第199話 元王子
チリアーコの最期の言葉が気になり、ティノはハンソー王国の状況を探りに王都のチョーヒヤにまず向かった。
『特に変わった様子はないがな……』
数週間前もティノはここに来て探りを入れてみたのだが、城内も町もその時と変わりがないように思える。
とてもルディチに対して何かを起こそうという雰囲気は感じられない。
『デマか?』
ティノの事を恨んでいたので、チリアーコが最期にデマを言って惑わそうとした可能性が頭をよぎって来た。
『取り敢えず王都に動く気配はないな……』
念の為3日間程色々探ってみたのだが、やはり特に怪しい気配がない事からティノは他の町へ移動する事にした。
次に向かった町は、以前リンカン王国の王都だったボウシカの町である。
この町がツカチやヤタの町から1番近い大都市である。
それに元々リンカン王国の町だった為に、ハンソー王国に対しての敵対心を持っている市民は少なくない。
『それにしても……』
ハンソーが統治するようになってから徐々に衰退していっていたボウシカだが、最近は他のハンソーの市民が少しずつ流入してきた事で、最近は少しずつ回復傾向に向かって来ている。
それでも多くの元リンカン国民がスラムで生活していて、治安の面ではあまりよろしくない状況である。
孤児などが町の片隅で座り込んでいるのを見てしまうと、やはり何となくつらい気持ちになってしまう。
『この町なら可能性があるかもな……』
この町にはルディチに対して何か起こそうとする人間も集まっている。
元リンカン王国の町を幾つか手に入れたルディチを、リンカン王国が消滅した今、リンカンの国に見捨てられた恨みの吐き口をルディチに向けている人間が少なからずいるからである。
『でもなあ……』
そういった人間が集まって行動を起こしたとしても大した数にはならないので、内乱の協力をカセターニ家が受けたとしてもあまり役には立たないような気がしてならない。
カセターニも内乱を起こす事を決意するには、もっと強力な後押しがない限り行動を起こすはずがない。
『念の為調査してみるか……』
ティノはこの町の可能性が少なからずあるので、取り敢えず探ってみる事にした。
『ん? あいつは……』
情報収集と言ったら酒場だろうと向かう途中、冒険者の集団が酒場に入っていった。
その中の一人に見覚えがあったティノは、酒場に入り少し離れた所に座り、個室に入った先程の冒険者達の会話に聞き耳を立てたのだった。
「それにしても随分早くカセターニの奴バレてしまいましたね?」
最初の内は今日の依頼の事を話していた冒険者達だったのだが、酒が進むに連れて口が軽くなったのかティノの求めていた話をし始めていた。
『なるほど、こいつらが関わっていたのか……』
ティノは、この冒険者達がカセターニ家の後押しになったのかと納得していた。
「別にあいつらが捕まろうが関係ない。俺達は報酬さえ貰えりゃ何でもする冒険者だ。ただ依頼人の望むように動いただけだからな……」
「しかし本当に大丈夫なんですかね?」
「帝国と組むって事か?」
この話になってから冒険者達は先程までの声のトーンは落ち、静かな声で話始めていた。
しかし、魔力で聴力を強化したティノには筒抜けである。
その事に気付かない冒険者達はそのまま会話を続けた。
「あいつらみたいなイカレた国が本当に報酬を支払うと思いますか?」
帝国は冒険者からも敬遠される国家である。
戦争が起こる時はギルドが冒険者を集めて報酬を払うのだが、その報酬は他国に比べて高い値段の為、戦争時だけ協力して儲けようとする冒険者は結構な数いる。
しかし、この冒険者達のように他国への裏工作に協力した時の場合、噂では証拠隠滅に消されると言う事が広がっている。
その事から帝国と深く繋がろうとする冒険者はいなく、いまいち信用が出来ないのが普通である。
「大丈夫だろ? こっちは別に報酬を求めてはいないし、帝国からしたら大陸統一に一気に近付くわけだし、両方の望みが叶うんだから……」
「……そうですね。どちらかと言うと俺達の望みの方が多く叶いますけどね……」
「確かにな……」
そんな会話が続いた後、男達は大分酔ったのか酒場を後にし宿に戻って行った。
『生きていたのは知っていたが、ここまで這い上がって来ていたとはな……』
この冒険者達のクランの事は何度か聞いていたので知っていたが、その中のトップがまさかこの男だとはティノは思ってもみなかった。
『元は王子、上に立つ者の才があったのかもしれないな……』
ティノが見付けた男とは、現在Sランクのクランのリーダーをしているが、元はハンソー王国王子だった男、イラーリオだった。
現在ルディチ王国の王になったマルコが、ハンソーの学校の学生時代に武道大会で戦った男である。
その時大会の裏で色々画策した事により、市民の怒りを買い、父である現国王によって牢獄に入れられ自殺したと公式にはされているが、本当の所は家名や王子としての地位を剥奪した後、無一文で放りだされただけで済まされたのだった。
その男が冒険者としてこの地でのし上がっていたのだった。
『元王子の肩書も利用したのだろうが、ルディチを潰されるのは勘弁だな。都合を見て消しとくか……』
帝国も、イラーリオのクランの協力があってルディチの包囲網が形成されるのを見込んでいるだろう。
取り敢えずティノはイラーリオの暗殺を決意したのだった。
最近多忙になって来て投稿が遅れています。読んで頂いている方には申し訳なく思っています。出来る限り投稿をするつもりなのでこれからもよろしくお願いします。