第156話 疲労
「取りあえず町は直したし、人も増えた。後はこの町の人達とジルドに任せるからよろしくね」
移民には、まずルディチ王国の法律に従うこと、この町の住民の風習に習うことが条件として伝えられている。
ルディチ王国の法律とは言っても、他の国と大差ない法律なので気にすることはないが、この町の風習に習うと条件を出したのは、移民により好き勝手にされ、この町の人達が住みにくくならない為に出しておいた。
自分の故郷の風習を入れたければ、領主の了承を得る必要があるとも言ってある。
なので、この町の風習に慣れた後、嘆願書を提出して了承を得るように、町に入る時に説明がされている。
これでしばらく様子を見る事にして、マルコは一旦王都に戻ることにした。
「えっ? もうですか?」
まだ、この町がようやく再出発したばかりである。
ジルドは、自分はまだ領主としては幼すぎると自覚している。
領主としての自信が持てないでいる。
その為、マルコがいなくなることに不安な気持ちが沸き上がって来た。
「大丈夫、教師のドナテッラさんや、領主補助のステルヴィオさんに何でも相談するんだよ。それでもダメなら、近いんだからいつでも手紙を送るか人を寄越せば王国が力を貸すから」
そう言ってマルコは、ジルドの頭をポンポンと叩いて、ここ数日の魔法行使で疲労困憊の魔導師達が休んでいる宿屋に向かって行った。
ドナテッラさんは教師のお婆さんで、ステルヴィオさんとは、最初王国から派遣しようとしていた領主を補助する経理や書類作成などの行為をする役職を任せた、この町のお爺さんである。
昔ジルドの祖父の下で働いていた経験があったらしいので、地元の人がジルドの側についた方が良いと思い、頼むことにした。
「ハーイ、皆さんお疲れ様でした。そろそろ王都に戻りますよ」
宿屋で連日の魔法行使の疲れから休んでいた魔導師達を集め、作業が終了したので帰るように話した。
「皆さん今回の事でかなり疲れていると思います。アドリアーノにも言っておいたのですが、少しですがボーナスを出すように言ってあります」
「オオッ!」「やった!」
ボーナスの言葉を聞いた魔導師達は、思わず声をあげて喜んだ。
それまで疲労からか、魔導師達は固い顔をしていたのだが、一気に明るい雰囲気に切り替わった。
「それじゃあ帰りましょう!」
「ハッ!」
マルコの合図によって、魔導師達はマルコの後を付いて歩き出した。
「じゃあ、クリスティアーノ皆に合わせた速さでよろしく」
「畏まりました」
魔導師達は普通の馬車で、マルコは一応王なので貴族用の馬車で王都に向かう事になった。
普通の馬車は振動が辛いので、御者役のクリスティアーノに、マルコはなるべくスピードを落として進むように指示を出した。
町の通りを通り、町から出ていく用の門に向かって進んでいった。
「マルコ様!」
門の手前の道には、マルコが王都に帰る事をジルドが知らせて集めたのか、この町の生き残りだった人々のほとんどが、道の脇でマルコの馬車を見送るため集まっていた。
老人や少しの女性、子供達が、初めて来たときとは反対に明るい顔をしてマルコの馬車に手を振っていた。
「皆元気になったみたいだな?」
マルコの護衛として同じ馬車に乗るロメオも、町の人達の笑顔に嬉しそうに顔を綻ばしていた。
「やっぱり皆笑顔が一番だよ」
マルコも町の人達の笑顔が見れて、とても嬉しそうにしていた。
「魔導師様達もありがとうございました!」
町の人達は、マルコの馬車が通り過ぎると、後ろに続いていた魔導師達の馬車にも感謝の言葉と同時に手を振りだした。
魔導師達の馬車は周りを囲う物がないため丸見えで、魔導師達は自分達に感謝の言葉と手を振っている町の人に、嬉しさで照れたような表情をしながら手を振り返していた。
「魔導師の皆も満更でも無さそうだな……」
マルコの馬車から後ろの様子を見て、ロメオは思わず笑ってしまった。
「今回は彼らに苦労かけたからね。こんなに感謝されて良かったよ」
自分も町の修復に関わったが、マルコの指示とは言え外壁修復や家の建設など頑張っていた魔導師達も感謝された事に、マルコも申し訳なかった気持ちが少し軽くなった気分である。
最後の方は、町に入ったばかりの移民達も加わりちょっと盛大な感じになりつつ、マルコ達はナイホソの町から出ていったのだった。
◆◆◆◆◆
「お帰りなさいませ、マルコ様。」
王都に戻り、王城の玉座に座ると、アドリアーノがすぐに室内に入ってきた。
「悪かったね。しばらく王都を離れてて……」
「いえ、こんなに早くナイホソも復興し始めたようで喜ばしいことです」
マルコがいない間、ほとんどの仕事をアドリアーノに任せていたのでマルコは一言労った。
「しかし、私はともかくパメラ様が……」
「マルコ!!」
アドリアーノと話していたら、パメラが血相を変えて室内に入ってきた。
「えっ!? 何!?」
「また私を差し置いて楽しんで来たみたいね?」
「えっ? いや町の修復をしてきただけで……」
「何で私も誘わないのよ! お城にいてもすること無くて暇なのよ!」
「いや、でも……」
「次出掛けるときは私にも知らせなさい!」
「…………はい」
パメラにまくし立てられ、マルコは反論出来ない感じになった。
その後もパメラの愚痴のようなものが続き、町の修復の疲労よりもこちらの方が大変な思いをするマルコだった。