第207話 慎重
セコンドの紹介によってミョーワ共和国の大統領プリモと挨拶をしたティノは、先程セコンドに言われたように、好きに動いて良いという事を言われて部屋を後にした。
「好きにしろって言われてもな……」
これまでの帝国との戦いで疲弊し余裕がないのも分かるが、あまりにも雑な作戦にティノも困惑していた。
「奴隷兵を吹き飛ばす位でいいのか?」
帝国を相手にするのに一番面倒なのは奴隷兵である。
他国の領地を手に入れた時、強制的に陥れた平民などの奴隷だけでなく、どういう理由だかは不明だが、その中には実力のあるものが紛れ込んでいるから面倒なのである。
「まぁ、どうなるか分からないけど、取り敢えず言われた通り思いっきり行ってみるか……」
今までの長い人生でコツコツステータスを成長をさせて来たティノは、ここ数年思いっきり魔法を放つ事などしていない。
そんな事をしなければいけない必要性も、そのような事をする機会も全くなかったからだ。
ティノ自身、どこまでの攻撃が出来るか分かっていないが、言われた通りにする事にする為、ミョーワ軍が帝国軍とにらみ合う戦場に向かって行ったのだった。
◆◆◆◆◆
「ヴィーゴ様、ミョーワへの攻撃はどうなさいますか?」
ミョーワ共和国と対峙した陣において、帝国軍最高指揮官の将軍ダルマツィオは、皇帝のヴィーゴに対して、攻撃に関しての作戦の指示求めていた。
「…………これまで道理奴隷兵を送るだけでいい」
少しの沈黙の後、ヴィーゴは慎重な作戦を提案した。
「よろしいのですか?」
その様子を見て、ダルマツィオはやや疑問に思ったのだった。
「ルディチはイーヴォの相手に動いているのですから、一気にミョーワを攻めた方が良いのではないですか?」
ミョーワの援軍に来ていたハンソーの軍が、ルディチの軍と共にイーヴォが起こしたハンソーの内乱を治める為に動いた事は斥候からの知らせによって分かっている。
今ミョーワは、これまでの交戦によって弱っている状況は変わっていないはずである。
ここで一気に攻め立てて、この大陸から消し去るチャンスのようにダルマツィオは思えた。
なので、ヴィーゴの慎重な作戦に疑問に思ったのだった。
「確かにお前が言うように、今ミョーワを潰すチャンスかもしれない。だが、僅かに気になる事があるんでな……」
ヴィーゴとしても援軍のいないミョーワは、相手にならない事は理解している。
イーヴォの内乱を治める為に動いているルディチが、予想道理ジワジワとハンソーの都市を奪還して行っている。
とてもではないがミョーワを援護しに来る者などいないように感じる。
だが、ヴィーゴにはどうしても行方が分からない男の事が気になっていた。
「気になる事ですか?」
「あぁ、……ティノだ」
ダルマツィオの問いかけに、ヴィーゴは気になっている事の答えを言った。
「イーヴォ程度となら、ルディチが勝つ確率の方が高いだろう。実際じわじわと戦線が押し込まれている」
ヴィーゴは、ダルマツィオに対してさらに詳しく自身の考えを説明し始めた。
「ただ、思ったいたより遅い気がする。もしかしたらミョーワに来ているのではないかと言う思いが拭えないでいるのだ」
ヴィーゴはティノの実力をかなり警戒している。
ルディチへの侵攻を他の国より後回しにしているのもそのせいだ。
ティノの行動は、チリアーコが生きていた時はある程度なら把握出来ていた。
しかし、そのチリアーコがいなくなった今、把握する手段がなくなり慎重になるのも仕方がない事である。
「もしもティノがいた場合、俺達が痛手を負う可能性が高い。ティノが来ているのかを確かめる為にも奴隷兵で様子を見た方が良いという事だ」
「……そうですね。ところで、もしもティノが来ていた場合どうなさいますか?」
ダルマツィオはティノの実力は分からないが、ヴィーゴの話とその警戒感からとんでもない実力の持ち主だという事は理解している。
以前ヴィーゴにどれ程の強さなのかを聞いた時、フェンリル並みの実力だと言った為、冗談だと思っていた。
だが、真面目な顔をして言うヴィーゴに、冗談でないという事を悟った時は、寒気がした事を覚えている。
そんな化け物がもしもミョーワについているとしたら、とてもではないが向って行きたくない。
そう思い、ダルマツィオは最悪を想定した時の事を尋ねておいた。
「その時は奴隷兵を小出しにして、ティノの魔力が尽きるのを待つしかないな」
幾らティノが化け物であろうとも、一応は人間だ。
魔力を使い続ければ枯渇するはずだ。
魔法が無くなれば、流石に倒す事が出来ないとは思えない。
消極的な作戦だが、一番確実な方法に思える。
「畏まりました。では奴隷兵の追加をするように帝国内の都市に通達しておきます」
フェンリル並みの化け物相手に消耗戦を行うには、とんでもない数の兵が必要になるはずだ。
その事を見越したダルマツィオは、すぐに奴隷兵の追加を指示する事にした。
「奴隷兵の追加が出来てから行動を開始するぞ!」
「はい!」
まだティノが居るとは限らないが、安全に勝利を収める為にヴィーゴ達は慎重を期すことにしたのだった。




