第204話 提案
「……と言うわけで、ジョセンの人間を受け入れてくれないか?」
ジョセンの町でエウゼビオと話したティノは、ルディチに戻りその日の夜に平然と城に侵入し、宰相をしているアドリアーノの部屋を訪ねていた。
「いきなり現れたと思ったら、お前……」
建国した当初から比べれば少しは領土も拡大し、他国も手を出しづらい国家に成長したルディチ王国の王城にあっさりと忍び込んで来たティノの事を、アドリアーノは呆れたように見つめながらため息をついた。
しかも面倒な話を持ち込んで来たから、アドリアーノからしたら始末に置けない。
「ずっと気にかけていたんだ。彼らを保護出来れば安心してハンソーに攻め込む事が出来るだろ?」
「ハンソーに攻め込む? 確かに今ハンソーは内乱でルディチにとっても面倒な事になっているが……」
ティノの言葉を聞いて、アドリアーノは少しの引っ掛かりを覚えた。
ハンソーとは同盟関係では無いが、帝国の脅威を考えると戦っているわけには行かない存在なのはお互い様である。
ハンソーで内乱が起こっているとはいえ、ルディチにとっては今までと同様不干渉の相手でしかない。
攻め込んで、帝国に隙を見せる訳には行かない存在なのは変わる事は無いという風に、アドリアーノは推測していた。
「甘いな……。今ハンソーで内乱を起こしている人間は帝国と通じている。ハンソーが反乱軍に制圧されるのも時間の問題だ。制圧後はハンソー王を始末するついでにミョーワを落としにかかる。その次にルディチと言った所だな……」
「………………何だと? そんな事になったら完全にこの大陸は帝国の物も同然ではないか!」
アドリアーノも一応兵を派遣して密かに他国の情報は得ているが、まさか今ハンソー国内で反乱を起こしているメンバーが帝国と繋がっているという事までは情報が入っていないようだ。
ティノに言われて、その最悪な可能性が出てきたことにアドリアーノは顔を青くした。
ルディチはハンソーとミョーワが有るからどうにか帝国に攻め込まれる隙を作らずに来たのだが、その2つの国が無くなれば、この大陸は大国である帝国と、小国のルディチの一騎打ちになってしまう。
ルディチは明らかに勝ち目のない戦いに挑まなくてはなくなる。
「その通り……だが、ミョーワの人間も唯負けるつもりもない」
「それはそうだが、国の東西から攻め込まれてはミョーワもルディチ同様為す術もないだろ?」
ハンソー王が軍を率いてミョーワにいるとは言え、とてもではないが勝利を収めるのは厳しい事は分かり切った事である。
「そう、だから恐らく数日の内にミョーワからルディチに何かしらの話を持ち掛けてくる可能性が高い」
「ミョーワがルディチに? 同盟から外しといて困ったから嘆願してくるって言うのか?」
元々ミョーワとハンソーの同盟にルディチも加わる予定だったが、ティノとマルコの実力に警戒感を覚えたその2つの国がルディチの排除を行ったのである。
アドリアーノからしたらどの面下げて物を言っているんだと言った所なのは当然である。
「確かにふざけた事を言っているが、両国とも相当切羽詰まった状態だ。かなりの条件を提示してくるはずだ。それにその2国が無くなればルディチも最悪な状況に陥る。手を貸すのは仕方がない状況になる事も分かっての嘆願だろう……」
「…………ふざけやがって! だが、そう考えるのが妥当かもな……」
今以上に追い詰められた状況で、帝国との戦争になるのはルディチも望む所ではない。
かなりの速度で成長を続けているルディチだが、帝国の数によるごり押しには全然勝ち目がない。
出来れば少しでも時間をかけて国力も然る事ながら、武力も強化して臨みたい所である。
建国間もないこの国では、帝国と戦うには時間も戦力もまだまだ足らない状況だ。
時間を稼ぐためにもこの2国がまだ居てくれた方が望ましい。
「しかし、どうやってハンソーの内乱を収めるんだ? ルディチだってそれほど人は送れないぞ?」
「大丈夫だ。ミョーワには以前俺と繋がっていた男がいる。この状況を打破出来る可能性として俺の名前を出してくるはずだ。だからお前は俺を送る代わりの条件を考えて置けば良い」
「お前はそれで良いのか?」
アドリアーノからしたら、ティノは国に係わるのは好まない性格だと思っている。
そのティノが、普通に自分が動くと言っている事に違和感を感じたのだった。
「あぁ、全然構わん。だからと言った訳ではないが、交換としてジョセンの町の人間を受け入れてくれ」
「そんな事でいいのなら私から明日にでもマルコ様に話しておく。お前も知っての通り、マルコ様の事だから拒むことは無いだろう」
「拒むどころか沢山の人が増えて喜ぶんじゃないか?」
長年一緒に過ごして来た感覚からマルコの姿が浮かんで、僅かに微笑みつつティノは言った。
「その通りだな……」
ティノ程ではないが、建国してからずっとマルコの側にいるアドリアーノも同じ姿が想像できたのか、ティノ同様に微笑んだのだった。




