第200話 イーヴォ
1週間以上開けてしまい申し訳ありません。本当は昨日投稿する予定だったのですが、ミスって文が消えちゃいました。なので今日になってしまいました。
ネメジ…………この数年で名が知られてきた冒険者集団のクラン名である。
ネメジ(天罰)の名の通り、クランの敵は容赦なく潰しにかかる事で有名な冒険者集団である。
冒険者としては優秀な実力を持った集団の為、他の冒険者と何度かいざこざを起こしていたが、現在はクランにおいての最高位のSランクにまでのし上がっている。
そのSランクを手に入れた事で、その恩恵にあずかろうとここ数年は沢山の人間が入団し、かなりの人数に膨れ上がっているらしい。
そのクランの中の幹部達が、今回帝国と組んでルディチにちょっかいをかけようとしていた張本人だった。
『それにしてもどうやってルディチに攻め入るつもりだったんだ?』
確かにクランネメジは実力も人数もかなりの物であるが、帝国がルディチの王都を攻め入るには、ルディチの西側の都市を落としてからでない限り王都に攻め入る事は出来ない。
ネメジの連中がハンソー攻め入る場合は、連中の拠点であるボウシカから攻め入るには、カセターニ家が協力することでヤタを通って王都に攻め入れるかもしれないが、さすがに人数が足りないだろう。
そのカセターニの協力ももう無いのだから、彼らの完全に作戦は潰れたはずである。
『まあ、チリアーコあたりが連絡係なのだろうが……』
つい先日ティノが始末したチリアーコは、この世界で数少ない転移魔法の使い手だった。
その能力が使える為、帝国皇帝の三男ヴィーゴに気に入られていたのだろう。
しかし、そのチリアーコももういないので、イラーリオはルディチに攻め入る事は出来ないはずである。
にも関わらず、イラーリオ達は酒場で攻め入る話し合いをしていた。
『チリアーコの死にまだ気付いていないのか?』
ルディチに攻め入るにしても何かしらの合図が必要である。
帝国からの合図をイラーリオ達に知らせる役割は、チリアーコ以外の人間はいないだろう。
そのチリアーコから合図が無いのにも関わらず、まだ攻め入るつもりでいるなら浅はかとしか言いようがない。
『まあ、イラーリオも今日の内に始末する事だし気にする必要ないか?』
イラーリオ達が酒場でまだ飲んでいる中、ティノは一足早く勘定を済ませて酒場を出た。
そして酒場近くの細い路地に隠れて、イラーリオ達が出て来るのを待つ事にした。
“バタンッ!”
しばらくすると酒場の扉が開き、イラーリオ達が出てきて通りを歩き始めた。
どうやら宿屋に向かうらしく、イラーリオ達はどこの娼館の女が良いとか下世話な話をしながら歩いて行った。
『…………ここらでいいかな?』
イラーリオ達を尾行していたティノは、騒ぎにならないような場所に来たので動き出した。
「「「「「!?」」」」」
自分達の後方に人がいる事に気付いたイラーリオ達5人は、足を止めて振り返った。
「…………誰だお前?」
ついさっきまで笑いながら話していたイラーリオ達だったが、ティノが醸し出す雰囲気を感じて真剣な顔になり問いかけて来た。
「特に話す事は無いが…………取り敢えず死んでもらおう」
「「「「「!?」」」」」
ティノの言葉を聞いた5人はそれぞれ武器を取り出し、構えを取った。
「ほぅ……、さすがネメジの幹部達だな。中々いい構えだ」
どうやら名ばかりのSランククランでは無いらしく、ちゃんと実力を有しているのが分かるような構えに、ティノも感心したような声を上げた。
「性格は相変わらずねじ曲がっているようだが、どうやら武術はちゃんと鍛えていたようだな?」
「…………お前、俺とどこかで会った事でもあるのか?」
ティノが自分に向かって言っている事に違和感を感じたイラーリオは、沸きあがった疑問を口にした。
「直接会った事は無いが、お前の事なら知っているよ…………イラーリオ王子様」
「!? 貴様消すしかないな……」
イラーリオという名の王子は、もうこの世界にはいない存在になっている。
今現在はイーヴォという名で行動している。
元の名を知る者は、ここにいる4人のクラン幹部以外にはごく僅かしかいない。
何かと都合が悪いので、これまでそういった者達はあの世に葬り去って来た。
「殺れ!」
「「「「おう!」」」」
今回もこの目の前の男を始末してしまおうと、イーヴォは4人に指示を出した。
返事と同時に4人はティノに襲い掛かった。
“バキッ!” “ドカッ!” “ガンッ!” “ドンッ!”
