第196話 唐突
「やはりバレてしまいましたか……」
グリマンディ家のダニオに内乱の打ち合わせにツカチの町に来たチリアーコだったが、昨日のうちに一族もろとも捕縛され連れ去られていた。
どうやらチリアーコが渡した手紙がバレてしまったようである。
「それにしても随分と早かったですね……」
◆◆◆◆◆
チリアーコがグリマンディに接触をかけたのは数週間前の話である。
ルディチ王国を潰す策を帝国皇帝の三男、ヴィーゴと話し合っていた時、グリマンディ家とカセターニ家という貴族家の名前が挙がって来た。
この2家は建国時に、現国王のマルコに王の座をかっさらわれた事により、腹に一物持っているとルディチの市民は噂していた。
その事を知って、色々関係を調べてみたらそれは本当のように思えて来た。
ヴィーゴの兄である皇帝の長男セルジュがルディチと戦った時も、この2貴族はハンソー王国からの進軍に注視すると言って参戦しなかったという話だった。
グリマンディ家が領主をしている町ツカチとカセターニ家が領主をしている町ヤタも、最近は市民が王都や他の町に流出して行っていて、人口が減少していっている。
セルジュ軍との戦争では、フェンリルの参戦という幸運に恵まれたとは言え、敵を壊滅させた事には違いない事から、マルコの人気はそれほど落ちる事はなかった。
その後、戦後の景気回復を迅速に行い、他大陸から人種に関係なく招き入れた事により、あっという間に元の状態に近付けた事が市民の信頼を得たのか、マルコの人気は建国時の状態にまで回復している状態である。
それに引き換え、戦争に参戦せず、他人種は受け入れず、他の町より若干税金を高く徴収するにも関わらずそれほど町に活気が出ないせいか、グリマンディとカセターニはじわじわと人気が落ちる一方である。
その事からか、最近の2家は焦っているように思えた。
「この2家は使えるな……」
チリアーコが集めた2家の情報を聞いたヴィーゴは、面白そうに呟いたのだった。
「それともう一つ情報がございます」
「何だ?」
この2家の情報を集めているうちにある耳寄りな情報が手に入ったので、チリアーコはヴィーゴに報告する事にした。
「カセターニの方はハンソーと内通しようと画策しているようです」
「ほ~……、そいつは良い話だな……」
やはりチリアーコが思った通り、この情報にヴィーゴは反応した。
チリアーコが言ったように、カセターニ家のチリーノはどういう理由でだかは分からないが、ハンソーに近付いているようである。
子飼いの兵士を使って、ハンソーの役人と密会の機会を作る為の連絡を取っているようである。
「それを利用しない手はないな……」
「……どのように致しますか?」
チリアーコ自身もこれが使えるとは思っていたが、具体的な案は思いつかないでいたのだった。
「ハンソーの役人を上手く操れるか?」
「強制的に奴隷にしてしまえば出来ると思いますが、私は荒事が得意ではありませんので、誰か貸して貰えませんか?」
「そういえばそうだったな……」
魔力量も普通の人間にしては大幅に有しているチリアーコだが、武術の類はからっきしである。
魔法の方も、闇魔法は天才的に使いこなせるのだが、闇魔法は攻撃的な魔法が無いので、戦闘には利用出来ない状態である。
以前のように奴隷を魔物に変えて利用するという手があるが、強制奴隷にする為には結構な量の魔力を使用する事になる。
一体の人造奴隷を作るのにはこれまた大量の魔力を使わなければならない。
とてもではないが使えない案である。
なので、戦闘に定評がある人間を連れて行くのが最適である。
「そうだな……、ダルマツィオを連れて行けばいい」
「有難いです。ダルマツィオ様程の方に助力頂けるのは心強いです」
戦闘面において、ヴィーゴの部下の中では最強の人間であるダルマツィオに付いて来て貰えるのは、チリアーコにとって最適な人選である。
「俺からダルマツィオに指示を出しておく」
「それで……、グリマンディとカセターニをどのようにするのですか?」
この状況を利用するのは分かったが、どのようにするのかはまだ決まっていなかった。
「この2家に内乱を起こさせる」
「……なるほど、ツカチもヤタもルディチ王国の王都のすぐ南、全くの無防備の状態で攻め込まれればマルコでも抑えきれないはずですからね」
「だろ? まぁ、本当は俺がマルコと1対1で潰したい所だがな……」
帝国内で、最強にまで鍛え上げた戦闘力も、ライバルとなる人間がいないせいか最近では伸び悩んでいる。
しかし、マルコという自分と同等の能力者を見付けたヴィーゴは、本気でそう思っているようである。
◆◆◆◆◆
ヴィーゴとの話し合いによって出来た策略は見事に成功し、後は2家のどちらが先に内乱を起こすのかと行った所にまで持ってきた。
にも関わらず、両家とも捕まってしまうとは残念である。
「まあ、まだ策はある。そちらに移行すれば良いだけの話か……」
策が潰れたにも関わらず、それほど落ち込んだ様子もなく、チリアーコはツカチの町から去ろうとした。
「!!?」
チリアーコが転移の為に人気の無い所に向かっていると、チリアーコにとって最悪の人間に出くわした。
「よう!! 久しぶりだな……」
どうやって自分の居所を突き止めたのか、見た事もない子供を連れたティノがチリアーコの前に立っていたのだった。