第233話 冒険者奴隷
「奴隷兵だろうと躊躇をするな!! 躊躇した分、自分の家族や仲間を危険にさらすと思え!!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
開戦直後、兵数に勝る帝国は、これまで通り数に物を言わせた攻撃を開始する。
しかし、最初のうちは苦しめられていたルディチの兵士たちも、この戦い方にも慣れて来たのか臆することなく攻撃を放ち続けている。
特に軍を任されているベルナルドは、部下の者たちへ檄を飛ばす。
ティノの行動により、罪もない奴隷兵を殺すことに躊躇いを持っていた時期とは違い、今では甘さが完全に抜けきっている。
その兵たちも、ベルナルドと共に戦ってきた者たちを中心に、新しく加わった王都守護の兵たちを引っ張り、いい流れを作っている。
「チッ! 奴隷兵ではたいした戦果は得られないか……」
「急遽招集したためか、村人が多いようですね……」
離れた地から戦況を見聞きしている皇帝のヴィーゴは、戦況の不利に舌打をする。
小国だった国から先代皇帝は力で多くの国を掌握し、ヴィーゴに皇帝の座が引き継がれたことにより、この世界の西大陸の制圧あと一歩とまできている。
この王都での決戦に勝利すれば西大陸の制覇が完了。
そして、次は北大陸・南大陸、果ては東大陸へと更に進出していくつもりのヴィーゴからすると、ここで手こずっている訳にもいかない。
さっさと終わらせたいというのが本音だ。
もちろん、ルディチ王国の王であるマルコのことは認めているが、所詮は国同士の戦いで個の力など大して戦況を覆すとは思っていない。
そのため、これまでの砦の制圧よりも数を増やして挑んだ今、どんどん数を減らされている現状が気に入らないのかもしれない。
その横で、今では宰相のような位置になっているダルマツィオが、奴隷の招集の質を冷静に査定していた。
「この戦いが終わったら、その将軍は降格させておけ!」
「了解しました」
現在確実に押されているというのに、まだまだ数の有利があるせいか、ヴィーゴは勝利を揺るぎないものだと確信しているようだ。
報告を聞き、奴隷召集の手を抜いたと判断したヴィーゴは、その将軍の降格をあっさり決定し、ダルマツィオはすんなりと了承をした。
◆◆◆◆◆
「ウッ!?」
「王妃様?」
マルコが戦場へと足を運んですぐ、王城では王妃であるパメラがお腹を押さえて苦しみだしていた。
予定よりも遅れていた出産の兆候が、ようやく出たようだ。
それを確認した女中たちが、慌てつつも冷静に動き出した。
こんな時のために、マルコは出産の経験がある者を中心にパメラの側につけていたのだ。
「どうした?」
パメラの部屋から離れた場所でもしもの時のために待機していたロメオが、慌ただしい音に気付き廊下に顔を出した。
「王妃様に出産の兆候が出ました! 医師を呼んで来ていただけますか?」
「っ!? 分かった!!」
ロメオが廊下に出ると、パメラの部屋から何人もの女中が出入りし、王妃の護衛隊である女性騎士たちも手伝わされていた。
女中の的確な指示を受け、一大事だと判断したロメオは、慌てて医師を呼びに廊下を走り出した。
◆◆◆◆◆
城内のことなど知らず、戦いは続いていた。
「奴隷兵の中にも危険な者もいる。注意しろ!!」
ベルナルドの指示が飛ぶ。
彼が言うように、奴隷兵の中には何故これほどの実力がある者が奴隷にされているのだと言いたくなるような者たちもいる。
村人ばかりの奴隷兵たちは成すすべなく戦場で骸と化していくのに反し、王国兵を何人も倒す集団が幾つかあり、その周辺の王国兵は対応に追われていた。
「……奴らは確か冒険者の“旋風”とか言うパーティーじゃ?」
王国兵の中には冒険者上がりの者もいる。
その者たちからすると、見たことある人間たちが帝国の奴隷兵としてこちらへ向かって来ていることに違和感を覚えていた。
「“旋風”?」
「あっちには“白蛇”のパーティーもいるぞ!」
「どっちもAランクのパーティーじゃないか!」
広がる同様により分かったのは、王国兵が手こずっているのは、どうやら大体が冒険者の者たちらしい。
しかも、高ランク冒険者が混じっているのが問題になってきた。
「何で帝国の奴隷に……」
誰が言ったのか分からないが、この一言に限る。
冒険者組合は世界中にあり、独自のネットワークでつながっている。
そのため、その国々の問題に加担するようなことはしないように、一線を引いているはず。
なので、冒険者が戦争に加担しているのが不思議なのだろう。
しかも、こちらに向かって来ているのは高ランク冒険者パーティー。
冒険者上がりの実力では、まともに戦って勝てる訳もない。
彼ら冒険者のランクを知らない者たちは、無謀にも攻撃をしかけている。
しかし、彼らの見事な連携によって、あっさりと打ち返されている。
「クッ! 理由は分からないが、冒険者たちは敵になっているようだ!」
「奴らに個で当たるな! 集団で距離を取りつつ攻撃をしろ!」
冒険者のことはの冒険者が知っている。
兵の中にいる冒険者上がりの者たちの言葉により、弓兵や魔法兵を中心とした者たちが攻撃を開始する。
「……さすがAランク」
矢と魔法での手段による攻撃が集中するが、パーティー内の魔法使いの者が障壁を張って防ぐ。
その障壁により、魔法使いの者は味方の冒険者たちを防ぎきる。
その防御力の凄さに、敵ながら称賛に似た声を王国兵は漏らした。
「いつまでも耐えられる訳がない! 続ければ直に崩れる!」
個人の魔力量なんて、どんなに鍛えても限界が来るもの。
ティノというイカレた者もいたが、あれは特殊中の特殊。
何かしらのユニークスキルでも持って生まれた者でしかありえない。
ユニークスキルでも、ティノ程にぶっ飛んだ存在になれる者は歴史上片手で数えるほどしかいない。
そのため、王国兵たちは奴隷にされている冒険者たちへ向け、攻撃を続けることでなんとか倒していくことにしたのだった。




