第185話 拘束
「こんちは」
ティノはミョーワに着くと、いつもの酒場に入っていった。
中に入ると、いつものようにセコンドの妹のリリアーナが待ち受けていた。
「えっ!? 何で……?」
ミョーワ共和国はルディチとの同盟を拒否したので、ティノがここに現れることは無いと思っていたリリアーナは、ティノの突然の入店に驚きで固まっていた。
「きょ、今日はどうして……?」
驚きながらも何とか言葉を絞り出して、用件を問い掛けてきた。
「セコンドに会いたいんだけど……無理かな?」
ここに来るのは大体セコンドに用がある時なので、いつも通りセコンドと会う為の繋ぎをして貰うために来たのだ。
リリアーナの命を1度救って、その後の態度などから、自分に好意を寄せていることは分かっているので、悪いとは少しだけ思うが、利用させて貰うことにした。
「一応知らせてみますけど……、会ってくれるかは分からないのですが?」
「良いよ。助かるよ」
「はい! すぐ行ってきますね!」
ティノがルディチ側の人間だと言うことは最初からセコンドに言っていたし、ミョーワが同盟を拒否してからはこれまで会わないでいた。
なのでリリアーナが言うように、ティノがミョーワに侵入している事をセコンドが知って、どう出るかはハッキリ言って分からない。
それでも一応会えれば良いかと思い、リリアーナに頼むことにした。
ティノが笑顔で頼むと、リリアーナは外の店員に任せて、張りきって店から出て行った。
どうやらティノの役に立てることに嬉しかったらしい。
その純粋な態度に、ティノは少々悪い気がしたのだった。
◆◆◆◆◆
「お前、何しに来たんだ?」
リリアーナに呼ばれて来てみれば、本当にティノが酒場に来ていた。
今は副大統領の立場にあるセコンドは、忙しい中時間を作って会いに来たのだった。
それなのにティノは、のんびりチーズなどを摘まみながらカウンターで酒を飲んでいた。
セコンドが来たことで、リリアーナが客を全て帰し、貸し切り状態になっている。
「よう。久々だな……」
セコンドが来たので、ティノは軽い口調で挨拶をした。
「取り敢えず座れよ」
ティノはそう言って、自分の隣の席を叩いて座るように促した。
「さっさと用件を言え!」
セコンドは隣に座ると、早く話を済ませようと用件言うように催促した。
その言葉は少し敵意が感じられる。
「そうだな……。お前忙しいもんな……」
敵意を向けて来るのは当然なのが分かっていて、ティノは変わらず軽い口調で、態とずれた事を言った。
敵地に単身忍び込んでいるティノを、本来ならすぐにでも捕まえて牢屋にぶち込むなりするところだが、セコンドは話を聞いてくれるようである。
「ずれた事言っていないで早くしろ!」
「分かったよ。俺はただ帝国皇帝次男であるサウルの首をあげようかと思って来たんだよ……」
余裕をかますティノの態度が気に入らないのか、セコンドは眉をしかめて用件を求めた。
空気を和ませようとしたのだが、どうやらセコンドには無意味だったようである。
なので、ティノもストレートに用件を言った。
「…………テメエ! 帝国をここに誘き寄せるつもりか!?」
初めて会ったときもそうだが、今この国にそんなもの持って来られても迷惑でしかない。
ミョーワとハンソーが同盟を組んだのは帝国に対抗するためだが、今は領地拡大に兵が分散しているので、帝国に攻め込まれると、とんでもなく面倒である。
これまでの付き合いから、化け物なティノであればそんなことは分かっているはずである。
それなのにそんなものを持ってきたのは、明らかに帝国と潰し合わせる為でしかない。
ティノとセコンドの間の雰囲気が険悪になったことで、リリアーナは顔を青くしている。
「あぁ、その通りだ。本当はお前に知らせるか迷ったんだが、これまでの付き合いから教えておいてやろうと思ってな……」
席から立ち上がり、腰に差していた剣を抜く構えに入ったセコンドに対して、ティノは悪びれる事無く告げた。
「……そうか。じゃあ、サウルの首を取ったのルディチ側の策略だと言う証明に、お前を拘束させて貰う!」
“ピー!”
腰の剣を抜いてティノに向けると、セコンドは首から紐でぶら下げていた笛を吹いた。
“ダッ、ダッ、ダッ……”
笛の音が聞こえたのか、鎧に身を固めた武器を持った兵達が店に雪崩れ込んで来て、ティノを囲んで武器を構えた。
「……これは?」
「俺もお前との付き合いからどんな用件か聞いてやるつもりだったが、その用じゃ仕方ないな……」
ティノがこの状況を問いかけると、セコンドは冷静に答えを返してきた。
「命までは取らないでいてやる。大人しく捕まれ!」
「ちょっと!! お兄ちゃん!!」
この状況に慌てふためいていたリリアーナは、セコンドの行為に避難めいた声をあげた。
「お前は黙っていろ! こいつはもう敵国の人間だ。しかも放っておいたらこの国も危うい」
「でも……」
「お前も気付け! こいつはお前の気持ちを分かっていてお前を利用しているんだぞ! 俺を呼びつける道具位にしか思っていないはずだ!」
「………………」
セコンドの言葉に、リリアーナは俯いて黙ってしまった。
「……そんな風には思っていないが、まあ、利用した感じになってしまっているのは事実だな」
座ったまま囲まれた状態で、セコンドの図星の言葉に言い訳しつつ呟いた。
「確かに君はこれ以上俺に関わらないようにするべきだろうね」
「これ以上も何も、お前はすぐに帝国に引き渡す。この国はお前を殺さないが、帝国ならどうか分からないがな……」
そう言ってセコンドが手で合図を出すと、兵達が魔法封じの腕輪をティノにつけ、縛り上げていった。
ティノは黙って捕まり、大人しく牢屋に入ることになった。