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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
224/260

第224話 魔導兵器

“ズドンッ!!”


「ぐっ!?」


 魔導兵器から放たれた砲撃に、逃走を続ける王国軍に強力な一撃が迫る。

 それをティノが防御壁を張って防いだ。

 ティノの魔力量があってできることだ。


「……用意周到だな」


 殿を請け負ったティノは、帝国軍が無闇に追いかけてくるようなら魔法を放って数を削ってやるつもりでいた。

 しかし指示があったのか、ちゃんと警戒と連携をとって追いかけてくる。

 ティノが来るのを見越していたのだろう、対策も練っているようだ。


 この世界には集団魔法と呼ばれる魔法がある。

 その名の通り多数の人間の魔力を集め、個人では放つ事が出来ないような強力な威力の魔法が使えるようになる。

 個人では使えないような威力なため、どんなに優れた魔導士であろうとも使いこなす事などできない。

 それを使えるようになったのは、魔導兵器と呼ばれる物の開発と発展による所が大きい。

 魔導兵器により、個人では扱えないような膨大な魔力も使えるようになった。

 とはいっても、結界などの防御的な用途の物が主流で、攻撃的な兵器は大したものは存在していなかった。

 今回はティノが相手にいるために最新鋭の武器を用意したのだろう。

 ティノでも見たこともないような武器が目につく。

 どんなに強くなろうとも、ティノが国1つを相手に戦おうとしなかったのにはこれが要因だ。

 大抵どこの国でも魔導兵器の開発は行っている。

 この世界で唯一、絶え間なく戦争が起こっているこの西の大陸では特に開発が盛んだ。

 開発の進展次第では、ティノでも消し飛ばされる可能性もある。

 どこの国でも国家機密に指定して厳重に保護されているので、転移ができるティノでも探ることは難しい。

 実際戦いになるまで分からないのが現状だ。


「……ヴィーゴの奴、こんな兵器を隠してやがったか……」


 ティノからしても脅威になりえる攻撃が、魔導兵器から時折飛んで来る。

 撃たれるだけでは敵の進行を遅らせることは難しい。

 反撃にティノも単発で魔法を放つが、防御用の魔導兵器で防がれ進行を僅かに遅らせる事しかできない。


「だったら……」


“ズンッ!!”


 軍へ直接攻撃するのは無駄。

 ならばとティノが放った魔法は土魔法。

 地面を隆起させ、進行を遅らせるのが狙いだ。







「……全く、化け物が……」


 広範囲の地面がせり上がり突如壁ができあがったことに、ヴィーゴは苦笑しながら呟いた。

 こんなことができるのは、まともな人間が使いこなせる威力の魔法ではないからだ。

 改めてティノの実力の底のなさに、呆れにも似た感情が沸き上がる。


「……せいぜい、調子に乗っていればいい……」


 ティノを敵に回す恐ろしさを味わいながらも、ヴィーゴの表情には余裕のようなものがうかがえる。

 何か策のようなものがあるかのようなことを、誰にも聞こえないような小声で呟いていた。






◆◆◆◆◆


「撤退できたみたいだな……」


「ティノ殿!」


 昨日までいたトウセイ砦を放棄し、北東のピノパルーデ砦へたどり着いた王国軍。

 執務室で一息ついていたベルナルドの所に、殿を務めたティノがノックと共に入室した。


「トウセイ砦をたった数日しか持たせられませんでした……」


 トウセイ、ピノパルーデ、ダヴァレイの3つの砦が、帝国の王都への進軍を防ぐ重要な拠点になっている。

 王国国王のマルコは現在王都にいる。

 身重で出産が近い、王妃パメラの側に付き添っていてほしいとマルコに進言したのはベルナルド本人だ。

 もう何時陣痛が来てもおかしくない状況で、出産終了後にマルコも戦いに参戦する手はずになっている。

 3つの砦で出産までの期日を稼ぐつもりでいたにもかかわらず、帝国の奇策に砦の一つを早々に落とされたことがベルナルドの気持ちを沈ませていた。


「リューキの連中の研究成果だろうな……」


 西の大陸の北西にあったリューキ王国。

 帝国に潰された国の一つだが、研究者が多かったことでも知られている。

 高威力の攻撃魔導兵器の開発も、その研究者を使ったのかもしれない。

 帝国は、攻め滅ぼした国の人間の扱いは酷い。

 だが、帝国にとって有益な者たちはある程度の待遇が保証されている。

 そのアメをちらつかせて研究者たちを懐柔した可能性が高い。

 チリアーコが開発した子供の魔獣化も、彼らの研究である程度実用化するにまでいたったのだろう。


「……次もあの魔獣化を使って来るのでしょうか?」


「だろうな……」


 ここを拠点に戦うにしても、今度は変身前に子供たちを殺せばいい。

 分かってはいるが、罪もない子供を殺さなくてはならないことを兵に指示しなければならないことに、心が重くなってくる。


 砦と王国の王都までにはいくつもか町や村があるが、開戦前にそれらの住民は元ハンソー王国領に避難させてある。

 帝国の狙いは真っ直ぐ王都へ最短距離。

 王都が潰れるまで、他の町の住民は一先ず帝国の脅威はうけないだろう。

 市民には王都が潰れた場合、他大陸への逃走も視野に入れるように言ってある。


 帝国軍も領土から兵糧が送られてきているにしても、長い戦いになれば底を尽きるだろう。

 元々農民も無理矢理兵に使っているのだから。

 そうなると、勝っても負けても飢餓に苦しむことになるだろうが、皇族や使える貴族以外はどうなろうと気にしないのだろう。

 大陸統一をしてしまえば、自分たち以外が数年我慢するだけで済む問題だと考えているのかもしれない。


『帝国内で反乱を起こさせるか……?』


 王国との戦争を中断させるには内乱が起こさせるという手がある。

 僅かな勢力だがそういった火種があるのは調査してある。

 しかし、反乱を起こさせるには時間がかかる。


「……俺が出よう」


 王都でのマルコたち王族の護衛をするのが、ティノの中での最優先事項だ。

 血のつながりは遠く、繋がっているというには薄いものだが、自分の子孫の安全が最優先だ。

 しかし、これ以上進行されると、パメラが安心して出産ができないだろう。

 ここで敵の数を減らすにしても、自分が出るのが最善に思える。

 あの魔導兵器と奴隷兵の自爆テロ、更には魔獣化した子供の相手とティノでも手に余りそうだが仕方がない。

 ティノは迎撃に出ることを決意したのだった。


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