第160話 光明
「どうなっているんだ! 何故ダイシンまでルディチの傘下に入ったと言うのだ!?」
リンカン国王のシスモンドは、あっという間にルディチに領土を取られている事に苛立っていた。
ハッキリ言って現在の王都からは、ダイシンやナイホソなど遠い町の為それほど興味がないが、2週間もしない内に取られるなどとは思わなかった。
「ナイホソもダイシンもここからは離れた場所です。それ故援助が無いことで我が国を見限ったのでは……」
侯爵のリドルフォは、考えられる答えをシスモンドに告げた。
「しかしながら、ナイホソもダイシンも重要な町と言う訳でもありません。あそこの2つを奪われても、我々には大した事ではありません」
シスモンド自身もルディチの事など眼中になく、2つの町への援助などしなかったにも関わらず、取られてから慌てるなど愚の骨頂である。
しかし、リドルフォの言ったことも事実で、この2つの町はそれほど、この国に必要な町とは言えない。
「それにルディチの事などお気になさらずともよろしいのでは?」
「どう言うことだ? ティノ」
2人の話を離れて聞いていたティノが、間に入るように話しかけた。
「ルディチは確かに早く2つの町を手に入れましたが、あそこで頭打ちです」
「どう言うことだ?」
ティノは、テーブルの上に広げられた地図を指差した。
「こちらを見て頂けると分かるように、ルディチはダイシンから西へは進めません。となると、南のグウジャクを手に入れるしかありません」
「なるほど……」
内心「こいつこれぐらいすぐ分かれよ」と思いながらも、ティノは説明を続けた。
「グウジャクは、ハンソーが近くまで軍を率いて来ていると言う情報があります。まだハンソーと戦う程の力が備わっていないルディチでは、勝ち目がないためグウジャクに向かう事など出来ないでしょう」
「そうか……ならばルディチはやはり無視だな!」
2つの町を手に入れたとは言え、ルディチ王国はまだまだ小国、立て直したばかりのナイホソやダイシンも近場で戦いが起こるのは迷惑だろう。
それに例えハンソーと戦っても、勝てる見込みがとても少ない。
調子が良かったルディチ王国は、これで道が閉ざされた状態になっていた。
『さて……これからどうする? マルコ……』
ティノの説明を受けて納得したシスモンドは、リドルフォと共にルディチ以外の国への対処を相談し始めた。
その話を聞きながら、ティノはマルコがこれからどうするのか心配していたのだった。
◆◆◆◆◆
「ダイシンには少しずつですが人が増えて来ていますね」
マルコ達が帰って1週間後、ルディチ王国の王城の執務室でアドリアーノはマルコに報告をしていた。
ダイシンの森の探索をしたマルコ達は、王都に戻りギルマスのブルーノに話し、ダイシンの西の森の魔物を討伐するクエストを出すように言っておいた。
あそこの魔物は奥地だと危険だが、そこまで行かなければ素材採取やレベルアップに最適な場所になる。
勿論マルコ達が探索した時のように、凶暴な魔物に会う可能性があるが、それは冒険者にしたら当然のリスクである。
そのリスクが分かっていても、あの森には冒険者にとって旨味がある場所である。
「冒険者が来るようになり、商売の匂いを感じた者達も動き出しているようです」
冒険者がダイシンに集まって来ているのは、このトウダイにも知られてきている。
鼻のきく商人も動き出したようで、ダイシンはますます活気が戻るだろう。
「……しかし、困りましたな」
テーブルの上に広げられた地図を見て、アドリアーノは溜め息をついた。
「現在我が国は八方塞がり、どうしたものですかな……」
地図を眺めながら、アドリアーノは1人事のように呟いた。
「困ったよね……」
地図を見ればすぐ分かること、マルコもここ数日どうしたものかと考えていたのだが、答えが出ないでいるのだった。
「マルコ。一緒にお茶しましょ!」
2人が地図とにらめっこしていると、パメラが室内にお茶の誘いに入ってきた。
「うん。そうだね……」
悩んでても仕方がないので、一息入れようと思ったマルコは、パメラの誘いを受けることにした。
「何を見てるの?」
パメラは2人の深刻そうな様子から、先程まで2人して睨んでいた地図を覗きこんだ。
「あぁ、地図だよ。領土を拡大したいけど西は無理だし、南はハンソーとぶつかるから無理そうだし、どうしようもないなって……」
結構鬱憤が溜まっていたのか、普段はあまりパメラに愚痴を言わないマルコが、思わず愚痴ってしまった。
「ふ~ん、……………ねえ、南西のこっちの方に町ってあった?」
地図を見たパメラは、不意にダイシンの森の南西方向に指を動かした。
「いえ、トヤの西のイチュウの町の北には森が続いているだけで町は無かったかと……」
ハンソーがグウジャクと共に狙っているトヤの町、その西にはイチュウの町があり、北はダイシンと同じく森があるだけである。
「……………いや、お待ちください。確か私が子供の頃に小さな村があったかと……」
地図を見ながら説明をしていたアドリアーノだったが、パメラに示した方角を見ていてその事を思い出したようである。
「しかし、今は魔物によって滅ぼされて無くなっています。パメラ様は良くご存知ですね」
アドリアーノですら小さ過ぎて覚えていなかったのに、昔無くなった村の事など知っていたパメラの知識に、アドリアーノは驚いていた。
「いえ、知っていたのではなくて、先週探索した時にそちらの方角に続く轍のような物があったのを覚えていたのよ」
「えっ? そんなのあったっけ?」
「さあ……」
パメラと一緒に行動していたマルコとロメオは、その事に気付かなかったようで、2人とも首を傾げていた。
「牛の群れが襲ってきた時に何となく気になっただけで、気付かなくて当然よ。ほんとにちょっとした轍だったから」
「そう言えば、あの時牛がかなりの速度で走ってきたな……」
「あそこだけ木があまり生えていなかっただけだと思ったけど……」
言われてみると、確かに2人も何となくあの時ちょっとした違和感があったような気になってきた。
「……………じゃあ、そこ整備して道作っちゃえば?」
「「「……あっ!?」」」
元々道があったのなら直せば良い。
森を突っ切れば現在の悩みも解消され、他の町への進行もする事ができる。
何となく発したパメラの一言から、ようやく光が見えた事に3人は顔を見合わせて喜びの声をあげた。
「よし! 悩みも解決したし早速……」
「それより私お茶の誘いに来たのだけど?」
「そうだね、お茶にしよう!」
早速行動に移そうとしたマルコだったが、パメラの一言によって解決したのだから、お礼もかねてパメラの誘いを優先することにしたのだった。