第187話 結果オーライ
ティノが脱獄していた時、サウルを殺害された復讐にミョーワへと進軍していたルチャーノの下に、セコンドが送った使者が到着していた。
「ルチャーノ様、ミョーワより使者が参りました」
「何!? ……通せ!」
殺害をしたであろうミョーワが、何の用件で使者を送ってきたのか分からず、追い返そうかとも思ったが取り敢えず話だけでも聞いてやろうと、兵に使者を連れてくるようにルチャーノは指示を出した。
現在ルチャーノ達は、ミョーワの西側にあるグランデルオータという町の近くの名もない村に到着していた。
ここからなら、ミョーワの首都のヌオーボヴィラッジオまでそれほど遠くない。
一気に首都に攻め込む事が出来る位置にある。
因みにナンダイトーは首都の北東にある隣町で、ティノが捕まって入れられた監獄は首都に近い場所におかれている。
「謁見の許可を頂きありがとうございます。私ミョーワ副大統領セコンドの秘書のイウリアーノと申します」
燕尾服に身を包んだ初老の男性が、上座の椅子に座るルチャーノの前まで来ると恭しく礼を述べた。
「前置きはいい、何の用で来たのかさっさと話せ!」
イウリアーノに対して、座ったままのルチャーノは不機嫌な表情で用件を言うように促した。
「恐らくルチャーノ様は勘違いをなされているのではないかと思い、参上致しました」
「……勘違いだと?」
イウリアーノの理解できない言葉に、座ったままのルチャーノは前のめりになった。
「サウル様を殺害した犯人は、ミョーワの者ではありません」
「フッ! 結局言い訳か?」
何を勘違いしているのかと思って聞いたら、所詮は言い訳に来たのかと思い、ルチャーノは嘲笑の顔をした。
「いいえ。我々はその犯人を逮捕しました」
「何だと!?」
しかし、続けられたイウリアーノの言葉に、ルチャーノは驚きの表情に変わった。
「犯人はルディチ側の人間でした。今は我が国最高の監獄に入れて閉じ込めております」
「ルディチの人間…………、それは本当か?」
「はい。そして我々としては、その犯人を帝国に引き渡したいと考えております」
犯人を教えたイウリアーノは、そのままその犯人を帝国に渡すことを提案した。
そうすることで、ミョーワが犯人ではないことをルチャーノに確信させる為である。
「…………そうか。俺はルディチ側の策に嵌まったのか……?」
少しの間黙り、冷静にサウルの遺体を見付けた時の事を考えて、自分の考えが間違っていたのだということに気が付いたルチャーノは、自分の馬鹿さ加減に半笑いの表情をしていた。
「分かった。犯人を捕まえて頂いた事感謝する」
間をおいて気持ちを立て直したルチャーノは、椅子から立ち上がり、イウリアーノに感謝の言葉と共に頭を下げた。
「いえいえ、無用な争いはこちらとしても求めていませんので……」
頭を下げられたイウリアーノは、恐縮したように言葉を返した。
「……ではすぐにでもその犯人を受け取りに行きたいのだが、宜しいか?」
「もちろんですとも。我々としても早く引き渡してしまいたいので、これから向かいましょう」
話はまとまり、ルチャーノは副将軍の2人を連れた3人だけで、犯人を受け取りにイウリアーノに連れられて首都に向かって行ったのだった。
◆◆◆◆◆
「あっ! 来た来た……」
ルチャーノ達が首都に向かってくるのを確認したティノは、町中に紛れていたのを止めて行動を開始した。
「あれがミョーワの首都か? 中々でかい門をしているのだな……」
もうすぐ首都に着くというところで、ルチャーノは立派な門に感心していた。
帝国の王都もかなりの大きさだが、それと匹敵するぐらいの大きさをしていたからである。
「皆様は要人ですのであちらの門から入って頂きます」
「あぁ、分かった」
首都に入る門は2つあり、要人用の門と、他の町から来た商人や冒険者などの一般向けの門とに別れていた。