「なっ!?」
しかし、ティノは向かって来た4人をあっという間に殴り倒し、イーヴォの側に投げて積み上げた。
この4人は、イーヴォが王族としての地位と名前を奪われて、冒険者として生きて行く中で知り合った連中だ。
その実力はかなりの物だとイーヴォは思っている。
しかし、その4人を簡単に倒してしまう目の前の男にイーヴォは恐怖した。
「貴様何なんだ!?」
「別に知っても意味ないだろ? お前はこの場で死ぬんだから……」
イーヴォの言葉を無視するように、ティノは剣を魔法の指輪から取り出した。
「…………そうか! 貴様がチリアーコが言っていたティノとか言う男か!?」
その様子を見ていたイーヴォは、冷や汗を流しながらもその事を思い出した。
「チリアーコが言っていた通り化け物のような奴だな……」
「化け物とはあの野郎失礼な奴だな。殺しておいて正解だったな……」
「!? 殺した!? ……道理でチリアーコの奴が来ないと思ったらそういう事か!?」
帝国の連絡係であるチリアーコは、頻繁にイーヴォの所に現れていた。
1週間に一度くらいの頻度で来ていたのだが、最後に会ってから10日以上経っている。
ティノの言葉が本当なら現れない理由に納得がいった。
「まあ、そういう事だ。お前もこの場であの世に送ってやるよ」
死の宣告と共に、ティノはイーヴォに向けてゆっくり歩きだした。
“スッ!”
死神が近付いて来る中、イーヴォは懐から石のようなものを右手で取り出し、左手で積み重なって気を失っている仲間達に触れた。
「!?」
その様子を見たティノは、一気に地を蹴りイーヴォの殺害に剣を振りかぶった。
「調子に乗ってこいつらを積み上げたのは失敗だったな!?」
“フッ!”
その言葉を言うと、イーヴォは仲間と共にその場から消え去った。
「チッ! まさか転移石を持っていたとはな……」
ティノの剣は僅かにイーヴォに届かず、空を切った。
イーヴォを仕留めそこなったティノは、思わず舌打ちをした。
イーヴォが使ったのは転移石と呼ばれるものである。
この世界ではごく稀に高濃度の魔素が集まり、時空が歪み、迷宮と呼ばれる場所が出来る事がある。
迷宮の中には、時折変異した鉱物が出土する事がある。
その鉱石は武器や防具に重宝されるのだが、中には転移石と言われる鉱石が見つかる事がある。
しかし、見つかると言っても他の鉱石とは違い極めて少ない出現確率である。
ティノも長い人生で片手で数え切れる程度しか見た事がない。
転移石は、ティノやチリアーコが使っている転移と同じ効果を及ぼす物で、転移先をイメージし、魔力を流す事で発動して転移する事が出来る。
魔法の場合闇魔法の適性が必要だが、転移石の場合その必要が無い分更に貴重である。
それほど貴重な物を、まさかイーヴォが持っているとはティノでも思わなかった。
「またミルコの鼻でも頼るか……」
転移石は誰でも使えると言っても、魔法で転移した時同様魔力を大量に消費する。
イーヴォは他の4人と共に転移したので更に魔力を消耗しているはず、なのでそれ程遠くに転移してはいない。
とは言っても、ティノが察知できる範囲からは離れてしまっているので追いようがない。
チリアーコの時同様転移した方向が分かれば追いかけられるので、ティノはすぐにミルコの顔が頭に浮かんだのだった。




