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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
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第163話 放置

 数日後、ベノの町を得たセルジュは進路を北東に向けた。


「……何だと? セルジュ兄貴が北東に向かい出しただと……」


「はい。そのようです」


 セルジュが北東に向かい出したことダルマツィオから聞いたヴィーゴは、多少の驚きを見せた。

 てっきりリンカン王都を我先にと目指していると思っていたのだが、突然の方向転換に疑問に思った。


「北東と言うことは……、なるほど……」


 だが少し考えたら、あの兄が考え付きそうな事に思い至った。

 セルジュとサウルの兄達は、今回の侵略で多くの領土を獲得して帝国内での、しいては父である皇帝ダヴィドへの株を上げたい所だろう。


「確かに領土拡大のついでに国潰しまでやれば、株は上がるだろうな……」


 セルジュの狙いは、マルコを王とするルディチ王国。

 領土を拡大するのと同時に、国潰しをすることを思い付いたのだろう。

 その事にヴィーゴはすぐに気付いた。


「浅はかだな……、小国だと思って舐めてるんだろう……」


「えぇ、それにセルジュ様にはライモンドが付いています。油断するのも仕方ないかと……」


 ライモンドの実力をよく知るダルマツィオは、セルジュの油断をそう分析した。


「……ライモンドか。確か2勝2敗だったか?」


「……はい。まだ決着がついてません」


 帝国内で槍の名手として知られるのは、ライモンドとダルマツィオである。

 帝国内での武道大会において、常にこの2人が優勝争いを繰り広げており、その実力はまさに五分五分と言ったところである。

 去年の戦いではダルマツィオはライモンドに敗れており、今年は雪辱を果す為に、ダルマツィオは訓練に余念がない。


「……五分とは言っても、所詮は魔法が無しの戦いだ。部下に持つならお前の方が心強いと思うぞ……」


 ライモンドとの去年の戦いを思い出したのか、ダルマツィオは苦い顔をしたのを見て、ヴィーゴは慰めにも近い言葉をかけた。


「去年は完全に自分の負けです。言い訳はしません」


 毎年行われる帝国内での兵士達による武術大会、それは屋外にて行われる戦いの為か、天候による影響も少なからず受ける。

 去年の決勝、ダルマツィオとライモンドが順調に勝利を重ね、ここ数年通り決勝で相見えた2人だった。

 そして毎年のように五分五分の戦いを繰り広げたのだが、天候はライモンドに味方した。

 どしゃ降りの雨により出来た水溜まりに、僅かに足を取られたダルマツィオが、その隙を突いたライモンドの一撃を躱しきれず、受けた攻撃によってダルマツィオは敗北を喫した。

 それを見ていた人間からしたら完全に実力は五分、どちらが勝ってもおかしくない状況だった。

 去年は偶々運がライモンドに味方をしただけで、実力差なんてはっきり言ってない。


「昔から言われているように、運も実力の内です」


 この1年、ダルマツィオは負けたのは運ではなく、実力であると自分に戒めてきた。

 こればかりは、誰が何と言おうと曲げるつもりはない。


「……まぁ、武術大会の事は置いておいて、セルジュ兄貴達の部隊がマルコに勝てるかどうかだな……」


 ヴィーゴはマルコの実力を何となくだが理解している。

 同盟の会談の場所で片鱗だが見たマルコの実力は、恐らくだが自分と同等だと思っている。

 王としての才はまだよく分かっていないが、メリットの無い土地でも手に入れて行っている様子では、甘さがある分自分の方が上に思っている。


「私は直接マルコ王を見ていないので分かりませんが、セルジュ様の部隊はかなりの戦力です。油断によって手こずる事はあると思いますが、負けるとは思いません」


 内心セルジュの部隊が勝とうが負けようが、ダルマツィオからしたらどうでもいい。

 どうでもいいは言い過ぎだが、ライモンドとの決着をつけたいという思いがあるダルマツィオは、ライモンドだけでも生き残ればいいと思っているだけである。


「…………俺はマルコをこの目で見た。だからかもしれないが、セルジュ兄貴が勝つ可能性の方が高い気もするが、マルコは俺が倒したい気持ちの方が強いかもな……」


 ヴィーゴの実力は、魔法と武術を合わせた総合的実力は、ダルマツィオやライモンドより上である。

 ライモンドは確かに強い。

 だが、恐らくマルコには及ばない。

 とは言っても、戦いは数の優劣が物を言うのも事実。

 数のセルジュが勝つか、特出した実力を持つマルコが勝つか、それはヴィーゴでも分からない事ではあるが、生まれて初めてライバルと呼べるマルコと言う人間に期待をしてしまうヴィーゴだった。


「セルジュの兄貴が負けても困るが、勝たれても困る。どちらが困るかと言えば、兄貴が負けても生きている事が1番困るな……」


 ヴィーゴが皇帝になった時、セルジュとサウルは邪魔な存在である。

 かといって、一応血の繋がった兄である事には変わりはない。

 自分で手を下すのは気が引けるが、誰かの手によって消される分には全く興味はない。

 どうせならこの機にマルコに勝って貰いたい気持ちが強い。


「まぁ、成り行きを待つしかないか……」


 こればかりは結果を待つしかない。

 血の繋がった兄ではあるが、目の上のたんこぶでしかない兄よりも、血の繋がらない生まれて初めてのライバルの方がヴィーゴには重要である。

 この事からマルコが生き残るのを、ヴィーゴはただ待つことになった。



◆◆◆◆◆


「チッ! あの野郎ルディチを狙いをつけたか……」


 ヴィーゴの足止めを強化していたティノだったが、セルジュの行動に考えが及ばなかった。

 いや、むしろそのせいで及ばなかったとも言える。

 いくらティノが永年の人生によって知識を得ようとも、所詮人間を超越しようとも、人間でしかない。

 他人の考えることを全て理解しようなどとは、神の領域である。

 帝国の3人の大将軍の優劣は理解しつつも、心の内を理解するまでには至っていなかった。

 ゆえに、セルジュがこういった行動に出るとは考えていなかった。


「……………まあいい、今のマルコならどうにかするだろう……」


 ティノは、最近マルコを守り過ぎている気がしていた。

 セルジュの部隊とルディチ王国の戦力ではほぼ互角だとティノは思っている。

 マルコがこの大陸を手に入れるつもりでいるなら、ここで滅ぶとしたらそれまでの人間だったのであろう。

 長く生きてきたせいか、育て上げたマルコでさえも負けた時はその時と言う意識がティノを占領する。

 それ故、セルジュの足止めを完全に止めて、ティノはセルジュを好きにさせる事にしたのだった。


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