第177話 集中砲火
「何とか上手くいったな……」
転がったサンソーネの首を見て、ベルナルドは一息ついた。
「お前防戦一方だったな?」
「うるさいよ!」
そんなベルナルドに、ヤコボは軽い突っ込みを入れた。
確かにサンソーネに接近戦に持ち込まれ、守備に回るしかなかった為仕方ないのである。
自分でも分かっていた事なので、ベルナルドは痛いところを突かれたと思っていた。
「!!? 避けろ! ヤコボ!」
“ヒュン!”
「!!? ガッ!?」
突如光線が飛来し、ヤコボの左足の太股から下が千切れ飛んだ。
ベルナルドの声によって反応した為片足だけで済んだが、それがなかったら体が真っ二つになっているところだった。
「チッ! またあの野郎か?」
ベルナルドは、光線が飛んできた方角を見て愚痴をこぼした。
そこには、セルジュが丘の上からベルナルド達の事を見下ろしていた。
戦争が始まってから、悉くやられる将軍格達の不甲斐なさに、腹立たしさで怒りに満ちていた。
「ぐうっ……」
「大丈夫か? ヤコボ!」
ベルナルドは、片足を失い呻き声をあげるヤコボに近付いていった。
そして傷口にポーションをかけて止血をした。
「ここにいたら魔法の的になる。自陣に戻るぞ!」
そう言って、ベルナルドは肩を貸してヤコボを立たせ、背中に背負った。
◆◆◆◆◆
「使えない奴等だ。もういい、ここからは俺が直々に指示を出す」
その状況を丘から見ていたセルジュは、そう言って魔導師部隊に手で合図を送った。
「魔導師部隊、打てー!!」
それを合図に、魔導師部隊がベルナルドとヤコボ目掛けて魔法の集中砲火をおこなった。
◆◆◆◆◆
「ぐっ!? くそっ!」
ロメオの時同様降り注ぐ様々な魔法に、ベルナルドはヤコボを背負いながらも必死に躱していた。
「……ベルナルド、俺を置いて……逃げろ!」
「んなこと出来るわけ無いだろ!」
背負われているヤコボは、このままでは共倒れになると感じ、自分を捨ておくように指示を出した。
しかしベルナルドからしたら、仲間を見捨てて生き残る事の方が出来ない為、ヤコボを背負ったまま避け続けた。
「……このままじゃ、2人とも……殺られるぞ!?」
「いいから黙ってろ!」
サンソーネとエリージョと戦う為、仲間を巻き込まないように戦場から離れた場所に来ている為、前線まで距離はまだ少しある。
しかし降り注ぐ魔法は、躱すのがどんどん厳しくなって来ていた。
「!!?」
“ドンッ!!”
「ぐっ!?」
背後から飛んできた火弾を躱し切れず、ベルナルドの左手を吹き飛ばした。
左手の手首から先を失っても、ベルナルドは自陣に向けて走り続けた。
“ドンッ!!”
「おわっ……!!」
しかし、魔法が足下のすぐ側に着弾し、ベルナルドはバランスを崩し、ヤコボを背負ったまま前のめりに倒れた。
「くそっ! 早く立たないと……」
そう言って振り返ると、ベルナルド目掛けて様々な魔法が目の前まで迫ってきていた。
「くっ!!」
躱せないと悟ったベルナルドは、ヤコボだけは守ろうと咄嗟に必死になって覆い被さった。
“ドドドドドンッ!!”
「……………?」
目を閉じて魔法が来るのを覚悟したベルナルドだったが、音は有っても一向に衝撃が来なかった。
目を開けて音のなる方を見てみると、そこには魔法障壁を張って、降り注ぐ魔法からベルナルドを庇う存在がいた。
「ベルナルド! 早く立て!」
「!!? マルコ様!?」
「いいから黙ってヤコボと共に僕に触れろ!!」
まさかこんな危険な場所に、王自ら自分達を救いに来てくれるとは思わなかったベルナルドは、驚きで目を見開いた。
しかし、マルコ自身降り注ぐ魔法を防ぐのに精一杯で、問答している暇はない。
マルコは、捲し立てるようにベルナルドに指示を出した。
「わ、分かりました!」
ベルナルドは慌てながらも、マルコの指示通りヤコボと共にマルコの背に手を触れた。
「くっ! 転移!」
魔法障壁も限界に近付き、ベルナルド達の手が触れたことを感じた瞬間、マルコは自陣に向かって転移をした。
「ふ~……、何とか間に合った……」
転移によって無事自陣に戻ったマルコは、大きく息を吐き出した。
魔法障壁の耐久がぎりぎりだった為、一歩間違えれば障壁が崩れて死んでいる所であった。
「…………な、何をなさっているのですか!? 以前も注意したではありませんか!! 王自ら危険な場所に出向くなどお止めくださいと!!」
「ごめん、ごめん。でも助かったんだから良いじゃない。2人ほどの戦力は失う訳にはいかないからね」
自陣に戻り、事の重大さに気付いたベルナルドは、驚きで自身の立場を忘れてマルコに説教を始めた。
だが、マルコはその事を気にしないような感じで、軽い口調でベルナルドに謝っていた。
「すんません、ベルナルドさん。また止める間もなく行ってしまったので……」
ベルナルドの説教が自分に向かう前に、ロメオは謝っておく事にした。
ロメオが言ったように、2人のピンチを悟ったマルコが、ロメオが反応するより早く転移してしまったのである。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「………………」
まだ説教を続けようと思っていたベルナルドだが、マルコの軽い態度と、子狼のほんわかした空気に、何となく力が抜けて座り込んだのだった。