第212話 ハンソー親子
「……ハハ、親父に殺されるのが俺の最期かよ……」
自嘲気味に、イーヴォは目の前で自分に剣を向ける父に対して話しかけた。
「イラーリオ……、いや、今はイーヴォと名乗っていたか? 息子だからとお前を生かしておいたのは、私の王としての歴史において最大の汚点だ。ルディチ王に頼み込んでお前の始末を私に譲ってもらった。せめてもの情けだ、この手で引導を渡してやる」
元々自分の城であったハンソー王国のハンソー城の玉座にて、サンド・ディ・ハンソーとその息子のイラーリオ(現在はイーヴォ)が向かい合っていた。
反乱によってイーヴォが手に入れた町達も、マルコ率いるルディチ軍とミョーワへ援軍に向かっていたサンドが率いる軍の合同軍によってあっという間に全て奪い戻され、籠城していたハンソー城も包囲され、突入作戦によって今に至っている。
「転移石は使えんぞ! この城全体に強力な結界の防壁を張っている。城の中に居たお前の配下の者達ももう全て制圧している。貴様も腐っているとは言っても王族の血が流れているのだ。これ以上無駄な抵抗はせず、大人しく捕まれ!」
玉座の間に残ったイーヴォの配下は、兵らしき者たちが10人程しか居なく、一度ティノが伸した事があるイーヴォが以前入っていてSランク冒険者クラン、ネメジの幹部4人もイーヴォの近くでサンド達に対している。
片やサンド達は何十人もの戦闘兵と魔導士達を引き連れており、どう考えてもイーヴォ達がここから抜け出す事など出来る訳がない。
その為、サンドは最後の情けとばかりにイーヴォへ降伏を促した。
「捕まえてどうしようって言うんだ? 殺されるのが分かっているのに大人しくするわけ無いだろ?」
「……最後まで見苦しい男だな。貴様のような者に私の血が流れているとは……」
最期までみっともなく抵抗しようとする口ぶりのイーヴォに、サンドは失望の表情で溜め息を吐いた。
「どうやら下級貴族出身の母の血が強く出てしまったようだな?」
「…………貴様が母上の事をぬかすな!!」
続いて紡がれたサンドの言葉に、一気に沸点が上がったように怒りを露わにした。
「元々貴様が母上を無理やり妻にしたのでないか!!」
父であるサンドに対して、イーヴォは吐き捨てるように怒鳴った。
「母上には誓いを立てた婚約者がいたというのに、皇太子と言う立場を笠にして無理やり……」
イーヴォはサンドの長男だが、第2夫人の子である。
「何を言っているんだ? ちゃんと第2夫人に迎えてやったし、揉め事を起こすまでは長男のお前を皇太子として扱ってやっていたではないか?」
サンドは、イーヴォが腹を立てている意味が分からず首を傾げる。
確かに皇太子として結婚して3年目、妃との間に子が出来ず上手く行かない時期に偶々仕事で遠出をした時、イーヴォの母であるアッズーラと出会い手を出してしまった。
しかし、アッズーラの父のベニアミーノ・ディ・チゾーラ男爵も婚約者の事などもサンドに言わず、領地に滞在中のサンドの身の回りの世話をアッズーラにさせていた。
最初にサンドがアッズーラに会った時、その時の反応を見た男爵があわよくばと起こした行動がそもそもの原因である。
その時サンドは、甲斐甲斐しく自分の世話をするアッズーラにコロッと行ってしまった。
男爵の思惑にまんまとハマり、そのままアッズーラを第2夫人として迎え入れたサンド、すぐにアッズーラは妊娠した事が分かりイーヴォが生まれたのである。
その3年後、現在イーヴォが居なくなった事により、次期王になる事に繰り上がった正妻の子のダルダーノが生まれたのだった。
ダルダーノが生まれてからは正妻との仲が良好になり、更にその後に娘のパオリーナも生まれ、アッズーラは後宮でサンドに相手にされず、下級貴族の出の為メイドたちからも陰で馬鹿にされて過ごす事になった。
その内アッズーラは原因不明の病にかかり、次第に弱って行き息を引き取ったのだった。
イーヴォにとってアッズーラの死には疑問が残った。
母は立場が悪くなっても気丈に過ごしていた。
健康にも気を使っていたのにもかかわらず、突然病にかかり亡くなる事などあり得ないと考え、密かに自分擦り寄って来る貴族を使って調べさせた。
すると、決定的な証拠が見つからなかったが、どうやら正妻の側仕えの侍女がアッズーラの食事に毒を仕込んだと言う話が上がった。
その侍女は正妻が子供のころからその公爵家に仕えていた者で、アッズーラの存在がずっと気に入らなかったとの事だった。
そのあまりにも下らない理由に、イーヴォは怒りを通り越して笑いが止まらなかった。
証拠が無かったが、その侍女が犯人である事は間違いない。
なのでその侍女は闇ギルドを通して捕まえ、拷問をして白状させた。
「その女が言うには、正妻のカーリンがいつも貴様を奪った母上を悪く言っていたから自分が殺ったんだとよ!」
「…………!!?」
アッズーラの死にそんな裏があったとは分からず、イーヴォの言葉にただ驚きの表情でサンドは聞いていた。
「…………だ、だとしても貴様はここで葬らねばならん。皆の者奴を捕まえろ!」
「おっと!! 動くな!!」
イーヴォを捕まえるようにサンドの指示を受けた兵達が動こうとした時、イーヴォは左手を前に出し制止の声を上げた。
そして右手に持った小型の機械のような物をサンドとその兵達に見えるように掲げた。




