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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
178/260

第178話 敗北

「ほ~お、ルディチの王は転移が使えたか?」


 自分の部下である、副将軍のサンソーネとエリージョを殺した敵の隊長格を仕留める為に放った魔法の集中砲火によって、まさかルディチの王が助けに出てくるとは思ってもいなかった。

 その愚かな行動に、他の2人と共に消してしまおうと思ったのだが、予定外である。


「まあいい、奴隷開放でも魔力を使っていたし、ライモンドと共に切り刻んだ奴も助けに行っていたようだし、流石に魔力も底に来ているだろう」


 望遠の魔道具によって、ルディチ王の情報は逐一知らせるように部下に言ってある。

 突如何処かに動いたと思ったら、ライモンドと共に飛ばした男を担いで戻って来たのを知らされている。

 あの状況の人間を救いに行ったのだ、かなりの速度で移動しなければ助けられなかっただろう。

 担いできた男が生きているのかどうかは分からないが、相当な魔力を使って速度を上げたに違いない。

 その上、魔法の集中砲火を抑えるために強固な魔法障壁を張り、転移まで使うなどしたら、どんなに魔力がある人間だうとも、もう魔力は残っていないだろう。


「こちらの戦力も落ちたが、奴等もこれ以上の戦力は出てこないだろう」


 仕留め損なったが、敵の隊長格2人の手と足を使えなくしたのだから、こちら同様戦力ダウンは免れない。


「数も有利だし、こちらには魔導師部隊がまだまだ使える。ここらで一気に潰しにかかるか……」


 セルジュが言ったように、戦場ではまたルディチ軍がじわじわと押され始めていた。



◆◆◆◆◆


「ヤバイ! また押されて来た」


 ルディチ陣営は、奴隷開放の為に魔導師達の魔力を使ってしまい、彼等はまだ魔力が回復していない為使えない。

 兵の数でも負けているのに、魔導師部隊が使えず、戦闘力の高いベルナルドとヤコボも手と足をやられ前線に出すわけには行かない。

 完全に万策尽きた感じである。


「こうなったら……」


「自分が行くとかぬかすなよ?」


 戦況を見て自分が動こうとしたマルコを、見透かしたロメオが言葉遣いを気にする事無く制止した。


「でも、ロメオ!」


「お前も魔力が底に来てんだろ? そもそもお前は王の癖に動きすぎだ。さっきだってぎりぎりだっただろ?」


 ロメオの制止に反論しようとしたマルコに対して、ロメオは続けて正論を投げ掛けた。

 深い付き合いなのだから、マルコの性格は理解しているつもりだ。

 マルコには、仲間がやられるのは嫌なくせに、自分が傷付くのは何とも思わない部分がある。

 今もその悪い癖が出てきているのだろう。


「そうだけど……、でもこのままじゃ……」


「俺がまた出るよ。そうすりゃ、ちっとは時間が稼げるだろ?」


 ロメオは感情的になり、突っ走った所をサンソーネと魔導師達の魔法で痛めつけられた。

 しかしその傷もポーションで回復したので、体の方は元に戻っている。


「ダメだ!」


「!? なんでですか? ベルナルドさん」


 マルコの代わりに出撃しようとしたロメオを、今度は無くなった手の傷を直していたベルナルドが制止した。

 止められる理由が分からず、ロメオはベルナルドに理由を尋ねた。


「このままでは我々がそのうち押し込まれる。ここまで来たら逃走の事も考えるべき状況だ。逃走時マルコ様の護衛はお前の仕事だろ?」


「逃げる? そうならないように俺が出れば……」


「出ても同じだ! 魔導師達の魔力が回復するまで持たせられる訳がない。それよりも逃走し、魔導師達の魔力が回復した状態で戦うんだ。そうすれば勝てる可能性がある」


 この戦いはルディチ側の負けは確実、しかし次勝つ為に取れる手段は、逃走しての軍の再編しかない。


「マルコ様! ルディチ王国軍団長の地位により申し上げます。兵に逃走の命令を出して下さい。ダイシンの町に戻り再起を図りましょう!」


 マルコの前に片膝をついて頭を下げながら、ベルナルドは進言した。


「しかし………」


 ベルナルドの言うことも分かるが、この戦いで多くの兵が命を落としている。

 逃走などしたらその命が無駄になってしまうように思え、マルコは逃走の指示に躊躇いがあった。


「!!?」「!!?」「!!?」


 マルコが躊躇ったその時、帝国の攻撃が戦場に降り注いだ。

 マルコ、ロメオ、ベルナルドの3人は、その事で視線を戦場に戻さなければならなくなった。



◆◆◆◆◆


「いや、しかしそれでは……」


「構わん。奴等に逃げられる訳にはいかん。我々もここまでやられたのだ。逃げられたら手ぶらで帰ることになるんだぞ!」


 数の有利でじわじわと押しているが、このままでは敵は逃走しかねない。

 逃走されたら、深追いは出来ない。

 そうなったらこちらも兵の補充に停滞せざるをえない。

 逃走後の相手の体制次第によっては、数を揃えるためこのまま帝国領に戻らなくてはならなくなる。


「…………分かりました。ご命令通りいたします」


 手ぶらで帰ることになれば、セルジュの評価はがた落ちになる。

 ただでさえ、元々皇帝の指示に無かったルディチ王国の襲撃を勝手にしたのだ。

 それなのに逃げられましたでは話にならない。

 勝つためにはセルジュの指示に従うしか無く、魔導師部隊の隊長は仕方なく命令を実行することに頷いたのだった。


「よし。やれ!」


「「「「「ハーーー!!!」」」」」


 セルジュの合図によって、帝国軍の魔導師部隊は戦場に向かって魔法を放った。


“ズドドドドト……………!!!!!”


 魔導師達が放った魔法が雨のように戦場に降り注ぎ、多くの兵が直撃を食らい、見るも無惨な状態で命を落としていった。

 しかもその魔法の雨はルディチ軍のみならず、最前線の帝国兵もろとも葬り去ったのだった。

 魔導師部隊の隊長が躊躇ったのもそれゆえである。

 帝国が非道の集団とは言え、兵同士の絆は厚い方である。

 それを、味方が巻き添えになろうとも構わんと言い放つセルジュに、恐れを感じていた。


「ハハハハハ…………!! これで相手の兵は残り僅かだ。全軍、駆逐せよ!」


「「「「「……ハッ!!」」」」」


 味方まで殺させておきながら笑うセルジュに、一瞬固まりながらも帝国の全軍は指示に従い、ルディチ軍の残党の駆逐に突き進んだ。

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