第245話 強襲
「ティノだ!! 奴を殺せ!!」
「殺した者には相応の地位を与えられるぞ!!」
たしかにティノの出現は予想外だが、いくら何でもこの軍隊を相手に戦いを挑むなんて、無謀も良いところだ。
将軍たちからすれば、危険であってもティノを殺せば皇帝ヴィーゴへ大きな信用を得るチャンスと言ってもいい。
他の将軍が率いる兵にその手柄を取らせるわけにはいかないため、将軍たちはそれぞれ自身の兵を我先にとティノへと差し向けた、
「邪魔だ!!」
襲い掛かる帝国兵たちに対し、ティノは魔法の指輪から剣を取り出す。
そして、魔力で身体強化したティノは、一気に兵へ向かって突進していった。
「ギャッ!!」「グアッ!!」「ガッ!!」「ウガッ!!」
迫り来る兵たちを、ティノはまるで草をかき分けるようにつき進む。
片手であっても、普通の兵士なんてティノの相手にはならない。
ティノに近寄った者は、あっという間に斬られて朽ちていく。
「おいっ!! こっちに一直線で向かって来るぞ!!」
将軍たちからしたら姿も見えない位置にいたはずのティノが、どんどん兵を殺しつつ迫ってきているのが見えてくる。
そのことに一人の将軍が慌てたような声をあげる。
「狙いは何だ!?」
「俺たちの首か!?」
「何だと!?」
他の3人の将軍は、必死に冷静を保とうと会話を交わす。
ティノへの恐怖に逃げてしまいたいところだが、そんなことをすれば生き残ったとしても完全に今の地位を失ってしまう。
帝国において落ちた地位を取り戻すようなチャンスは戻ってこない。
ここで命を落とさなくても、帝国内では死を意味する。
そのため、腰が引けても逃げる訳にはいかない。
「舐めるな!!」
「簡単にやられてたまるか!!」
「ここまでの地位につくのにどれだけ耐えたと持ってるんだ!?」
帝国内で将軍の地位に就くには、ただ強いだけではたどり着けない。
頭を使って上手いこと生き抜かなければ、あっという間に奴隷に落とされるような国だ。
そこを何とか生き抜き、将軍の地位に就くにはいくつもの修羅場をくぐり抜けなければいけない。
そうやって死ぬ気で得た地位を、1人の化け物に帳消しにされてなるものか。
将軍たちは、ティノへの恐怖よりも怒りの方が沸き上がってきた。
「おいっ!! あいつらを呼び出せ!!」
「了解しました!!」
その怒りに任せて、将軍の一人が部下へ指示を出す。
指示を出された兵の一人は、その指示を受けてすぐさま動きだした。
「あいつらを使うのか?」
「あぁ……、ヴィーゴ様がもしもの時には使えと仰っていた。遠慮なく使わせてもらおうじゃないか!」
将軍たちには、ヴィーゴから渡されていた者たちがいる。
この戦いに勝つことは当然だが、勝つにしても将軍たちに死なれては困る。
そのために用意した者たちだ。
ティノが来るとは思っていなかったため使うことは無いと思っていたが、使うとしたら今しかないだろう。
「コントロールできるか?」
「そんなの知るか! 俺たちが助かれば他は構わんだろ?」
ヴィーゴの思い付きで急遽作り上げたその者たちは、色々な意味で自分たちが使いこなせるか分からない。
不安を口にするが、確かに多少の暴走があろうともティノを仕留めれば済む話。
自分たちの保身は確保されているのだから、気にすることなく使うことにした。
「あと少し!!」
帝国兵をかき分ける速度を変えず突き進むと、ティノは後方に控えている将軍たちの姿が目に入った。
そのため、そのまま敵兵を斬りながら将軍たちへ向かって行く。
将軍たちが言っていたように、ティノの狙いは将軍たちの首のみだ。
彼らを殺した程度でどうにかなるという訳ではないが、彼らは彼らでなかなか厄介な存在になっている。
領地の統治能力が高い彼らがいなくなれば、一時の間でも帝国内は市民のコントロールが不安定になる。
それに、戦いにおいて指揮官がいなくなれば、混乱を招くことができるはずだ。
その混乱時を狙って、マルコが王国兵を動かすはずだ。
「がぁ!!」
「まず一人!!」
近場にいた将軍へ向けて近寄ると、ティノはそのまま首へ剣を突き刺す。
その将軍は、一番最初に怯えて縮こまっていたため、何の抵抗もすることもなく崩れ落ちた。
確認するまでもなく一人を仕留めたティノは、すぐさま次の将軍へ向けて進路を変える。
「二人目!!」
“ガキンッ!!”