ルチャーノ達から見て右が一般用で、左が要人用になっている。
まだ遠いが右の門には結構な列が出来ていて、門の前で兵に身分確認をされるのを順番待ちしているようだ。
「………………!!!?」
イウリアーノの後について左の門に近付いて行っていたとき、それが目に入り、ルチャーノは驚きで乗っていた馬の手綱を引いてその場に停止した。
「!? ルチャーノ様、どうしました?」
立ち止まったルチャーノを疑問に思い、後ろに付いていた副将軍達が問いかけたのだった。
「「?」」
ルチャーノに問いかけても、顔を上げて一点を見つめたまま黙っているルチャーノに2人の副将軍達は首を傾げたのだった。
「どうしました? 上に何か?」
「「…………!!!?」」
上を見て固まっているのに疑問を持った2人も、ルチャーノの目線の先を見て声を失った。
「皆様、どうしました?」
3人が止まっていることに遅れて気付いたイウリアーノが、乗っている馬と共に振り返り問いかけた。
「………………どういう事だ?」
「……はっ?」
「どういう事だと聞いている!!!」
固まっていたルチャーノは突然怒りの表情になり、大きな声と共に、魔法特化とは言え近接戦闘用に差していた剣を抜いてイウリアーノの喉元に向けたのだった。
「………………な、何の事でしょうか?」
突然の出来事に理解が出来ず、イウリアーノは冷や汗を流しながらルチャーノに問いかけたのだった。
「惚けるな!!! 何故門の上にサウル様の首が晒されているのだ!!!?」
そう、帝国の3人が固まったのは要人の門の上に、サウルの首が見やすいように飾られていたからだった。
「ぐっ! そんな!? 何であんなことを……」
ルチャーノに馬から引きずり降ろされ、指差す方向を見ると確かにサウルらしき人物の首が晒されていたのだった。
何故こんなことになっているのか分からない為、今度はイウリアーノが固まってしまった。
「………………そうか、貴様ら俺達を騙したな? 門を潜ったら今度は俺達を殺すつもりだったのだろう!?」
「いえ、そんなことはありません!!」
「黙れ!! もう我々は騙されんぞ!!」
“ブシュッ!!”
晒された首を見て、何故かこれは自分達を嵌める罠だという風に解釈したルチャーノは、イウリアーノの弁明も聞かずに喉を突き刺して息の根を止めたのだった。
「うわっ!!」
「きゃーー!!」
少し離れていたとは言え、その行為を一般用の門に並ぶ人々が目撃していた。
イウリアーノの遺体をそのままに、ルチャーノ達は踵を返して兵の下に馬を走らせたのだった。
「何だと!?」
イウリアーノが門の前で殺されたという報告を聞いて、セコンドは直ぐ教会に向かい遺体の側に駆け寄った。
「イウリアーノ………」
遺体は丁重に扱われ、教会に運ばれ、棺桶に入れられていた。
喉を貫かれて息絶えているイウリアーノの遺体を見て、セコンドは声を失った。
「………おのれ!! 帝国は言葉も通じないのか!?」
イウリアーノの頭の良さを買って秘書に迎えたセコンドは、自分に尽くしてくれていたイウリアーノを誰よりも信頼していた。
その為、帝国との交渉という難題をイウリアーノなら任せられるだろうと送ったのだったが、どうやら帝国は話すら出来ない相手だったようだ。
そんな相手の所にイウリアーノを行かせてしまった自分と、イウリアーノを殺した帝国に怒りがマグマのように沸き上がり、セコンドは大統領のプリモにこの事を話し、ルチャーノ軍との戦争を行うことを決定させた。
戦争を決定した後、それまで忙しく動いていた事で忘れていたティノが脱走した事を知ったセコンドは、これまでの事が脱走したティノによって導かれた事に気付き、気を失う程ティノへの怒りが沸き上がったのだった。
「何だか上手く行ったな……」
当の本人のティノは、理想的な結末になったことに満足して、取り敢えず敗戦で落ち込んでいるだろう、マルコのいるルディチ王国に戻ってみることにした。