第173話 間一髪
「何やってんだ!」
命からがら逃げてきて、折れた腕を直す為にポーションを飲むロメオに、ベルナルドは先走ったことを注意をした。
「ベルナルドさんは何で冷静なんだよ!? おっさんが殺られたんだぞ!」
ロメオはその注意を受けて、ベルナルドの態度が気に入らなかったのか、当たり散らしたような声をぶつけた。
「冷静な訳ないだろ!!」
「!!?」
しかしその言葉に、今度はベルナルドの方が怒りを露にした。
その態度に、ロメオは驚きで次の言葉を失った。
「あの人とは昔からの知り合いだ、勿論心配はしている。だが今マルコ様が救出に向かった。可能性は低いが今はマルコ様が戻るのを待つしかない。」
眉間にシワを寄せ苦汁の表情をしながら、ベルナルドはロメオに話しかけた。
ベルナルドが言ったように、ブルーノが竜巻に飛ばされたのを見たマルコは、ベルナルドに一旦戦場を任せ、全速力で救出に向かった。
今のルディチ王国に、ブルーノ程の戦士がいなくなるのは痛恨の痛手だ。
可能性としては低いが、マルコは魔力が減るのも顧みずブルーノが飛んでいった方角に突っ走って行った。
「くそっ! パメラに何て言ったらいいんだ! 生きててくれよブルーノさん!」
ブルーノが飛んでいった方角に走りながら、マルコは妻のパメラが悲しむ顔を想像し、愚痴を呟きながら全力で走っていった。
セルジュが放った竜巻はかなりの威力で、竜巻が通った所は様々な魔物が巻き添えを喰らって切り刻まれて死んでいたり、怪我を負ったりしていた。
それを無視して、マルコはブルーノの事を探した。
「……………ガッ……………」
「!!?」
内心焦りながら突き進むと、僅かな呻き声が聞こえ、その声からマルコはブルーノが生きている事に希望を持ちつつ向かって行った。
「ブルーノさん!!?」
「…………マ……ル………」
呻き声の下へたどり着くと、全身切り刻まれ、右手、右足は無くなり、左足は皮1枚で繋がっているに過ぎない状態で横たわるブルーノを発見した。
「良かった! 間に合った!」
「……………な………ぜ…………」
「しゃべらないで! すぐに血を止めます!」
ブルーノは、戦場を離れた場所にマルコが現れた事に声を出そうとするが、重傷のせいか声を出すことが出来ないでいた。
マルコは流れ出た血の量から危険と感じ、これ以上体力を消耗しないように喋るのを制止した。
魔法の指輪から大量のポーションを取り出し、ブルーノの傷口に振りかけだした。
この世界の再生魔法では、一瞬で再生出来る人間などいないので、辛うじて付いていた左足も、回復の為に諦めてマルコは切り離した。
「…………よし! 取りあえず傷は塞がった」
ポーションをかけまくったお陰か、ブルーノの傷が塞がり僅かだが顔色も良くなったように見えた。
「後は血が足りないから大人しくしていて貰わないと……」
ブルーノはマルコがポーションをかけている間に気を失ったのか、静かに寝息をたてていた。
「欠損は時間をかけて直すしかない。それより生きていたのは幸運だったな……」
手足が無くなり、大量の血液を失いはしたが、どうやら一命は取り留めたようだ。
「ん!?」
ブルーノの回復に気を取られていたせいか、周囲の事が気にならなかったマルコは、ようやく周りを見渡せる余裕が出来た。
「……………!!」
セルジュが放った竜巻に巻き込まれたのだろう。
一匹の子犬が、腹の傷から流れた大量の出血と共に横たわっていた。
「……魔物か? いやしかしただの犬っぽいし……」
マルコは、その子犬が辛うじて生きている状態でいることに目が離せないでいた。
狼型の魔物は多く見てきたつもりだが、見たこともない顔つきをした子犬だったので、どうしようか悩ましかった。
「魔物ならこのまま放っておくべきなのだろうけど……」
従魔にするわけでもないのに、態々魔物を助けるのはあり得ない話である。
「残りはポーション1つ、どうしたものだろう……?」
ブルーノに使いまくった為、マルコは残り1本のポーションの瓶を見つつ、どうするか考えた。
「…………」
「仕方ない……」
段々と光を失って行く子犬の瞳に見つめられ、マルコはポーションを使うことにしたのだった。
ポーション1本では完全に傷が塞がらず、回復魔法も併用して子犬の傷を塞いであげた。
「!!? ハッハッハ……」
傷が塞がった子犬は、血を結構失っているにも関わらず立ち上がってマルコにすり寄った。
「治って良かったな。じゃあ僕はこの人を連れていくからバイバイだ」
気を失っているブルーノを背負い、マルコは子犬に話しかけて自陣に戻り始めた。
「キャン、キャン……」
ブルーノを背負っているとはいえ急いで走るマルコに、助けた子犬が一生懸命追いかけて来た。
「……付いてくると危ないぞ。親の下に帰りな」
マルコは、子犬自身結構血を失っているにも関わらず付いてくることに感心した。
しかしまた巻き込んでしまうの可能性があるので、走りながら子犬に注意するが、懸命に付いてくる子犬には聞こえていないようで、結局ルディチ軍の自陣にまで子犬は付いてきたのだった。




