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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
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第189話 嘘

“コン! コン!”


 ミーナとミルコが来て1ヶ月、またしても客人がやって来た。


「は~い」「キャン!」


 この数日、ミルコはティノから離れようとしない。

 寝るときも母親のミーナではなく、ティノと一緒に寝たがるので仕方なく一緒に寝ている。

 何度かもしばらくは一緒にいると言っても離れようとしない。

 今も背中に抱きつき離れようとしないでいる。


「……何だ。アドリアーノか……」


「やっぱり帰っていたか……」


 この家がティノの物だと知っている人間は、王城関係者でアドリアーノくらいしかいない。

 別に口止めをしている訳ではないが、マルコが困った時すぐにティノに頼らない為にアドリアーノが言わないでいるらしい。

 王になったのだから、ティノの意見に左右されず国を導かなければならない。

 その為、アドリアーノはマルコにもこの家の事を話さないでいる。


「久々に近くによったら煙突から煙が出ていたのでな……」


「そうか。まぁ、入れよ」


 別に帰っているのを隠している訳でもないので、ティノはアドリアーノを家の中に招き入れた。


「失礼す…………」


 ティノに促されて一歩中に入ったアドリアーノは、途中で言葉が途切れた。


「ん? 何者じゃ?」


 アドリアーノの視線の先には、人間の姿に変化したフェンリルのミーナが立っていた。


「この国の宰相をやっているアドリアーノって奴だ。一応信頼しても良い奴だ」


 ミーナの質問に対して、ティノは簡単にアドリアーノの事を説明した。


「アドリアーノ、こいつは…………」


 アドリアーノにも説明しようとしたが、そこでティノはどう説明するべきか分からず固まってしまった。

 素直にフェンリルと言うと、アドリアーノがそうするとは思わないが、他国への牽制などに利用される可能性もある。

 アドリアーノの口から漏れるなどと言うことは無いだろうが、この事を知った他の人間が知った場合はあり得る話である。

 特にルディチ王国の貴族のグリマンディ家、カセターニ家の連中は平気でやりかねない。


「…………妻だ」


 そう言った事を考えて、思わず出た言葉がこれだった。

 ミーナを見てフェンリルだと気付く人間は、そうそういるとは思えない。

 ティノだって僅かに感じる魔力感じと、ミルコを見て何となく気付いたくらいである。

 世間一般的に言って、姿が美しい30前半の女性の人間に見えるミーナを紹介するのにはこれしかなかった。


「…………」


「…………」


 ティノの言った言葉に、アドリアーノとミーナは表情を固まらせてティノを見つめていた。


『……それはどう言うことじゃ?』


『仕方ないだろ! フェンリルです。何て言えないだろ?』


 すぐその後、空気を読んだミーナが念話でティノに話しかけてきた。

 ティノも長年の経験から念話を使えるので、すぐに反論を返した。


『取り敢えず話を合わせてくれ!』


『…………仕方ないのう』


 ティノの方が人間関係の対処に長けているので、ミーナは取り敢えずティノの言うことに合わせることを了承した。


「妻のミーナじゃ。宜しゅう」


「…………この国の宰相をしているアドリアーノと申す。こちらこそ宜しく……」


 ティノからは全く女性の気配がしないでいたので、久々に会ったらまさか結婚しているとは思いもしなかったアドリアーノは、戸惑いながら挨拶を返した。


「……そいつは?」


 アドリアーノは、ティノの背中に乗っかり肩に顔を乗せているミルコを指差し問いかけてきた。


「こいつは…………ペットのミルコだ」


「!!?」


 ミーナとは違い明らかに子犬、いや子狼の姿をしているミルコをどう言うか考えたら、ティノは自然と言葉に出していた。

 その言葉に反応したのはミーナだった。


『どう言うことじゃ!? 幼体とは言え、神獣とも言われるフェンリルのミルコをペット呼ばわりとは!!』


『仕方ないだろ!! どう見たって子狼にしか見えないんだから……』


 そう言ったティノと、ミルコをペット呼ばわりに腹を立てたミーナは、念話で揉めながら睨み合っていた。


「……そう言えば、お前何しに来たんだ?」


 話はアドリアーノが帰った後ですることにして、ティノは話を変えるためアドリアーノに訪問の理由を問いかけた。

 アドリアーノを椅子に座らせ、テーブルを挟んで対面にティノとミーナが座り、ミルコがティノの膝の上に座った。


「……現在この国は沈んでいる。偶然フェンリルの加入によって敵の殲滅が出来たが、完全なる敗北だった。市民にもその事が知れ渡り、他国からの侵略が来ないか戦々恐々としている状態だ」


「……何だ? 愚痴か?」


 そんなことはちょっと町に行けば理解できる事である。

 なのでティノは、アドリアーノ達が軍の再興に苦しんでいる愚痴を言いに来たのだと思った。


「ティノ、お前が……」


「断る!」


 ティノは、アドリアーノの発言を遮るように拒絶の意思を示した。


「俺は確かにマルコがこの大陸を手に入れてほしいが、それはマルコ自身の手によってが前提だ。俺に頼って手に入れてもそんな国に先はない。お前も分かっているだろ?」


「…………そうだな。済まん、さっきの愚痴は忘れてくれ……」


 ティノに諭され、アドリアーノは自分の発言を撤回して椅子から立ち上がると、この家から出て行こうとした。


「しばらくはどの国も攻めてこないぞ。軍の再興も良いが、内政に力を入れた方が良いんじゃないか?」


 ドアを空けて出て行こうとしたアドリアーノが、あまりにも落ち込んでいるので手は貸さないが口は貸してやることにしたティノは、どうして攻めて来ないのかは言わず、忠告をしてやることにした。


「…………済まんな。忠告感謝する」


 そう一言呟いて、アドリアーノはここから立ち去っていった。

 その後、忠告を聞いたアドリアーノの指示によって、町は時を重ねるごとに活気を取り戻して行くのだった。

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