第176話 コンビネーション
ルディチ軍の後退を止める為に出撃したベルナルドに対し、サンソーネが向かい合う。
そして、サンソーネと共にベルナルド殺害に出てきたエリージョに対し、ヤコボが対面した。
「……そう言えば、さっきはロメオが世話になったようだな?」
長剣を構えサンソーネに向き合うベルナルドは、数時間前にロメオがこの男に世話になった事を思い出した。
「……あぁ、あの少年ですか?」
サンソーネは、名前を聞いていなかったのでピンと来ないでいたが、さっき相手にしたと言われて思い出した。
「ライモンド将軍を倒した人間といい、あのような将来楽しみな少年がいるなんて、ルディチは面白い人材が多いですね?」
「そいつはどうも……」
長剣と槍を向け合い、お互い間合いを測りながら話す。
「あなたもただ者では無いようですし…………ね!!」
サンソーネは、最後の言葉と共にベルナルドとの距離を一気に詰めた。
槍と長剣、どちらも長い相手と少し離れて戦うのに有利な武器であるが、近距離で戦うときにおいてその長さは短所に繋がる。
しかし同じ長所であるが、槍と長剣は形が違う。
「ハッ! タッ!」
「くっ!」
ベルナルドの懐に入り、槍の柄の真ん中を持ち、短くなった刃の左半分と柄の右半分を使って連続攻撃を放ってきた。
ベルナルドは長剣を使い刃の部分の攻撃を防ぎ、柄の攻撃を躱したり、手に着けているバックルで弾いたりして直撃を防いだ。
「逃がしませんよ!」
近距離では分が悪いとベルナルドが距離を取ろうとするが、ピッタリと張り付くように追いかけてきた。
「クソッ! 面倒な奴だな……」
ベルナルドは、どこまでも追いかけてくるサンソーネに思わず愚痴るのだった。
◆◆◆◆◆
「ハッ!」「ダリャ!」
お互い短刀を主武器として戦うヤコボとエリージョの2人は、お互い距離が離れれば魔法を放ち、近付いたら短刀と拳打で応戦していた。
「チッ! 面倒な奴だな!」
「それはお互い様だ!」
戦いながら、お互いがお互いの実力に焦りを感じていた。
「早くお前を倒さないとサンソーネに先を越されてしまうだろ!」
高速で移動をしながら、エリージョは掌大の火の玉をヤコボに放つ。
「だからお互い様だっての!」
ヤコボはエリージョの反対に、掌大の水の玉を放ち相殺する。
エリージョの話しぶりから、ベルナルドがターゲットになっているらしい。
自分を倒して、今ベルナルドと戦っているサンソーネとか言う男より先に、ベルナルドを倒したいのだろう。
ヤコボとしてもエリージョを倒して、押され気味のベルナルドの援護に向かいたいところである。
だが戦闘タイプが同じなせいか、相手の攻撃が読め、決定的な一撃が与えられないでいた。
「ハッ! ハッ!」
「おっと……」
しばらく攻撃を繰り出し合いまた距離が離れた時、エリージョは連続で火の玉を放ってきた。
しかし距離があった為、これまでと同じように相殺するのではなく、今回ヤコボは躱す事で対応した。
「!!? 危ないですよエリージョ!」
「すまん!」
エリージョの放った火の玉の1つが、ベルナルドと戦うサンソーネの側に着弾した。
地面に落ちた火の玉の爆発で舞い上がった土が、サンソーネに降りかかった。
その事に、サンソーネはベルナルドを攻め立てながら文句を言った。
『…………そうか!』
このやり取りを見て、ヤコボはある考えに至った。
「…………!」
そしてその事にベルナルドも気付いたか目を見ると、サンソーネの攻撃を躱しながら僅かな隙を見つけて、ヤコボに頷きを返した。
「良し!」
そうしてヤコボは、またエリージョと戦闘を開始した。
「……チッ! お前さっきと同じことをするとでも思っているのか?」
「……ハハ、もうばれたか?」
攻撃を放ち合いながら、ヤコボは常にベルナルドと戦うサンソーネを背後に置くように戦っていた。
しかしその事はエリージョにあっさりばれて、エリージョは魔法を放つ事を抑えていた。
「そんな小細工してないで、さっさとくたばれや!」
魔法をある意味抑えられたエリージョは、ヤコボに近付き近接戦闘を挑んできた。
「くっ!」
これまでの攻撃より力のこもった短刀による横薙ぎの一撃に、ヤコボは短刀で防ぐも弾かれ、サンソーネを背後に置く作戦を出来なくなってしまった。
「これで魔法が放てるな!」
ヤコボの背後には誰もいなくなったので、エリージョはまた火の玉をヤコボに放ち始めた。
「おっと! 折角の作戦を……」
「ふんっ! 同士討ちを狙うなど浅はかな策が通じるとでも思ったのか?」
火の玉を躱しながら、ヤコボは策が潰された事に愚痴った。
「だったらこっちも!」
そう言って、ヤコボはエリージョに向かって幾つもの水の玉を放ち始めた。
「そんな攻撃が……」
エリージョは、飛んできた水の玉を余裕の口調で躱した。
「しまった!? サンソーネ! 避けろ!」
ヤコボが放った水の玉の数発が、エリージョに向かわずサンソーネに向かって行っている事に気付き、エリージョは少し離れているサンソーネに、大声で注意を促した。
「なっ!!?」
エリージョの声に反応し、サンソーネはギリギリで横から飛んできた水の玉を躱す事に成功した。
「やっと離れたな?」
「!!?」
水の玉を躱した事で、サンソーネはベルナルドから離れてしまった。
その瞬間を待っていたベルナルドは、長剣に多目の魔力を纏った。
「ハーー!!」
その長剣を上段から降り下ろし、魔力の斬撃をサンソーネに向かって飛ばした。
「ぐっ!?」
サンソーネはその斬撃を懸命に躱そうとした。
「ふう~! 危ない所でした……」
「フッ!」
ベルナルドの斬撃を辛うじて躱したサンソーネは、頬を僅かに切られただけで済んだことで一息ついたのだった。
だが、そんなサンソーネを見て、ベルナルドは笑みを浮かべた。
「ぐあ!!?」
「!!? まさか!?」
自分の背後の方で悲鳴が聞こえたので、サンソーネは振り返った。
そこには、サンソーネが水の玉の躱した事でヤコボに目を戻した為、ベルナルドの斬撃が飛んできた事に気付かなかったエリージョが、直撃を食らい体が斜めに2つに別れて絶命していた。
「エリージョ!! これを狙って……」
エリージョの姿を見て、ベルナルドに振り返り言葉を放とうとしたサンソーネだったが、最後まで言うことが出来ずに体から首が転がり落ちた。
「よそ見はいけないね」
エリージョの相手をしていたヤコボが、サンソーネの背後から短刀を一閃して首を切り落としたのだった。