第213話 人質
「侵入して気付いたと思うが、この城の4か所の塔が厳重に魔法で封印されていただろ?」
イーヴォが言うように、サンドの軍がイーヴォ達が立てこもった城内に侵入した時、城の東西南北にある塔が封印されていたのを確認している。
「あぁ、お前の事だから集めた財宝でも封印しているんだろ? 馬鹿に何重にも封印したみたいだが、お前を処刑した後に時間をかけて解けばいいだけだ」
サンドからしたら、強欲なイーヴォが国中から集めた財宝を封印しているのだろうと辺りを付けていた。
「それぞれの塔には、ハンソーの王位継承の資格を持った人間全員を集めてある」
「!? 何!?」
予想とは違うイーヴォの発言に、サンドと背後の兵達は驚きの表情に変わった。
「そして、これはその塔に仕掛けた爆発の魔法陣が順番に発動する仕組みになっている」
「何だと!?」
続いたイーヴォの言葉に、サンドは更に表情を歪めた。
「まずは北と南に王家の血を引く貴族連中、西に王妃や後宮の者達、東にフラヴィオとタチアナとエマヌエーラを閉じ込めてある」
「なっ!!? 馬鹿なっ!? よりにもよって貴様の弟や妹までも人質に取ると言うのか!?」
確かに王家の人間が見付からないとは思っていた。
しかし、奪還した幾つかの町の中には、この城の一部のように強力な魔力で厳重に封印されていて、数人が閉じ込められている気配がしている。
その救出を援軍として参加しているマルコ率いるルディチ王国の者達が解除を引き受けている。
特にフラヴィオ、タチアナ、エマヌエーラは、イーヴォにとって母親が違えど血の繋がった兄弟だ。
それらのどこかに幽閉されているのだと思っていたのだが、まさかこの城にしかも人質として幽閉しているとは思わなかった。
「貴様!?」
「おっと、近付くな!? うっかり押しちまうぞ?」
憤怒の表情でイーヴォに掴みかかろうと近付こうとしたサンドに対して、イーヴォは立場が逆転したと言わんばかりにヘラヘラとした表情で爆破のスイッチを押す素ぶりをチラつかせた。
「くっ!? 貴様、そんな事をして何になると言うんだ!?」
「簡単だよ。この国は王の器になる者が居なくなるだけだ。先祖代々受け継いできたこの国はお前の代で終わりを迎えるって訳だ!」
「……愚かな。そんな事して誰が得をすると言うのだ?」
「俺が満足する。それだけで十分だ」
「……………………」
あまりにも子供じみた考えのイーヴォに、サンドは呆れ果てて完全に言葉を失った。
「…………」
サンドの背後に控えていた者達もイーヴォのバカげた発言に、サンド同様言葉を失い立ち尽くしていたのだが、その兵の中にいる速度自慢達は、一足飛びでイーヴォの持つ魔法陣発動のスイッチを奪い取ろうと密かにイーヴォ達の隙を伺いつつ様子を窺っていた。
“スッ!”
「はい! 動いた!!」
その兵達がほんの僅かに動いたことを見逃さなかったイーヴォは、嬉しそうに爆破のスイッチを押した。
“ズゴンッ!!”
「!!?」
イーヴォがスイッチを押した僅か数秒後、貴族たちが閉じ込められていると言う北の塔が、イーヴォが言った通り大爆発を起こした。
あまりの爆発に、中央に立っているこの玉座の間の塔まで大きな振動が来た。
イーヴォの発言が嘘ではないという事に、サンドとその兵達は苦虫を噛み潰したような表情になった。
「言っただろ? う・ご・く・な・って、お前のせいで貴族連中はこの世から消滅しちまったぞ」
振動が治まると、イーヴォは動いた兵達に対してヘラヘラと注意をし、まるで爆破したのは兵達の仕業のように言い放った。
「イーヴォ! 貴様に逃げ道は無いのだ! これ以上何の罪のない人間を巻き込むな!」
「うるせぇ! 俺の邪魔になるだけで罪なんだよ!」
“ズドンッ!!”
サンドの言葉に腹を立てたイーヴォは、サンドにそれ以上の反論を言わせないようにスイッチを押し、南の塔を爆発させた。
「やめろ! くっ! ガキのような言い草をしおって……」
仕方なく、サンドはそれ以上イーヴォを煽るような発言をするのをやめたのだった。
「まぁ、罪だとかそういう事は置いといて、それよりもこの城に張り巡らせた結界を解いてもらえるかい? 転移石が発動しなくて困ってるんだ」
イーヴォが転移石を所持している事は、ティノがルディチ側に伝えていたので、サンド達ハンソー側にも知らされていた。
その為、イーヴォを逃がさないように魔導士達によって転移をさせないように広範囲結界を張り、少しづつ範囲を狭め城に追い込んだのだった。
イーヴォは転移石さえあればいつでも逃げられると思っていた為、発動を封じられて内心かなり焦っていたのだった。
「サンド様どうなさいますか? これ以上王家の血を受け継ぐものを失うわけには行きません。ここは要求通り結界を解除しては?」
サンドの側にいた近衛隊長は、東と西の塔に閉じ込められた人質だけは救い出さなければならないと思い、サンドにイーヴォの要求を受けてはどうかと尋ねてみた。
「しかし、結界を解いたからと言って奴が人質を解放するとは思えん。そんな状況で結界を解く訳にはいかないだろ?」
サンドとしてもこれ以上の人質を殺される訳にはいかない。
だからと言って、このまま要求に屈してイーヴォを逃がせば、自国の民だけでなく他国や、世界的にも恥を上塗りする事になりかねない。
ただでさえ息子に一時とはいえ国を奪われた愚かな国王と言われ始めているのに、これ以上は耐えきれない。
しかし、自分が愚王と言われようとも次につながる息子や娘たちだけでも救いだそうと、最低限の安全の保証を手に入れようと、イーヴォの要求をそのまま呑む訳にはいかない事を遠回しに説明した。
「……確かに、確約も無い状態では解除する訳にはいかないか? こっちとしてもさっさとこの場から逃げ出したい事だし……、仕方ない、魔従契約書を用意しろ! それにサインをしてやるから持ってこい!」
魔従契約書とは、魔力を込めて作成された契約書で、その契約にサインを行った者同士には契約を破った者に強力な呪縛が施される仕組みになっている。
イーヴォ達も時間をかけて人質の封印を解かれるわけにもいかない。
その為、逃走を優先させる事にして譲歩した。
「ブリツィオ! 魔導士達に契約書の作成をして貰ってこい!」
「畏まりました!」
お互いに契約をする事で納得した事により、サンドは近衛隊長に指示し、契約書の作成に走らせた。
サンドの指示を受けた兵士は、魔従契約の書類の作成に魔導士達が集められている場所に向って行動を開始した。
イーヴォも空気を読み、ブリツィオが動いた事には反応を示さなかった。




