第205話 互いの戦地へ
「ヴィーゴ様が仰った通りルディチに救援を求めたようですね?」
「……だな」
ミョーワ国内の行動は逐一報告を受けていたダルマツィオが、予想道理の行動を起こした事を皇帝となったヴィーゴと2人で話し合っていた。
その行動をミョーワ陣営が起こしてから帝国側は拠点に一度戻り、様子を窺うように行動を起こさないでいた。
ダルマツィオが言ったように、このミョーワの行動はヴィーゴの予想していた行動だった。
同盟のハンソーが反乱によって乗っ取られ、現在戦っている帝国と挟撃されたりしては、ミョーワからしたらとてもではないが勝ち目がない。
チリアーコが生前ミョーワの内部を探った時に、ティノとの関りが僅かに感じられた事がヴィーゴには報告されていた。
以前に帝国の領土としていたミョーワの地域が、反乱によって建国を果たし今のミョーワ共和国が出来た。
その時の内乱の成功もヴィーゴには違和感があった。
恐らくその時からティノが関わっていたのではないかと、チリアーコとの話し合いによって推測している。
この状況なら現在ルディチ側と関りが薄いとしても、助けを求めるのは分かり切った事だった。
「我々はこのまま高みの見物と行こうか?」
この中断の間、帝国側は兵の補充や食料の調達などを行い、次の衝突までの英気を養っているようである。
この予想道理に進む状況に、ヴィーゴは楽しそうな笑顔になった。
「もしもイーヴォが勝った場合はどうなさいますか?」
ヴィーゴの考えでは、マルコは王としてまだまだ甘い性格をしていると考えている。
ヴィーゴの兄であるセルジュとの戦いの時も、奴隷兵を態々開放するなどと言う手間を行った事からそう推察している。
とは言え、ルディチは人も増え戦力としても以前と比べれば格段と成長している事は分かっている。
内乱でゴタゴタの最中のハンソーでは、勝てないであろう事は予想できる。
しかし、イーヴォも性格はともかく、中々人を使う事に長けた人間に思える。
その事からイーヴォの勝利もあるのではないかとダルマツィオは思い、その場合の事をヴィーゴに尋ねた。
「別に……、その時はイーヴォを潰せば良いだけの話だろ?」
イーヴォは一応協力関係にある存在なのだが、ヴィーゴの中では使い捨ての存在でしかない。
帝国以外の国を殲滅するために情報を得ていた時に、偶々使えそうだったことから協力をしてきただけの存在だ。
ハンソーが内部から揉めさせる事が出来た今、もう別にどうしようが関係ない。
この後は恐らくルディチと戦うのだから、イーヴォの始末はルディチにさせてしまうのが楽でいい。
運よくイーヴォが勝ったとしら、その時は自分たちの手で潰せばいいだけの事である。
「……そうですね」
ダルマツィオは微かに笑って同意の言葉を呟いた。
◆◆◆◆◆
「…………と言う風な状況だろうな」
現在ルディチの城内でも同じことがティノからアドリアーノに話されていた。
「思いっきり詰んでるじゃねえか……」
すべての話を聞き終えたアドリアーノは、ミョーワ同様自国の状況が最悪な状況にいつの間にか陥っている事に顔を青くしていた。
「まぁな……」
「まぁなって……」
この状況になっても平然と答えるティノに、アドリアーノは呆れたように呟いた。
「ルディチに選択肢は無いな。イーヴォの率いる新ハンソーと戦うしかない」
マルコの性格から、助けを求める人間を見捨てるような事はしないだろう。
その事から、ティノは新ハンソーとの戦いに向かう事を指示した。
「しかし、新ハンソーに勝てたとしても帝国が攻めてきたら終わりだな」
「それは平気だ。俺がミョーワを使って帝国を抑え込んでおくつもりだ」
「お前が?」
「あぁ」
数日中にハンソーの内乱を沈める事を求められた内容の書状が届き、マルコがその求めに応じて行動を起こした場合、ルディチが新ハンソーと戦っている途中でミョーワが潰れれば今度はルディチが攻め込まれる可能性がある。
その状況を危惧したアドリアーノに対して、ティノが動くことを告げた。
「……お前1人でどうにかなるのか?」
ティノが常識外れの戦闘力をしているのは理解しているつもりのアドリアーノだが、さすがに一国相手に戦って勝てるとは思っていない。
その為、そんな事が出来るのか思わず問いかけた。
「……多分な。それに勝つのではなく抑えるだけだからな」
ティノ自身も、帝国相手に一人で勝利を収める事が出来るとは思っていない。
しかし、戦う場所はミョーワなので、被害を気にすることなく戦う事が出来るという事も利点だ。
被害を気にせず本気で戦えば、抑え込む事ぐらいは出来ると思っている。
「ミョーワの人間には悪いが、被害を考えなければどうにかなるだろう」
「……そうか。ならばそっちはお前に任せる」
ティノが自信のある発言をしたので、アドリアーノは新ハンソーとの戦いに挑む事を決意した。
「じゃあな……」
「あぁ……」
お互い戦地へ向かう事になった二人だが、いつものように短い挨拶を交わして分かれて行った。




