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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
232/260

第232話 それぞれの思い

「マルコ様準備が整いました」


「分かった……」


 宰相のアドリアーノに声をかけられ、ルディチ王国の国王であるマルコが集まった兵たちの前に立つ。

 これから帝国との決戦が始まるため、どの兵も強張った表情をしている。

 ここ王都から少し離れた場所へ陣を敷き、整然と並んだ帝国兵のおびただしいほどの数を見れば、そうなってしまうのも仕方がないことだ。

 分かっていたことだが、改めて厳しい戦いになることを覚悟しているようだ。


「皆の者! 我々はこれより帝国との決戦を開始する!」


「「「「「おぉーーー!!」」」」」


 目の前の高台に立つ(マルコ)の言葉に、兵たちは大きな声を出して反応する。

 王であるマルコも、後方からの指示とはいえ参戦する。

 その勇猛さに感化されたからか、兵たちの顔も次第に和らいでいく。


「皇帝ヴィーゴのような非人道的な者にこの大陸を統べる資格はない!」


「「「「「おぉーーー!!」」」」」


 帝国の悪評は有名だ。

 敗戦国への容赦のない扱いは、何度も見聞きしてきた。

 この戦いに負ければ、自分はともかく家族がまともに人として扱われることはなくなるだろう。

 そんなことをはさせる訳にはいかない。

 そのため、マルコの言葉に対して、兵たちは先程以上の大きな声を響き渡らせる。


「奴等からこの大陸を開放するのだ!!」


「「「「「おぉーーー!!」」」」」


 この大陸で残っているのは、もうこのルディチ王国だけ。

 ここが負ければ、もう帝国を止める国が存在しなくなる。

 そうなると、帝国は次は他の大陸へと手を伸ばしていくだろう。

 幼少期に、ティノと共に世界を回ったマルコは他の大陸の状況も理解しているつもりだ。

 どの大陸も他人種を受け入れ、大きな争いも存在していないが、帝国のような巨大国家も存在していない。

 皇帝ヴィーゴの考え次第で、全世界を巻き込んだ戦いへと進んで行く可能性がある。

 そうならないためにも、ここで止めておかなければならない。

 マルコの熱い決意に、兵たちも更に気合いが入る。


「総員配置に着け!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 帝国が動き出すのはもうすぐ。

 十分兵たちの気合も入ったようなので、マルコは兵たちに戦闘配置へ着くように指示ずる。

 恐らくこれまで同様、帝国は奴隷兵を使った数のごり押しで来るだろう。

 それに対応するような対処はした。

 あとは始まってみるまで分からない。

 そんな不安をおくびにも出さず、マルコも本陣内から帝国が動き出すのを待つことにした。


「お疲れさまでした。王自らの檄に、兵の士気は高まりました」


 マルコが檄を飛ばすのを、側で控えて聞いていたアドリアーノは、どことなく嬉しそうにマルコへ話しかける。

 王としての佇まいに感動しているからかもしれない。

 別にマルコのことを王として不満に思ったことはないが、若さによる威厳のようなものが弱く感じていた。

 しかし、先程のマルコにはそんな不安など微塵も感じなかった。

 建国のために必死になった自分の苦労が報われる思いだ。

 それも結局はティノの功績によるところが大きいが、それはそれだ。


「あぁ、だが、帝国の数の力にどこまで対応できるか……」


「それは……」


 たしかに、兵の士気を上げることには成功した。

 士気が勝敗を左右するということは理解している。

 しかし、それだけで勝てるほど戦争とは簡単なものではない。

 特に、数で圧倒してくる帝国の相手は、少しも気を許すことができない。

 それに、皇帝ヴィーゴがどんな手を使って来るか分からない。

 兵の前では出さなかった不安も、信頼しているアドリアーノの前では漏らしてしまう。

 アドリアーノも、この戦いには不安がある。

 もしもの時は、自分の命を捨ててマルコだけでも逃がすつもりだが、それができなかった時の事を考えると、本当はマルコには避難できるところにいてもらいたい。

 しかし、兵の士気のことを考えれば、王のマルコだけが安全地帯にいる訳にはいかない。

 遠くに見える帝国の進軍の様子を見るに、どこからかまた数を集めてきたようだ。

 その対処に苦戦するのは目に見えている。

 そのため、どうしても言葉が詰まってしまう。


「こんなときティノ様がいれば……」


「マルコ様……」


 マルコはふと声を漏らす。

 子供の頃から、いつも自分のピンチにはティノが現れた。

 マルコにとって、ティノは親代わりでもありヒーローだ。

 こんな時は、どうしても彼のことを考えてしまう。

 マルコにとってティノは特別。

 それが分かっているだけに、2人はベルナルドから受けている報告が頭をよぎる。


「すまん。弱音は折角の士気を下げてしまうな」


「いえ……、彼はマルコ様のために十分過ぎる置き土産をおいていきました」


 ティノの存在は、アドリアーノにとっても重要な存在だった。

 彼だけなら神出鬼没で信用しきれないでいただろうが、マルコと彼の信頼関係は、誰も割って入れないほどのかなり深いものだということはアドリアーノも分かっている。

 彼の死にざまからもそれが感じ取れる。


「魔導砲の破壊か……」


「あれがまだあったらと思うとゾッとします。あれ一台で数千の兵に匹敵します」


 一騎当千というより、一機当千とでもいった方が良いのだろうか。

 千より万に近い気がするが、細かいことはともかく、超が付くほどの強力兵器を1人で何台も破壊し、ティノは命を落としたとの話だ。

 その兵器がこの最終決戦で使われていたら、もしかしたら勝ち目が全くなかったかもしれない。


「最後まで感謝しかないな……」


 そのことを考えると、彼は最後まで自分にとってのヒーローだった。

 死んだと聞いた時は、目の前が真っ暗になったものだ。


「恩をばかり受けて、何も返せなかった」


「マルコ様……」


 親代わり以上の感情を持っているティノのことを思うマルコ。

 亡くなったと聞いた時、顔面蒼白になっていた。

 その時のマルコの様子を知っているアドリアーノは、何と声をかけていいか分からない。


「せめて、帝国を倒して報いなければ!」


「えぇ!」


 ティノのためにもこの戦いに勝利したい。

 その思いがこもった目に、アドリアーノも力強い返事をする。


「帝国が動き出しました……」


 その時、兵から帝国進軍の方向が入った。






◆◆◆◆◆


「……いい国だな」


「……そうですね」


 ルディチ王国の王都を遠くから眺め、帝国皇帝ヴィーゴが呟く。

 その呟きに、右腕のダルマツィオが相槌を打つ。

 建国後、たいした年数も経っていないのに発展著しいその様子に、同じく国を導く者として感心を覚える。


「だが、それももうすぐ終わりだ」


「はい!」


 その発展は、汚らわしい獣人や魔人の流入を促した。

 人族至上主義のヴィーゴにとって、マルコのやっていることは不愉快極まりない。

 好敵手として認めているが、どうしてもそれだけは相いれない。

 元々いつかはこうなる運命だった。

 それなら完膚なきまでに叩き潰そうと、ヴィーゴは気合いが入る。


「始めるぞ」


「了解しました!」


 静かな闘志の籠った、どことなく楽し気なヴィーゴの指示に従い、ダルマツィオは兵に向かって進軍の合図を送ったのだった。



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