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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
228/260

第228話 我慢

「……おいおい、障壁何か張ってるけど、まさか止めるつもりなのか?」


「……皇帝陛下の指示だ。1人でこの魔導砲を止められるわけないだろう?」


 多くの帝国兵は、砦から出てきた一人の人間が魔導砲の砲口の射線上で障壁を張り出したことに、明らかに嘲笑の的にしている。

 大体の帝国兵は、敵のルディチ王国の兵が閉じこもっているピノパルーデ砦を、砦ごと破壊するためにこの魔導砲が用意されたと思っているのがほとんどだ。

 この砦に来るとき、1発だけ発射させたが防がれてしまった。

 詳細を良く知らない兵たちは、大人数の魔導士によって張った障壁で防がれたのだと思っているのだろう。


「第1砲! 発射!!」


“ズドーン!!”


 砦前に立つ1人の人間なんて、この砲撃の前では無意味。

 隊長の指示を受けた砲撃手がスイッチを入れると、巨大な爆音と共に高濃度の圧縮された魔力の砲撃が発射された。

 その頃にはティノの障壁も何重にも展開され、準備は整っていた。


「ぐおっ!?」


 何重にも張った障壁に砲撃が着弾すると、かなりの衝撃を受け、ティノは思わず声が漏れた。

 しかも、障壁の半分近くがあっさりと破壊された。


「ぐぐっ……!! ハァ、ハァ……」


 障壁の破壊も弱まり、砲撃は障壁に止められると少しずつ霧散していき、しばらくすると障壁の前から消え去った。

 たった1発ながらとんでもない威力だ。

 前回の逃走時は距離もあり、今以上の膨大な魔力を使った障壁で防いだ事もあり余裕があった。

 しかし、今回は前回の半分ほどの距離から、しかもまだ4台残っているため、1発にかける魔力を計算しておかなければならない。

 そのせいで、ティノにはかなり負担がかかってきたため、軽く息が切れた。


「馬鹿な! あいつはバケモンか!?」


 砦前に立っている人間なんて眼中になかった砲撃手は、1発で砦にどれほどの風穴が開くのかと思っていた。

 この魔導兵器は訓練で発射したことがある。

 決して撃つ方向を間違えたということはない。

 なのに、現状は地面に軽くえぐった線が引かれただけで、砦前の人間の近くで消え去った。

 何百人もの魔導士によって張られた障壁ならともかく、たった1人の人間が止められるわけがない。

 口に出た通り、あそこにいる人間の皮を被った怪物にしか見えなかった。


「……だ、第2砲! 第3砲! 連続発射!!」


“ズドーン!!”“ズドーン!!”


 この砲撃作戦の隊長は、上からは魔導兵器を使って砦ごと敵兵を跡形もなく消し去れと指示された。

 指示を受けた時は、帝国の最大兵器であるこの魔導兵器を、たった1つの砦を破壊するのに使うのは無駄なように思っていた。

 なんなら1発放てば終わると思ったのに、まさかたった1人に止められるとは思ってもいなかった。

 信じられないことだが、帝国内では指示を遂行できない場合、その立場がすぐになくなる。

 上の人間の気分次第では、場合によってはあっさり命を失う可能性もある。

 1発で駄目なら2発放てばいいと、砲撃作戦の隊長は短絡的に砲撃手に命じた。


「クッ!? 連打か!?」


 息を整え、ティノは破壊された障壁を張り直す。

 残り4台あるのだから、この連続砲撃も考えられた。

 慌てて障壁の数を先程より増やしていく。


「ぐわっ!?」


 障壁に当たった衝撃は、単純に2倍。

 あまりの威力に、先程より重ねた障壁がどんどんと壊されていく。


「ぐぎぎぎ……!!」


 壊されてもすぐに張り直すことでなんとか我慢しているが、このままではティノの身が危ない。

 魔力配分なんて言っている場合ではなくなってきたティノは、障壁1枚1枚に込める魔力の量を増やす。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 かなりの魔力を使用し、疲労がティノを襲って来た。

 息切れも激しくなり、張っていた魔法壁が残り数枚と言う所まできていたが、砲撃を何とか抑えきれた。


「ふ、ふざけんなよバケモンが!! 撃て!! 撃て!!」


“ドンッ!!”“ドンッ!!”


