第193話 手紙の相手
『はい!』
『よく見つけたな……』
匂いで見付けるとは思ってもいなかったティノは、ミルコから手紙を受け取った。
見付けたミルコの頭を、ティノは優しく撫でて褒めた。
『えへへ……』
撫でられたミルコは、ティノの役に立てた事に嬉しそうに微笑んでいた。
『さてと、何が書いてあるのかな……?』
ミルコを撫でるのを止め、ティノは見つかった手紙の内容を見ることにした。
『…………何だこれ?』
ティノは予想外の手紙の内容に驚いた。
『てっきりダニオと組んでると思っていたら……』
手紙はただの証拠を得る為に見つけていたのだが、手紙を見るまでティノは、ルディチ王国のもう1つの貴族家であるグリマンディ家が関わっていると考えていた。
ところが、カセターニ家が手紙をやり取りしていたのは、違う相手だった。
『よりにもよってハンソーかよ……』
内容を見たら、ハンソーから内乱の援助をすると言うような内容の文章が書かれていた。
このヤタの町は、王都であるトウダイをハンソーからの進軍を抑え込む為にあるような町である。
そこの領主が、その敵と組んで内乱を仕掛けるなどされたら、王都はあっという間に戦地に早変わりである。
とてもではないがこの事を放っておく訳にはいかない。
『待てよ……』
手紙を持って帰ろうとした時、ティノはある事を思い出した。
『ミルコ、帰るぞ!』
『うん!』
いつまでもここにいる訳にはいかないので、2人は部屋を元に戻して音もなく去っていった。
『父ちゃん、どうしたの?』
宿屋への帰り道、いつもと違い若干険しい顔をしたティノに、ミルコは不安そうな顔で話しかけた。
『何か嫌な予感がする……』
以前トウダイの屋台で聞いた話によると、貴族達が内乱を計画しているようなことを聞いた。
その情報から、カセターニとグリマンディが組んで内乱を画策していると思っていたが、カセターニはハンソーと組んでいたことが分かった。
ならばグリマンディも他と組んでいる可能性が出てきた。
その事が頭に浮かんだティノは、宿屋に向かうことを止め、一旦立ち止まった。
『父ちゃん?』
『ミルコ、計画変更だ。このままツカチに向かうぞ!』
立ち止まったティノにミルコが首を傾げていると、ティノは咄嗟にミルコの手を握り、転移の魔法を発動させた。
◆◆◆◆◆
『父ちゃん、ここは?』
『ツカチの町だ』
急に景色が変わった事にミルコが驚くなか、ティノは冷静に答えを返した。
『ここの町でも同じ事をするぞ。領主館に忍び込んで手紙か何かの証拠を見付ける』
『うん。分かった』
人目に付かないように町外れに転移したティノ達は、ツカチの町の領主であるグリマンディ家の館に向かって動き出した。
当日の内に行動を開始したのは、まだカセターニとグリマンディが組んでいる可能性もあるからだ。
カセターニが翌日にでも手紙が無くなったことに気付き、グリマンディに連絡が行った場合、証拠隠滅される可能性がある。
ヤタとツカチは距離があるが、人の足で1日の距離にある為、翌日に侵入したのでは間に合わなくなる可能性がある。
その為、今夜の内にツカチの領主館も調べる事にしたのだ。
『あそこだ……』
ヤタの町の時同様、ティノとミルコは館の内部を察知し、領主ダニオの書斎に侵入した。
『ミルコ、探すぞ』
『うん』
ヤタの時同様、ティノとミルコは分かれて捜索を開始した。
『くん、くん……』
ミルコは、ヤタの時探し当てたように鼻を利かせて本棚を捜索し始めていた。
それでヤタの時見付ける事が出来た為、ティノは否定することも出来ず、そのままやらせることにして、自分は普通に本を開いたり、引き出しを開けたりして探し始めた。
『あっ! あった!』
『早っ!!?』
侵入してそれほど経っていないにも関わらず、ミルコは自慢の鼻で手紙を見付け出した。
『はい!』
見付ける事が出来たミルコは、またティノに褒めて貰おうと手紙を渡した。
『…………フェンリルの鼻、恐るべし……』
手紙を受け取ったティノは、ミルコの頭を撫でながら、改めてフェンリルの鼻の良さに驚いたのだった。
当の本人であるミルコは、ティノに撫でられるのを喜んでいたのだった。
『さてと、こっちは何処と繋がっているんだ……?』
カセターニはハンソーと繋がっていた。
カセターニとグリマンディは子供の結婚で親戚である為、こちらもハンソーと通じている可能性が一番高い。
ハンソーでなければ、ハンソーと同盟国のミョーワである可能性が考えられる。
そう思いながら手紙を開いていくと、
『おいおい、帝国かよ……』
手紙を開いて見て、ティノはまたしても驚いた。
まさかグリマンディ家のダニオが、帝国と繋がっているとは思ってもいなかった。
手紙の内容には、グリマンディ家が内乱を実行し、帝国の助力を得てルディチの王族を始末したあかつきには、ルディチの地全てをグリマンディに任せるという保証書も納付されていた。
『どっちもふざけた奴等だな……』
“ビクッ!”
カセターニとグリマンディのふざけた野心で、ルディチの地を戦地にしようという事に、ティノは腹が立ってきた。
怒りでほんの一瞬ティノから漏れた殺気に、ミルコは驚いて固まってしまった。
『っと……、すまん』
ビックリして固まったミルコに気付き、ティノは優しく頭を撫でて謝った。
いつものティノに戻った事で、ミルコも次第に直っていった。
『ミルコ、今日は良くやったぞ。ヤタの町に戻って寝るぞ』
『うん』
証拠を手に入れたので、後は明日にでもアドリアーノに渡して、この2つの貴族を処分させれば良いだけだ。
ティノはミルコと共に転移して、折角支払ったのだからとケチな事を考え、ヤタの町の宿屋に帰って行ったのだった。




