
その少年たちが、簡単な装備を付けた程度でティノと戦っているのだから素晴らしいとは思えるが、どんなに上手いと言ってもまだ魔力操作が上達しきっていない子供。
ティノの手足が内包する魔力を手なずけることができず、苦しんでいるのが表情を見ただけで分かる。
「もう少し大人に移植するべきだったな……」
ティノは3人の攻撃を防いでいるだけで、反撃をしようとしない。
反撃する間が無いという訳ではない。
このまま何もしなくても、ティノの手足から流れ込んでくる魔力に耐えきれなくなって、3人は動けなくなる。
もしくは、魔力に肉体が耐えきれずに死んでしまうことになるはずだ。
だから、反撃などしなくてもティノとしては何の脅威にもなりえないのだ。
「このままでは、兵が城壁にたどり着いてしまう。お前たちには悪いが、止めさせてもらう!」
「「「っ!?」」」
このまま膠着状態で時間を使っていては、この3人に任せて突き進み始めた帝国兵が王都の防壁に攻撃を開始し始めてしまう。
それでは、折角自分が出撃した意味がなくなってしまう。
そのため、ティノは3人を倒すことに決めた。
「ガァッ!!」
「っと!」
3人は、右手を移植された子を中心として、足を移植された2人がティノの後方から攻撃をするというパターンで攻めてきている。
剣での攻撃とは言っても、足を移植された2人の剣術は年相応でたいしたことは無い。
それに反し、右手を移植された子の剣技は、目を見張るものがある。
ティノの右手による恩恵なのだろうか。
しかし、その剣技も自分の剣技だから太刀筋を理解している。
躱すことなどたやすく、ティノは横に跳んで回避する。
「「ハッ!!」」
「当たるかよ!」
躱したところに2人の攻撃。
足を移植された方は、その脚力を利用した移動速度で攻めかかる。
かなりの速度だが、その速度に他の部位が対応できない。
そのため、どうしても速度だけの直線的な動きになってしまい、ティノに一撃を入れることなどはできはしない。
2人同時に攻めてこようと、工夫のない攻撃が通じる訳もなく、ティノは首を刈りに来た2人の剣をしゃがみ込むだけで躱す。
「「セイッ!!」」
「フンッ!」
しゃがみこんだティノへ、足を移植した2人は蹴りを放つ。
移植された足にはかなりの魔力が込められており、当たればティノでも痛い思いをすることになるだろう。
しかし、それは当たればという話で、当たらなければただの蹴り。
ティノがしゃがんだ足を伸ばし、後方へジャンプをするだけで、2人の蹴りは空をきった。
「「ハッ!!」」
「魔法はダメだな……」
バックステップをして距離を取ろうとするティノへ、2人は魔法を放つ。
巨大な2つの火球が向かって行くが、たいしたことがないことにティノは少しがっかりする。
たしかに見た目はすごそうだが、魔力の練り込みが足らないので威力自体はたいしたことがない。
ただ、ティノからしたらそうというだけで、一般的には強力な攻撃だ。
「ムンッ!!」
飛んできた2つの火球を、ティノは剣の腹の部分を使って吹き飛ばす。
その吹き飛ばされた火球が飛んで行った先は、王都の防壁の手前。
帝国の兵の先頭がいるであろう位置へ吹き飛ばすことで、敵の数を減らしてしまおうと考えたのだ。
“ボボンッ!!”
飛んで行った火球がティノの考えた通りの結果をするように爆発した時、ティノは魔法を放った2人の
子供に接近する。
「ハッ!!」
「ぐっ!!」「ごっ!!」
2人に接近したティノは、ドロップキックをするように2人の腹を同時に蹴り込む。
移動速度による突進力をもろに受け、2人は将軍たちのいる方へと飛んで行った。
「ダリャッ!!」
「おわっ!!」
右手を移植された子は、2人が戦っている間に魔力を練っていたらしく、2人以上の威力の魔法を放ってきた。
今度は弾き飛ばす余裕もなく、ティノは飛んできた火球を躱すことしかできなかった。
“ボンッ!!”
「あっ!?」
しかし、放ってきた方角が良くなかった。
少年の放った魔法は、ティノが狙ったわけでもないのに、ちょうど多くの帝国兵が並んでいる所へと飛んで行き、爆発を起こして多くの兵を死傷させた。
「おのれ!! 貴様ら何をしている!!」
「こうなれば、もうあれを使うしかない!!」
ティノのドロップキックによって近くに飛んできた2人の奴隷を、将軍たちは顔を真っ赤にして叱りつける。
3人がやられれば、自分たちの命が無いと恐れているからだ。
その恐怖を払拭するためか、将軍たちは何か奥の手らしきものを使うことにしたようだ。
「……おいおい、マジかよ……」
その奥の手に、ティノは慌てたような声を呟いたのだった。




