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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
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第179話 神獣

「そんな…………」


 味方もろとも吹き飛ばすセルジュの策によって、ルディチ軍の兵は大量の死傷者がでる被害を受けた。

 その光景を、マルコは苦悶の表情で見つめていた。


「僕が撤退の決断を躊躇ったせいで……」


 自国の兵が大量に殺られた事に、マルコは自身のせいだと感じていた。

 もう少し早く撤退の指示を出していればと、思わずにはいられなかったのである。


「いいえ、マルコ様。指示を出していた所で今の攻撃は受けていたと思われます。それよりも撤退の指示を出しましょう」


 自分を攻めるマルコを見かねて、ベルナルドはマルコに声をかけた。

 それに今は撤退に移らなければ、今以上の人間が帝国兵に殺される可能性が高い。


「……うん。分かった」


 ベルナルドの言う通り、今は反省する時間すら惜しい。

 マルコはすぐに気持ちを切り替えて撤退の指示を出すことにした。


「ワォーーーン!!!」


 マルコが苦し気な表情で撤退の指示を出そうとした時、マルコの足下の子狼が突如雄叫びを上げた。


「……お前も逃げた方が良いぞ?」


「ハッ、ハッ、ハッ………」


 ここにいては巻き添えを食らってしまう。

 命を助けたとは言え、異様に自分になつく子狼の頭を撫でて、マルコは注意をしてあげた。

 子狼の方は撫でられて嬉しいのか、マルコの足に顔を擦り付けている。


「さてと……」


“ゾクッ!!”


 マルコが撤退の指示を出そうとした時、戦場にいる人間全てに悪寒が走った。


「…………何だ!? 今の感覚は!?」


 マルコやベルナルド、そしてロメオに戦場で戦う兵達も、何故か分からない感覚に辺りをキョロキョロと見渡していた。

 それはセルジュのいる帝国陣営も同じで、理解できない感覚に、冷たい汗が背中に流れていた。


“ズン!”


“ズズズン!!”


“ズズズズズン!!!”


 遠くの方からこの戦場に向かって、地響きのような震動が近付いて来ていて、どんどん大きくなってきた。


“ズドン!!”











「……………………フェ、フェンリル?」


 震動が一気に近付き、戦場にいた全員が一瞬浮くような衝撃と共に、戦場に陰が落ちたかと思って見上げたら、そこには青白い毛並みをした巨大な狼が両軍を見下ろしていた。

 思わずマルコが口に出してしまったように、何故だか分からないがその特徴から、神獣とも言われるフェンリルが現れたのだった。


「……………何で?」


「……………どうして?」


 両軍の兵士達も手を止め、突如現れたフェンリルの事が信じられないように呟いていた。

 戦場を見下ろすフェンリルの目に、誰しもが戦闘中だと言うことを忘れ、固まって動けないでいた。


「キャン! キャン!」


 誰もが固まり動けない中、マルコの足下の子狼が尻尾を振りながらフェンリルに吠えた。


「…………グルッ!」


 フェンリルが吠えた子狼を見つめると、次にその隣に立っているマルコの事を見つめた。


「キャン! キャン! ハッ、ハッ、ハッ………」


 フェンリルがマルコを見つめていると、子狼がまた吠え、マルコの足に体を擦り付けた。


「……………グルッ!」


 それを見た後、フェンリルは顔を帝国の陣営の方に移し、セルジュの顔を見つめた。


「……何だ? 何故俺を見ている?」


 セルジュは背中に大量の汗を流しつつ、何故フェンリルが自分を見ているのか分からなかった。

 この土地にフェンリルが住んでるかもしれないと言うことは、部下から上がって来た情報から分かっていたが、まさか人里近いこの場所に現れるとは思ってもいなかった。


「………………グルルッ!」


「な、何だ?」


 フェンリルが顔だけでなく、帝国陣営に体を向けた。

 その表情はじわじわと殺気がこもった表情に変化していき、帝国兵だけでなくセルジュも気圧され後退りし始めた。


「………お前ら奴を仕止めろ! 褒美は好きなだけやるぞ!」


 フェンリルが放つ殺気に耐えられなくなったセルジュは、固まって震えている帝国兵達に命令を出した。


「何をしている!? 奴などでかいだけの狼でしかないわ! 固まってないで殺れ!」


 セルジュが命令を出しても兵達は動けないでいた。

 なのでセルジュは褒美と言う名の餌をちらつかせ、フェンリルの打倒を指示する。


「「「「「……う、うおーー!!」」」」」


 褒美の言葉を聞いた兵士達の一部が、武器を構えてフェンリルに向かって行った。


「「「「「ハー!!」」」」」


 魔導師部隊の連中も、フェンリルに向かって魔法を放ち始めた。


「ガーーー!!!」


 帝国の兵や魔法が迫ってくるのをじっと見ていたフェンリルは、大きな声と共に莫大な魔力を解き放った。


“ズドーーーーーン!!!!!”


「!!?」


 成りゆきを黙って見ていたマルコ達ルディチ軍は、フェンリルの攻撃によって大爆発がおき、その爆風に体を飛ばされまいと必死になって伏せて地面にしがみついた。


「………………………何て威力だよ」


 爆風がやや治まり、マルコが顔を上げて爆発が起きた方向を見ると、巨大なクレーターが出来ていて、帝国の兵達は跡形もなく消し飛んでいた。


「…………そ、そんな………」


 爆風に数メートル飛ばされ助かったセルジュは、フェンリルの桁違いの実力に言葉が出なくなっていた。

 近場にいた魔導師部隊は、同じく爆風に飛ばされたが、セルジュとは違い落下の衝撃でほとんどが気を失っていた。


「………グルッ!」


 フェンリルは、そんなセルジュにまた目を向け、ゆっくり近づいていった。


「……く、来るな! 来るな化け物!」


 セルジュは今度こそ殺されると感じ、恐ろしさから腰を抜かしたような体制になりながらフェンリルに魔法を放ち始めた。


「…………フン!」


“スパン!!”


 フェンリルはセルジュが放った魔法を鼻で笑うように躱し、魔法で風の刃を飛ばしてセルジュの首を刈り落とした。

 そしてセルジュを殺したフェンリルは、今度はマルコ達の方に向かってゆっくり歩き出したのだった。


恐らくバレていたと思いますが、フェンリル使っちゃいました。自分でも長くなりすぎているとは思っていたので、そろそろティノを出したいと思っています。

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