第158話 棚からぼた餅
「傘下に入るって言うのはこのルディチ王国と、と言うことかな?」
突如謁見に来たダイシンの領主イヴァーノの発言に、気持ちを立て直したマルコは、改めて聞き返した。
「はい。その通りでございます」
マルコの問いかけに、イヴァーノは頷き答えた。
「……理由を聞かせてもらえるか?」
ダイシンはナイホソ同様、リンカン王国の強制的な徴兵によって若い男性がいなくなり、働き手が減っているのは分かっていることである。
しかし、ナイホソと違って人口の多さから残った人々が協力し合う事で、なんとか維持できていると情報は入っていた。
その状態であるならば、態々他国にすがらなくても大丈夫ではないかと思う。
マルコとしても、困窮していたナイホソよりもダイシンの方が、話し合いで手に入れる事は困難だと思っていた。
ダイシン領主のイヴァーノが、ルディチの傘下に入りたいと言う事は願ったり叶ったりである。
しかし、傘下に入りたがる理由に思い当たらず、マルコは率直に聞いてみることにした。
「畏まりました。」
イヴァーノは立ち上がりマルコに説明するために、ダイシンの町の周辺地図を取り出し、近くにいたルディチの兵に持って貰った。
「まず、我々ダイシンはナイホソの西に位置するのですが、町の西側は山になっております」
兵士の持つ地図を指差しつつ、イヴァーノは説明をし始めた。
イヴァーノが言ったように、ダイシンの西側は山に囲まれており、これまでも交流をしていたのは以前のナイホソと南のグウジャクの町だけである。
「ナイホソが衰退し、グウジャクとだけ交流を図っていたのですが、最近はグウジャクにハンソー軍が近寄って来ているらしいのです」
グウジャクの町は、以前リンカン王国王都のボウシカの北にある町である。
そのボウシカの町は今はハンソー王国が支配していて、この領土拡大のチャンスに、ボウシカからも侵略の機会を伺っているのだろう。
ボウシカの北のグウジャク、西のトヤ、南のチョジョーに、ハンソー軍が近寄っているのは当然だろう。
準備が整い次第、ハンソー軍がミョーワの軍と共に攻め込む予定なのだろう。
「それ故、危険になって来たため、グウジャクと交流する事が出来なくなってしまいました」
地理的に、2つの町としか交流出来ないのにも関わらず、2つ共と交流出来なくなり八方塞がりになってしまったのだろう。
「しかし、つい先日ナイホソがルディチ王国の傘下に入ったと情報が入り、遠くから眺めてみたところ、たった数日での外壁の修復や、門から町に入る人々の列の多さに驚きが隠せませんでした」
滅ぶ寸前と言った感じの町が、数日で復活したとしたらそれは誰でも驚くのが当たり前だ。
「……ナイホソとまた交流をする許可がいるために、傘下に入りたいと言う事かな?」
無くなるはずのナイホソが復活し、また前のように交流を図りたいと思っても、ナイホソはもう他国の領土になっている。
ナイホソを復活させた手腕と、戦闘による侵略ではなく、話し合いによって傘下に納めると言う行動に感化され、町の人々と話し合い、この国の傘下に入る事になったらしい。
傘下に入れば、以前のようにナイホソと交流出来、ダイシンの町もこの危機を乗り越えられる。
「……それが半分です。残り半分は西の山の奥地にいる魔物達が不安なのです」
ダイシンの西には幾つかの山があり、奥地には強力な魔物が住んでいると言う言い伝えがある。
山には多くの魔物が存在し、町には時折魔物が出現する。
若い男達がいた時は、集団で戦うことで難を逃れていたのだが、徴兵によって若い男性がいなくなった今では、いつ魔物が襲ってくるか戦々恐々としている状態である。
その恐怖を無くす事も傘下に入りたいと思った理由らしい。
「マルコ王は、巨大ドラーゴも倒すほどの実力の持ち主だと耳にしました」
チリアーコによる巨大ドラーゴの襲撃の事を言っているのだろう。
他の国は眉唾物だと聞き流したのだろうが、近隣の町では詳しく正確に話が広がったのだろう。
国の上層部が信じなくても、市民は話を信じたのだろう。
「うん。倒した」
マルコからしたら大した魔物では無かったので、マルコはイヴァーノの言葉に軽い感じで答えた。
「おおっ! では我々の町はルディチ王国にとっても都合がよろしいと思います」
「魔物がお金になるから?」
「その通りでございます」
魔物は金になる。
この世界では、魔物を退治した場合、その魔物の角や牙等の素材や、家の明かりや水道の為に魔石が使われている。
道具に魔方陣を描き、魔石を設置する事で用途に合った魔法を発動させることが出来る。
それによって、魔力が少なく、魔法が使えない市民でも家庭で火や水を使うことが出来る。
素材によって武器や防具を作り、冒険者に販売する事で資金を得られる。
魔石によって市民が家庭生活が楽になる。
この事から魔物が金になると言うことである。
「マルコ様。ダイシンの西の山から現れる魔物の素材は、他の大陸でも良い値で販売する事が出来ると有名です」
これまで黙って聞いていたアドリアーノは、イヴァーノを援護するように言葉を付け加えた。
「……いかがでしょうか? 我々をルディチ王国の傘下に入れて頂けないでしょうか?」
「うん。良いよ」
イヴァーノの言葉に、マルコは軽い感じで傘下加入の了承をした。
「元々、我々もダイシンと話し合いに向かう予定だったから、そっちから来て貰ってありがたかったよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
マルコの了承によって、イヴァーノは嬉しそうに感謝の言葉を述べた。
「それじゃあ、今からダイシンの視察に向かおうか? なっ! ロメオ!」
「マルコ様、ただ魔物退治に行きたいだけでは?」
マルコは嬉しそうに話し、早速ロメオとダイシンに向かう事にした。
そのマルコの表情にロメオはイヴァーノの前であるため、敬語でマルコに問いかけた。
「まあ、良いじゃん! それも重要な仕事だし……」
ロメオに図星を突かれても、悪びれる様子なくマルコは玉座から立ち上がった。
「マルコ!」
「!!?」
そこにパメラが、ノックもせずに入ってきた。
「……話しは聞いたわ! 勿論今回は私も連れてってくれるんでしょ?」
「………………はい」
昨日言われたばかりにも関わらず、パメラを誘う事を忘れていたマルコは、パメラの笑顔から発せられる圧力に断ることが出来ず、頷くことしか出来なかった。