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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第8章
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第219話 参戦決定

「誰だ!?」


 帝国との決戦の為の用意を進める中、この日の仕事を終えて自室へと戻った宰相のアドリアーノは、室内に人の気配を感じ、腰に差している剣に手をかけた。


「俺だ!」


「……ティノか? 相変わらず心臓に悪い現れ方しやがって……」


「すまんな」


 居なくなってから数年、久しぶりのティノとの再会に、アドリアーノ警戒感を緩めてホッと息を吐いた。

 そんなに驚くとは思ってもみなかった反応に、ティノも謝罪の言葉を口にした。


「……っで? この忙しい時に何しに来たんだ?」


 帝国との戦争は間近へと迫っている。

 それに伴い、国民の生活に支障が出ないように出来るだけ経済を維持しなければならない。

 マルコも出陣するので、王都に残る宰相のアドリアーノにはやる事が多いのだ。


「この時期だから帰って来たんだよ」


 アドリアーノの少しひどい言い草に対しても何とも思わず、ティノは平然と答えた。


「なんだ? 今度の戦争に参加してくれるのか?」


 参戦してくれる様子の口ぶりなティノに、アドリアーノは喜んだように問いかけた。


「前もそれに近い事言っていただろ? そのためにステータス上昇を図って来たからな」


 この国から離れる時、アドリアーノには言っておいたように思えるのだが、それも随分前の事だから忘れてしまうのも仕方がないのかもしれない。


「そいつはありがたいな……」


 今は一人でも戦える人間が欲しい。

 そんな中、ティノのような化け物染みた人間が参加してくれるのは有難い所だ。

 ただ、ティノが入ったとしても、帝国の数に物を言わせた攻撃は抑えきれる保証はない。


「敵との数はどうなんだ?」


 帝国は国内の人間を強制的に徴兵する事で兵の数を増やし、マルコたち王国側は国内のみならず他大陸から来た人間にも希望者を募って来た。

 更に言うなれば、王国側は人族至上主義の帝国にはいない獣人族や魔人族も兵として雇うようにした事で、兵の数を増やす事に成功している。

 とは言っても、他国を併呑してこの大陸のほとんどを支配している帝国の方が領土は桁違いに大きい。

 しかも強制的に兵を徴収するのだから始末が悪い。


「総数は3倍までは行かないが、それに近いくらい敵の方が多い」


「思ったより少ないようだな……」


 最初から帝国の方が数が多い事は分かっているが、思っていた以上に差は開いていないようだ。

 この時期に攻めて来るのだから、もっと差が開いていてもおかしくないと思っていたので、ティノは意外そうに呟いた。


「だが、国民の抵抗が強く、奴隷兵の方が多くて士気が低い」

  

「まぁ、そうだろうな……」


 力で手に入れた元は他国だった市民が、すんなり帝国の為に戦いたいなどとは思うはずがない。

 従わなければ奴隷にしてでも従わせる。

 そんな方法で集められた兵など士気が上がる訳が無い。


「逆にこちらは王妃様の懐妊もあってか士気は上がっている状況だ」


「っ!? 懐妊? パメラが?」


 予想していなかった情報を得てティノは若干慌てた。

 元々ティノの子孫のルディチの家は、子供が出来にくい傾向にあった。

 マルコも両親が結婚し、遅くに出来た待望の跡取りだった。

 その歴史をよく知るティノからすると、マルコたちの子供も戦争が終わってから生まれるのではないかと予想していた。

 その予想を覆されたのだから仕方がないことかもしれない。


「あぁ、仲の良かった二人にようやく次の世代の光が見えたというのに……」


「そうか……、これでまた負けられなくなったな……」


 元々、子孫だからと言う理由でマルコたち夫婦を陰ながら助けて来たが、これからはもう一人守らなければならない人間が出来たようだ。

 驚きはしたが嬉しい事には変わらない。

 新しい命が無事生まれるように、帝国との戦いには余計負ける訳には行かなくなった。


「ところで、お前はどう参加する気だ?」


 兵の配備などは軍団長のベルナルドがおこなっていて、今からティノを中心とした作戦を練る訳にも行かない。

 そもそもティノの事を知らない連中が、戦争間近に突然言われても納得するか分からない。

 そんな事で上がっている士気を落とすわけにもいかない。


「こっちの軍の装備を一式くれ。目立たないように潜入する」


「なるほど。お前ならそれくらい簡単か……」


 戦争が始まって乱戦になってしまえば、顔の判断などしている余裕などなくなる。

 そんな中に入り込む事ぐらいティノにかかれば簡単な事だろうとアドリアーノは納得した。


「じゃあ、それ程しないうちにまた来る。用意しておいてくれ」


「分かった」


 装備の一式くらいすぐにでも用意できる。

 しっかりと頷いたアドリアーノを確認したティノは、用が済んだとばかりに部屋の出口に向かって歩き出した。


「……勝てると思うか?」


「……さぁな。難しいかもな……」


 室内から出て行こうとするティノの背中に、アドリアーノは思わず声をかけてしまった。

 敵兵の多くは士気が低い。

 とは言っても、数は圧倒的に多い。

 勝てる可能性は高いとは言えない。

 アドリアーノの不安を知ってか知らずか、ティノ一言だけ返しては室内から出て行った。

 だが、アドリアーノは気付いていた。

 難しいとは言ったが、ティノは笑顔で話していた事に……


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