第175話 2対2
朝から始まった帝国軍との戦いは、昼が過ぎた辺りでとうとう数と魔法の援護による差が出始めていた。
「まずい……、数の差が出始めて来たか……」
敵に押され、ルディチ軍の前線が下がってきていた。
このまま後退し続ければ、一気に敗北に向かって行ってしまう。
「……ロメオ、マルコ様の護衛を頼んだぞ!」
そう言って、ベルナルドはマルコの側から離れ、戦場に向かって歩き出した。
「ベルナルド……」「ベルナルドさん……」
ルディチ軍の軍団長にあたるベルナルドが、自ら兵を率いて前線を押し戻しに向かうつもりのようである。
ルディチの軍では、現在ベルナルドが最後の頼みである。
マルコとロメオもそれが分かっているので、ベルナルドを止める事は出来なかった。
いくらマルコが強いと言っても、この数相手に戦って勝てるとは思っていない。
その前に王であるマルコが殺られれば、ルディチ側の敗北である。
「……頼んだよ。ベルナルド!」
「お任せ下さい、マルコ様。全力で前線を押し戻して来ます」
マルコに見送られ、ベルナルドは兵連れて前線に向かって行った。
◆◆◆◆◆
「セルジュ様、我々の情報だと、敵方の軍団長が自陣から出たそうです」
セルジュの前に、片膝をついた副将軍のサンソーネが説明に現れた。
その隣にはもう一人、小柄の青年がサンソーネ同様片膝をついている。
望遠の魔道具によって、敵軍を監視させておいた斥候から入った情報である。
「……どう致しますか?」
敵の軍団長の実力は分からないが、相当な実力があるのは分かる。
あれほどの実力を持っていたライモンドを、倒した男がいるような国だ。
その男もいなくなった今、ルディチなどという小国に強力な戦士がまだいるとは思いたくないが、副将軍にまで上り詰めたサンソーネに一撃当てた若者もいた。
勝利は揺るがないとは思うが、時間をかけて敵の戦意を取り戻されては面倒な事になりそうだ。
「サンソーネ、エリージョ、お前ら2人でその敵を潰してこい!」
「!!? ………なるほど敵の最後の頼みである軍団長を早々に倒せば、このまま一気に勝利を得られるという事でありますね?」
これまで黙っていたエリージョは、セルジュの考えに思い至り、2人で行く事の真意を問いかけた。
「そうだ。こんな小国にライモンドが殺られるとは思わなかったが、我が儘で戦った挙げ句、負けて敵軍に勢いをつけさせるなど死んで当然だ。お前らはしっかりと仕事をしろよ」
「「ハッ!」」
2人からしたら、「ライモンドを殺ったのはあんただろ!」と言いたいところだが、小国を相手に1日を使う事になりそうなので、不機嫌になってきているセルジュには口が裂けても言えるわけがない。
内心は兎も角、2人は素直に返事を返してセルジュの前から立ち去って行った。
「ライモンドがいなくなった今、次の将軍は俺かお前だな?」
セルジュの下から少し離れた事で、エリージョはサンソーネに対して不意に言葉を投げ掛けた。
ライモンドがいなくなり、この戦いの後に次の将軍を決めなければならない。
それを決めるのはセルジュだが、将軍の次の地位にある副将軍は、サンソーネとエリージョの2人しかいない。
敵の王の首を誰が取るかは分からないが、セルジュの指示通り敵の軍団長を倒せば、王は兵を率いて逃走するだろう。
そうなると、この戦いでの一番首は、2人がセルジュに指示された軍団長になる確率が高い。
「そうですね……」
サンソーネはエリージョの言いたいことを理解した。
何故ならサンソーネ自身、同じような事を考えていたからだ。
お互い、相手の実力は理解している。
2人の実力的には差がないように思われる。
「早い者勝ちとは言え、足の引っ張り合いは止めましょうね?」
サンソーネは、エリージョの性格は理解している。
昔いた将軍のオルランドのような、帝国でもトップレベルのクズとは違い、指示には正確に従うタイプの人間であると分かっている。
分かっているが、サンソーネは念のためエリージョに釘を刺した。
「分かっている。どっちが殺っても恨みっこ無しだ」
「そうですね。では用意、ドン!!」
サンソーネの合図と共に、2人は同時にベルナルドに向かって飛び出して行った。
◆◆◆◆◆
「ハァー!」
両刃の長剣を振り回し、ベルナルドがバッサ、バッサと敵兵を斬り倒していった。
ベルナルドが前線に加わると、その戦闘力によってどうにか後退を止める事に成功していた。
しかし、後退を止める事は出来たが押し返すまでには至っていない。
「中々厳しいな……」
敵を斬りながら、敵の数の多さに愚痴がこぼれてくる。
「ハッ!」
「!!?」
少し前ロメオとぶつかっていた男が、ベルナルドに槍による突きを放ってきた。
それに気付いたベルナルドは、長剣によってその突きを受け止める事に成功した。
「隙有り!」
「くっ!?」
ベルナルドがサンソーネの突きを受け止めた直後、サンソーネの背後から小柄の青年が短刀による攻撃を放ってきた。
サンソーネの槍を止めているので、その攻撃を受ける事も避ける事も出来ず、すぐ目の前までその攻撃が迫ってきた。
「ベルナルド!」
エリージョの攻撃を躱せないでいるベルナルドの代わりに、ヤコボがエリージョの短刀を、同じく短刀で受け止めたのだった。
「ベルナルド! そいつはお前が殺れ! こいつは俺が殺る!」
「助かったぜ! 頼んだぜ、ヤコボ!」
このような言葉を交わして、お互い目の前の相手に集中するのだった。