「っ!!」
次の将軍に斬りかかったティノだったが、さっきの将軍のように上手くは行かなかった。
剣を抜いた将軍によって、ティノの剣が防がれた。
「簡単に勝てると思うなよ!!」
「さっきの奴が弱かっただけか……」
先程の将軍をあっさり殺すことができたので、帝国の将軍は思ったよりも手ごたえがないのかと思ったら、どうやら違ったようだ。
スピードに乗った自分の攻撃を止めたこの将軍に、認識を切り替えることを教わったようだ。
「このっ!」
ティノの剣を止めた将軍は、力任せに押し込んでティノを遠ざける。
押されたティノは、まるでふわりと音が聞こえてくるような様子で地面へ着地をすると、またも一気に地を蹴り将軍へと斬りかかる。
“バキンッ!!”
「所詮はただの人間。俺の相手ではない!」
「ぐっ!!」
またも将軍に接近したティノは、力一杯に剣を横薙ぎする。
将軍はそれを防ごうとして剣を向けるが、ティノの攻撃の威力に剣が耐えられず、バラバラと砕け散った。
剣がなければもう防ぐ事もできない。
砕けて短くなった剣を持ったまま後退りする将軍へ向かって、ティノはゆっくりと近付く。
そして、剣を上段へ掲げた時、
“ドガッ!!”
「がっ!?」
将軍の一人を斬り殺そうとしていたティノの横から、一人の人間がティノへ攻撃をしてきた。
とてもまともな人間が出せるような速度ではない攻撃に、ティノは思わずその攻撃を受けてしまい、かなりの距離を吹き飛ばされることになってしまった。
「痛えな……」
脇腹にかなりの衝撃を受けたが、魔力によって衝撃を和らげたティノはそれ程ダメージを受けた様子はない。
しかしながら、ここ数年味わたことない久々の痛みに、ティノは攻撃をしてきた者を警戒した。
「おぉっ! 間に合ったか!!」
「奴だ! 奴を殺せ!」
「「「ううぅ……」」」
先程一人の将軍が指示を出した兵が連れて来た者に命令する。
その兵の命令に、連れて来られた3人は小さく呻き声を上げる。
3人とも奴隷紋が反応している所を見ると、命令に納得していないのかもしれない。
「奴を殺せば、お前らは自由だ!!」
「「「っ!!」」」
将軍の言葉に、3人は反応する。
将軍にというより、自由と言う所の方だが。
「……何だ? そいつらは……」
3人は奴隷兵のようではあるが、どうやら何か特殊な力が働いているのか、膨大な魔力が体をめぐっているように見える。
何が原因なのかは分からないが、その力を抑えようとして苦しんでいるようだ。
「「「ガァッ!!」」」
「っ!!」
命令を受けたその3人は、ティノに目を向けると一気に地を蹴った。
先程の攻撃の威力を考えると、相当な手練れだろう。
そのため、ティノは警戒していたのだが、その3人の移動速度は予想の上を行っていた。
一気にティノへと接近した3人は、それぞれ手に持った剣でティノへ斬りかかった。
「危ねえな……」
しかし、その3人の攻撃をティノは剣で弾いて何とか距離を取る。
「ハッハッハ……、さすがの貴様も手こずっているようだな?」
「っ!?」
ギリギリの所で攻撃を躱し距離を取ったティノに、先程攻め込まれていた将軍の男は笑みを浮かべる。
ティノが追い込まれていると思ったからかもしれない。
「そいつらは貴様の手足を移植した3人だ!!」
「っ!! なるほど……」
将軍の男によって明かされたことで、ティノは3人の違和感の正体に気付いたのだった。