 馬鹿げた数の多重障壁によって砲撃を防ぐティノ。

 それに対し、砲撃指示を出す者は軽い恐慌状態になり、何も考えず残りの砲撃指示を出した。

 砦のことなどより、今あの者を仕留めないといけないと、直感的に判断したのかもしれない。

 奇しくも、この男の直感は帝国皇帝ヴィーゴの望みと合致し、最適な判断をした。


「ダリャーーーーー!!」


 今まで通り数で抑えようにも、張り直している時間が足りない。

 数が駄目なら、残った数枚にかけるしかない。

 ティノは残りの障壁に全力の魔力を放出し始めた。

 魔力消費により疲労が襲い来るが、ティノは懸命に耐え抜く。


「ぐぅっ!! ハァ、ハァ、ハァ……」 


 砲弾が消えるのがもう少し遅かったら、さすがのティノも魔力切れを起こしていたかもしれない。

 大量の魔力を一気に消費したことによって、さすがのティノもどっと疲れが押し寄せてきた。

 額に汗を大量に掻き、僅かに膝が笑う。

 更に、軽く吐き気までしてきた。


「…………止め切った?」「馬鹿な……」「…………嘘だろ?」


 王国兵を塵に変えるはずだったのに、たった一人の生物に止められてしまった。

 神獣すら倒せると思っていた魔導兵器が、これではただの荷物の塊でしかない。

 目の前で起きたことにも関わらず、帝国兵たちはこの結果を信じることができないで放心していた。


「スゥ~……フゥ~……」


 息もようやく収まってきたが、まだクラクラする。

 今襲い掛かられたらちょっときつい。

 この結果に、帝国兵が驚いて動かないでいてくれるのはありがたい。

 少しでも回復しようと、ティノは深呼吸を繰り返す。


「……………………や、奴は魔力を消費してフラフラだ。今のうちに仕留めろ!」


「ハ、ハッ!!」


 砲撃を抑えたことでかなり怯んでいた指揮官だったが、ティノの疲労具合に、魔法師や弓兵に攻撃の発合図を送った。

 兵たちも我に返ったのか、指示通りティノに攻撃を開始した。


「チッ!!」


 もう少し休みたいティノに、多くの魔法や弓が襲い掛かって来る。

 弱いのに数だけは一丁前だ。

 何年も生き、その間に何千、何万の人間を殺してきた。

 今回の戦争でも罪もない者たちをためらいなく殺した自分が言うのも何だが、屑が集まるとここまで不愉快に思えるとは思わなかった。

 まだ自分にも普通の感情が残っていたのかと発見したが、今はそれどころではない。

 思わず出た舌打ちと共に、ティノは魔法の指輪から剣を取り出す。


「ハー!!」


 無数に襲い来る攻撃を、ティノは剣を振っただけの爆風で吹き飛ばす。

 才能がなくても、年月をかけただけで、ティノはとっくに人間の領域を超えている。

 弱い数の力に負けることなど無い。

 剣を振り回し、まだふらつく足でティノは魔導兵器へと迫っていく。


「クッ!? 歩兵部隊! 奴を殺せ!!」


「無駄だ!」


 指揮官の指示で、魔導兵器の後ろにいた歩兵部隊が動こうとする。

 しかし、そんなことに手間取っている訳にはいかない。

 一気に動いたティノは、魔導兵器とその周囲にいた人間を、瞬く間に切り刻んで行った。


「これで最後だ!!」


 魔導兵器は魔力を補充すればまた使えるかもしれない。

 そんなことになったら、この後の戦いが面倒極まりない。

 なので、ティノは魔導兵器を全部破壊をしておくことにした。

 そして、何とか5台全部破壊し終えた。


「魔力がなければ、俺でも相手にできるだろ?」


「っ!?」


 魔力を消費し、探知が疎かになっていた。

 そのため、気付くのが遅くなっていた。

 気付いた時には、すぐ後ろに皇帝ヴィーゴが迫っていた。


「っ!?」


 何の考えもない。

 長年の勘を信じ、ティノは後ろを振り向かずにそのまま前方へ飛び込んだ。

 

「ぐっ!?」


 ティノの判断は正解だった。

 しかし、背後から迫って来ていたヴィーゴの剣は回避しきれず、地面を転がって止まった時には、ティノの両足はなくなっていた。



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