第210話 最後の頼み
帝国とミョーワの戦いが始まって半年が経った。
ティノの協力もあり、ミョーワは数で勝る帝国相手に善戦したと言っていい。
しかし、流石にそれもここまでの話である。
帝国の数の方が死者としては桁違いに上だろう。
だが、ティノの協力であろうとも前線を押し込まれるのを遅らせる程度にしかならず、ジワジワと押し込まれて行き、とうとうミョーワ軍は首都付近まで撤退を余儀なくされていた。
「……これ以上の撤退は不可能だな」
首都付近に建てられた砦の中にある会議室で、ミョーワ共和国副大統領のセコンドに対してティノが呟いた。
「お前元々勝ち目がない事は分かっていただろ?」
どんなにティノが大規模な殲滅魔法を放っても、数に勝る帝国は次々と奴隷兵を投入し、その奴隷達をまるで消耗品のように自爆攻撃をさせ、ミョーワの兵達を追い詰めて来た。
ミョーワ共和国の東の国のハンソー王国は、現在も内乱の鎮静化は終了しておらず、マルコ率いるルディチ王国軍によって半分近くの町が奪還された状況である。
ティノの中では当初の見込み通りのペースで進んでいる。
奪還した町にはマルコ達と共闘しているハンソー王の兵に志願する人間が多く、現状が現状だけに兵の数が必要なハンソー軍にはとても助かる傾向である。
恐らくここからは奪還のペースも上がり、余程の事がない限りあと1、2か月位で内乱の鎮静化が可能になるとティノは予想している。
ハンソーの内乱が早々に鎮静化し、救援に来てくれる事に期待をしていたのかもしれないが、ミョーワはそれまで持つことが出来そうにないようである。
ここまで共に帝国と戦って粘って来たティノから、悲壮感が漂ってこないようなセリフを聞いて、セコンドは最近になってティノから感じていた違和感を問いかけた。
「……そもそもお前は勝てると思っていたのか?」
「!!? 何だと……!?」
その可能性が有るとは思っていたが、勝つつもりもなく戦っていたティノの言葉にセコンドは怒りの表情になった。
「どう考えても帝国とは兵の数に差があり過ぎるのは分かっていた事だろ?」
「…………、それは……!!」
ティノの言葉に反論をしようとセコンドが言葉を続けるのを遮ってティノは言葉を続ける。
「帝国は幾つもの国を潰して領土も国民も東のルディチ、ミョーワ、ハンソーの3国を合わせても倍はある大国だぞ? 3国が協力した状況であったなら戦略次第で勝利の芽がある所だったが、ミョーワ1国でここまでもったのが不思議な位だ。お前だって本当は分かっていた事だろ?」
帝国とミョーワの一騎打ちをして、勝てるとセコンドが本気で思っているようには感じられないでいたティノは、冷静な態度で問いかけた。
「…………もう、この国は終わりなのか?」
ティノの言う通りセコンドも、いや、ミョーワの人間誰しもが薄々どこかで分かっていた事だが、これ以上粘ったところで勝ちを見出す事などありえないだろう。
後はこのまま少しずつ兵が殺されて減っていき、抵抗したとしても国が滅亡するのを長引かせるだけであろう。
その事は分かっていつつも逃避していた部分を指摘されて、それでも僅かに諦められないようにセコンドは呟いた。
「ここからはお前たちがどうしたいかによるんじゃないか?」
「……どうしたいか?」
ティノの言葉を受けて、セコンドはこれからどうするべきかを黙って考え始めた。
「負けを認めて降伏したら、今の帝国の場合全市民を奴隷にしてルディチやハンソーの国に攻め込む時の自爆兵に仕立てるだろう。しかし、このまま勝ち目の無いを続ければ兵が死んでいくのを見続ける事になる……」
「………………」
セコンドはティノが言う事を黙って聞いていた。
「まぁ、俺としては……、いや、ルディチとしてはミョーワにこのまま戦い続けて少しでも帝国に痛手を負わせて貰えれば有難いけどな……」
ティノからしたら、ルディチが帝国と戦う時の帝国兵を減らすのが一番の目的でミョーワに助力しに来たので、言った通り戦い続けて貰いたいのが本音である。
「ティノ…………」
「ん?」
セコンドは何かを決めたかのような表情に変わり話始めた。
「お前も知っている様に、この国は一度帝国の支配下に置かれていた。」
「あぁ………」
「帝国の奴らに民たちは毎日のように虐げられてきた。」
セコンドは昔を思い出すように話を続けた。
「あのような日々から脱却するべく国を奪還したってのに、あの頃以上の最悪な日々に戻るなんて兵達も市民も考えていないだろう……」
「だろうな……」
前皇帝の時から帝国の傘下に落ちた国は、最悪な扱いを受けている。
ヴィーゴが皇帝になってからは少し違う意味で最悪だ。
この大陸を手に入れる為に、まるで物のように自爆兵として扱われる状態だ。
考えようによっては、もしかしたらまだ全皇帝の時の方が良かったのかもしれない。
どちらにしても、とても人として生きている感覚ではない。
そんな状態から一度は脱却したミョーワの人間たちが、また元に戻るなんて考えたくもないだろう。
「だからお前に頼みがある」
「頼み?」
「戦闘に参加しないミョーワの市民をルディチの民として受け入れて貰えないだろうか?」
ハンソーは現在内乱を抑える為に危険な為状況、この大陸で残された避難地域はルディチだけしかない。
その為セコンドは市民をルディチに逃がす事に決めたようだ。
「俺の魔法なしで市民の避難が済むまで帝国の攻撃から持ちこたえる事が出来るのか?」
「意地でも持たせてやるよ! ミョーワの兵士の最後の意地を見せてやる!」
「分かった。それじゃあすぐにでも動き出すか……」
「感謝する!」
決意のこもった表情をしたセコンドを見て、ティノは頼みを受け入れる事にした。
「じゃあな! ティノ」
「じゃあな! セコンド」
これが最後の言葉になると分かっている二人は、短い言葉を交わしただけでそれぞれ行動を開始したのだった。




