第220話 開戦
ルディチ王国とデンオー帝国、西の大陸の覇者を争う戦いは、ルディチの西、デンオーの東に位置するイソトーラ平原で雌雄を決することになった。
「かかれ!」
「「「「「おおぉぉーー!!」」」」」
帝国皇帝ヴィーゴの右腕である将軍ダルマツィオの合図を機に帝国兵による攻撃が開始された。
「迎え撃て!」
「「「「「おおぉぉーー!!」」」」」
王国の軍を率いるのは王国軍軍団長のベルナルド。
迫り来る帝国兵を迎え撃つべく、自軍の兵に指示を出す
弓兵と魔法兵によって、近付く帝国兵を仕留めるべく遠距離攻撃を開始する。
“ドーン!!”
雨のように矢や魔法が飛び交う中、王国兵を守るための柵にたどり着いた帝国の兵が大爆発を起こして柵を破壊した。
「くっ!? やはり特攻か!?」
ベルナルドが言うように、帝国の先兵は予想通り奴隷兵。
雪崩のように、何の策もなく矢や魔法を放つ王国兵に向かって突き進んでくる。
柵にまでたどり着く敵兵は僅かだが、後からどんどんと湧くように迫る事でじわじわと柵が破壊されていく。
“ドーン!!”
「「「「「うわぁぁー!!」」」」」
とうとう柵を抜け、弓兵のいる場所にまで敵兵が迫ってきた。
その敵兵が弓兵の側までくると、自爆によって怪我を負わせてた。
「第1部隊一旦退避! 第3部隊の後方へ下がれ!」
最初から奴隷兵による数のごり押しは予想していた。
これ以上は被害が広がるだけ、ベルナルドは早々に最前線の部隊を下げた。
「第2部隊攻撃開始!!」
べナルドはの指示により、王国軍は次の部隊による攻撃を開始した。
自爆相手には接近するのが一番危険。
第2次部隊も弓兵や魔法兵による遠距離攻撃がおこなわれた。
帝国の軍勢が王都のトウダイに向かうにはイソトーラ平原を抜け、東に建てられたトウセイ砦、その北東にあるピノパルーデ砦、その北に建てられたダヴァレイ砦を突破されないことが重要。
山脈によって囲まれているルディチ王国へ帝国軍が侵入をするのは、この3つの砦を制圧していくこのルートが最短距離だ。
元ミョーワ共和国領である南からの進行もあり得るが、一度侵略したにもかかわらず反乱によって奪い取られた屈辱を味わわされた腹いせなのか、元共和国の地は徹底的なまでに潰され、今では草木も碌に生えないような荒地へと変えられた。
大軍を率いてそちらから進むには下策だ。
そもそも、数による力押しが好きな帝国が遠回りを選択はしないだろう。
死んでいく兵の数では圧倒的に王国側の方が少ない。
しかし、奴隷兵の数が矢や魔法でどんどんと息絶えて行くが、後方に待機する帝国兵は何も感じていないように見ているだけだ。
逆に、数を減らしていっている王国側なのだが、兵の表情は優れない。
帝国の奴隷兵は戦う事を強制され、「戦いたくはない」「死にたくない」と呪文のように口にしながら苦悶の表情で突き進んでくる。
自分と同じように無理やり連れてこられたすぐ隣の仲間が、矢を受けて無残に死んでいくのを見ながらも、恐怖で顔を歪めながらも意思に反して足が前に進んでいく。
そんな表情をしながら向かってくる奴隷兵の心情を想像するとあまりにも可哀想に思え、王国兵は同情心から攻撃が僅かに鈍る。
“ドーン!!”
「「「「「うわぁぁー!!」」」」」
そしてそんな王国兵をあざ笑うように、奴隷兵の自爆攻撃が第2部隊の列に被害を与えだした。
それにより第2部隊を下げ、第3部隊の攻撃へと変えていく。
「撤退!! 砦へ帰還せよ!!」
「撤退!!」
それぞれの指揮官であるベルナルド、ダルマツィオが撤退の指示を出す。
第3部隊が被害を受け始めるようになった頃には日が暮れ始めたため、この日の戦闘は終了し、両国の部隊は自陣へと帰還していった。
初日の戦闘で王国側が、奴隷兵とはいえ帝国側の兵を3倍近く死傷させた。
「ずいぶんな数がやられたな……」
帝国側が陣を築いたコングリチネ砦に戻って来たダルマツィオに対し、砦にて戦況報告を受けた皇帝ヴィーゴは、特にたいした感情を見せずに呟いた。
「我々の戦法を予想していたのか、遠距離によって数を減らされてしまいました」
奴隷兵とはいえ多くの兵を失ったダルマツィオだったが、こうなることが分かっていたかのように話を進めていた。
「甘ちゃんのマルコが率いる軍だ。今日の戦いでだいぶ精神にきてたんじゃないか?」
「そのようですね。数は減らされましたが、多くの敵兵が攻撃の手を鈍らせていました」
奴隷紋によって抵抗することも出来ず、ただの平民が無理やり戦わされ、運よく矢や魔法を受けずに済んでも強制的に自爆させられる。
敵兵とはいえ同情心を持ちながらも、そんな者たちを自分たちは攻撃をしなければならない。
正常な精神の持ち主だからこそ、罪なき者を殺さなければならないことへの自己嫌悪が湧いてきてもしかたない。
そういった精神攻撃こそがヴィーゴたちの初日の狙いだ。
「じゃあ、明日は予定通りにいこうか?」
「かしこまりました」
今日の戦いは明日の戦いへの前段階であり、明日は王国側の人間たちがどんな表情になるのかを想像するとヴィーゴは笑みを浮かべてしまいそうになる。
「それでは失礼します」
ダルマツィオの方も同じ心境なのか、若干表情が緩んでいるようにも見える。
深めの礼をとり、ダルマツィオはヴィーゴの前から下がっていったのだった。




