第159話 アクティビティー
ナイホソに続いてダイシンの町を手に入れたマルコは、視察と言う名目の魔物退治に向かい、いつものようにアドリアーノに王都の方は任せて、護衛役のロメオと執事のクリスティアーノと共にダイシンの町に辿り着いた。
「へぇ~、ここがダイシンかぁ~……」
今回はマルコの妻のパメラも一緒である。
結婚した当初、パメラは王妃としてのマナーなどを習う為に毎日指導を受けていたのだが、最近ではマナーを習得した為、やることがなく時間が有り余っている状況でストレスが溜まっていた。
元々、結婚前は冒険者をしていたせいか、体を動かしたくて仕方がない性格なので、今回のダイシンへの移動は、旅行気分で楽しんでいた。
「……パメラ。一応どんな魔物が出るか分からないから皆からはぐれないでよ……」
パメラもかなりの実力の持ち主ではあるが、魔物は突然変異する場合もある。
久々の旅行のように、はしゃいで大怪我されるのが一番マルコが心配するところである。
「大丈夫よ。久々とは言え、私は元冒険者よ! 勝手な行動が危険を招く事ぐらい理解しているわ!」
マルコの注意に、パメラは若干イラッとしつつも冷静に答えた。
元冒険者の自分に対して、今更基本のようなことを言われた為である。
「ネレーア、クリスティアーノと共に食事の支度をしておいてね。今日は町の皆さんに魔物のお肉を沢山用意するから!」
「畏まりました」
パメラの側付きの侍女、ネレーアはパメラの指示に頭を下げて返事を返した。
ネレーアは、年が同じと言う事でパメラの侍女になったのだが、最近パメラが元気が無いのが気になっていた。
それに引き換え今日のパメラは、マルコと一緒に出掛けられるせいかとても楽しそうなので、ネレーアとしても嬉しくなり、優しい笑みと共にパメラを見送ったのであった。
「どんな魔物が出るのかしら?」
ダイシンの町の西側の森に入ると、パメラは嬉しそうにキョロキョロとしつながらマルコに話しかけた。
マルコとパメラとロメオの3人は、きちんと冒険者の格好をしている。
しかしこの格好も久々なせいか、パメラはテンションが高めである。
「奥の方に行く訳でも無いから、そんなに強い魔物には会わないんじゃ無いかな?」
このマルコの言葉を聞いて、パメラは意外そうな表情をした。
「えっ? 奥行かないの?」
「行かないっすよ。今回は町の周辺の森を見て回るだけっす」
パメラはマルコに尋ねたのだが、その質問にはロメオが答えた。
この場には3人しかいないので、ロメオは城内で使うような言葉遣いではなく、砕けた感じで言い方になった。
「……じゃあ、沢山の魔物のお肉を持ってくるってネレーアに言った私の立場は?」
「知らねっす」
「え~、ちょっとだけで良いから奥に行こうよマルコ!」
今回は町に近い場所を見回り、強い魔物が住み着いていないかの視察だと言うことを聞いていなかったのか、パメラは残念そうな表情になり、わがままを言い出した。
「ダメ! 今回は町の周辺を見て回るだけだからアドリアーノから許可が出たんだから」
一応と言ってはなんだが、マルコとパメラはルディチ王国の王と王妃である。
その2人が大陸内でも有名な、魔物が住み着く山に入るなんて、本来はもっての外である。
幾らマルコが強いと言っても、もしもの事がある。
その為アドリアーノも、マルコが山に入るなど反対するに決まっている。
その事が分かっていたので、マルコは町周辺を回るだけだと言って、渋い顔をするアドリアーノから了承を得たのであった。
「……しょうがないな」
パメラも自分の立場を思い出したのか、渋々ながら諦めたようである。
マルコ達が森に入り少し経つと……
「魔物出ろ♪ 魔物出ろ♪」
「……パメラ、不謹慎だよ」
「……全くだ」
なかなか魔物が出てこないので飽きてきたのか、パメラは嫌な事を軽い感じで呟きながら森を歩いていた。
マルコとロメオは、気持ちは分からないでもないので軽めに注意した。
「良いことじゃないか。町はしばらく安全だって言うことなんだから……」
「そうだけど……」
町の周辺に魔物がいない事は良いことだ。
それだけ今は危険が迫っていないという証しになる。
分かってはいても、久々だったせいか期待値が上がっていたので、パメラとしては残念である。
「それにそんなこと言ってると……」
「「「!!?」」」
言葉の最中だったが、3人は素早く察知し、それぞれが武器を構えた。
「グオオォォーー!!」
「……ほら、出ちゃったよ」
突如現れた魔物を眺めつつ、マルコは言葉の続きを呟いた。
パメラの言葉がフラグになったのか、ムッカ・グリージョと呼ばれる魔物が数頭現れた。
ムッカ・グリージョは灰色の毛並みの牛で、数頭の群れで行動する魔物である。
獰猛な性格で、縄張りに入った生物に容赦なく襲いかかり息の根を止める習性がある。
集団で襲いかかるので、対処が大変なのもあって、数にもよるがA~Sランク相当の魔物である。
しかし……
「牛よ! お肉よ!」
パメラからしたら、理想的な魔物が現れたことにテンションは最高潮である。
3人は元々冒険者としてSS以上の実力がある。
中でもマルコの場合は、SSSクラスの実力まで行っている。
つまり……
「ロメオ! 血抜きしやすいように首狙いなさいよ!」
「……良いじゃないすか。他にもこんだけいるんだから……」
あっという間に12頭の牛を仕留め、パメラに至っては食べるときの事まで考えていたのであった。
「魔法の指輪に入れて、次に行こうか?」
かなりのランクの魔物だったのだが、この3人からしたら大した相手では無かったようで、倒した牛を全部魔法の指輪に収納して、また周辺の探索を開始したのだった。
◆◆◆◆◆
「おかえりなさいませパメラ様。」
「ただいまネレーア。」
町の周辺を一回りした3人は、夕方になったので町に戻ってきた。
侍女のネレーアは、帰ってきたパメラを見つけて、町の出入口用の門の側で迎えに来ていた。
「いかがでしたか? 久しぶりのアクティビティーは……」
「全然魔物が出なくてつまんなかったけど、約束通りお肉手に入れたわよ!」
「左様ですか。クリスティアーノさんが捌いてくださるのでこちらに出して頂けますか?」
「分かったわ」
つまらなかったと言いつつも、楽しそうな表情のパメラを見て、ネレーアは笑顔で対応した。
結局牛の集団以外に大した魔物は現れず、しばらくは町は安全そうである。
「あとはギルドで冒険者に情報を出せば人が集まって来るだろう。人が集まれば商人もやって来るだろうし、この町なら少しずつ活気が戻るだろうね」
「王自らありがとうございました」
「じゃあ、今日は町の人を集めて食事会を開こうか?」
「はい!」
領主邸で領主に報告をしたマルコは、倒してきた牛を使った食事会を開き、その日は市民と一緒に楽しんだのだった。